ha | za | maを揺蕩う、泡沫の服

夢の中みたいだ。


〈見えないものを見ようとして見上げた夜空のシャツワンピース〉をはじめて見た衝撃は、この言葉がぴったりだった。

まるで霧の中で灯るロウソクのような、
掴んだと思ったら消えてしまいそうな、
一瞬の輝きのあとには存在すらしていないような、けれどそこにある、
刹那を固めた泡沫の服。

それ以来、ha | za | maのもつ魅力に、見事にはまってしまった。

〈見えないものを見ようとして見上げた夜空のシャツワンピース〉は、ファッションブランド ha | za | ma の商品だ。製作者は同ブランドの代表・松井諒祐さん。

ブランドを立ち上げたきっかけは、大学生後半に感じていたことから。

当時、大学生だった松井さんは同級生達が就職を選ぶなか、別の道に行きたいという思いから服作りの道を選んだ。

ブランド名のha | za | ma は、”生きざま・狭間”という意味。特定の世界に属さず、色々な世界にアクセスできる”狭間”を揺らぐ存在になりたい、という想いが込められている。

"狭間"……なるほど、たしかにそうだ。
夢と現実

理性と本能

理想と現状

過去と未来 

いつだって僕たちはたくさんの"狭間"で生きている。

「就職から逃げたい気持ちが勝っちゃった」(*)と語る松井さん。彼自身も"狭間"の経験者だからしからこそ、多くの心に寄り添える世界観を作り上げられたのだろう。

* https://www.google.co.jp/amp/s/officialmag.stores.jp/entry/2017/03/10/130000%3famp

それはまるで記念撮影のような


ha | za | maの服はどれも独特な名前がつけられている。

松井さんによる、偶然や知識からくる閃き。巧妙に練られたソレは、数秒しか見られないとされるSNSで、画面の情報以上の奥行きを僕たちに想像させてくれる。

〈みえないものを見ようとして見上げた夜空のシャツワンピース〉
〈シャツとドレスの二重奏〉
〈経年真価のセットアップ〉
〈踊らされる運命の燕尾シャツ〉
〈夏かしのワンピース〉
〈描いて、殴って、書き殴ったカットソー〉

〈惹きずり込まれる運命のヒールパンプス〉
は刺激的なビジュアルと題名からSNSで爆発的に話題になり、以来 ha | za | maのブーツやヒールは海外でも反響の声があがる。

単なる言葉の羅列から生まれる、文字数以上のストーリー。それは各々の似たような記憶に繋がり、まるで自分の人生の一部分を切り取って服にしたかのような錯覚に陥る。


懐かしくて、切なくて、戻ることはないのに、色あせることなく焼き付いているイメージ。

簡単に言ってしまえば、 ha | za | maの服はエモさを纏っている。


ha | za | maという生き様


松井さんは服作りを徹底的にこだわりぬく。頻繁に呟く松井さんのTwitterには、彼の想いの片鱗が表れている。

特に印象的なのは、ずいぶん前に見たはずなのに未だに忘れられない、あるツイート。

松井さんの大事にしている考えのようで、こんなツイートもしていた。


見た当時は、大学に入りたて。着たい服があるのに、みんなの好み服を着ないといけない、同調圧力のような雰囲気を感じていたときだった。

そのせいかもしれない。「着たい服を着て、なりたい自分になればいいじゃん」言われているようで、僕の気持ちはスッと軽くなった。


松井さんにとって、ファッションとは"最高の生き様"であるという。
記事のインタビューで、松井さんはこう答えている。

https://www.google.co.jp/amp/s/officialmag.stores.jp/entry/2017/03/10/130000%3famp=1

”最高のファッションは生き様”って僕は思っていて、結局どんな良い服を着ても生き方が格好よくないと素敵じゃないし逆に生き方が格好いい人って何着ても素敵なんですよね。
ファッションブランドをやっていてこういう考え方は矛盾してると思うんですけど、格好いい生き方のきっかけに少しでもなれたらなって思います。

デザインだけでなくルック撮影にもこだわりを見せる。それぞれの服が発する、空気感をも伝えるため自らモデルの依頼を出し、撮影にも同行しているようだ。

2019-20 A/W、70万円の製作費をかけて作ったコートが売れなかったことに対してはこう呟いている。

70万円をかけて服をつくること、それはたとえビジネス的に意味がないとしても、今の松井さんにとって必要であり。したかったこと。

自分の意思を貫き、誇りもって、生き様を追求する。松井さんにとっても ha | za | maというブランドは、格好いい生き方のきっかけとなっているのかもしれない。

〈大人に向けたセーラー服〉は学生時代、松井さんが制服デートをできなかったことからスタートしたという。これを着れば大人でも制服デートができる。欲望に素直な点も見習いたいところである。


選んできた道のりに、意味を持たせる


松井さんはBUMP OF CHICKEN (以下BUMP)のファンを公言しており、時折そのイメージを服に落とし込む。
冒頭のワンピースのほか

〈アル子に似合う白いブラウス・青いスカート〉

はBUMP のファーストアルバム"アルエ"の歌詞、

白いブラウス似合う女の子 なぜいつも悲しそうなの/青いスカート似合う女の子 自分の場所を知らないの

から着想を得たものだ。

"アルエ"はもともと、BUMPのヴォーカル 藤原さんがエヴァの登場人物"綾波レイ"に恋したことが発端の曲。松井さんの熱意とhazamaの雰囲気が見事に"アルエ"融合し、ミステリアスな魅力を醸し出している。

先日発表されたばかりの 2020SS〈祈跡的軌跡のトレンチコート〉は大好きなロストマンのPVからイメージを膨らませたという。

細部にもこだわり抜いており、特に赤のステッカー部分はyou were hereの文字が刻まれており、文字通り、そんまんまである。きっとこのコートも、使い続けた記憶の分だけ、着るたび化石みたいに喋りだすのだろう。


ほかにも佐倉綾音さん・梶裕貴さんとのコラボで製作された〈あの日宝石になったサクラ式ドロップのワンピース〉は、 BUMPのほかに、佐倉綾音さんのサクラ、そして宇多田ヒカルのSAKURAドロップスの要素も含まれている。

自分の好きになったものを仕事に落としこむ。これまで人生に一つ一つ意味を持たせているようで、大人だけの楽しさが伝わってくる。




―――

松井さん曰く、”反骨精神”だというファッション。おとぎ話から出てきたようなシルエットは、着る人、見る人を夢の中へと誘う。

我々は夢と同じもので作られており、我々の儚い命は眠りとともに終わる

というシェイクスピアの作品の一節を思い出した。

夢と現実は合わせ鏡で、夢は現実の裏返し。だとするならば現実も夢のようなものだ。

どうせ夢ならば好きな服を好きに着て、好きなように生きてみたい。 格好いい生き方を後押ししてくれるha | za | maの服。

2020SSはまだまだ公開途中。どんな服が、どんな生き方を伝えてくれるのか、とても楽しみだ。


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