読書【書く技術 〜なにを、どう文章にするか〜】感想
文章の書き方の本です。
『美辞麗句は不必要です。文章で一番大切なことは内容です』
『書けない理由の九割は、何を書けばいいのかハッキリしないことにある。書くべきことがあれば書ける』
『作家が、もっとも気を使うのは書きだしとラスト』
『序論と結論が矛盾しないように書きなさい』
なんて事が書かれています。
「〜になる」は、その状態に自然に達する意味で、【親になる】は自然に親になること。
「〜となる」は、意図的になる意味で、【親となる】は意識して親になる努力をした結果、そうなること。
そういう言葉の違いを意識しなければならない。
文章は内容です。と言いながら後半は、けっこう細かい文章のルールを述べています。
「あげる」は敬語だから犬や猫には「やる」でよろしい!
とか書いていました。
…んー。目上の人に「あげる」なんて言いにくいなー。本当に「あげる」は敬語なのか?
調べてみたら昔は敬語表現だったけど今は丁寧語表現。目上の人には「差し上げる」がよいでしょう。だって。
危ない危ない。鵜呑みにせずに調べるって大事。
事細かなルールを挙げたあとで
『達意の文章を書くには文章の基礎を身につけたうえで、あえてルールを破る』
ときた。文章は奥が深い。
本当に文章は奥深い。
編集者の渡部は感嘆の溜息を漏らした。渡部はメールで送られてきた原稿を読み終えたばかりだった。
原稿の送り主は竹崎象二。
今世紀最後の文豪といわれた、あの竹崎象二である。
【楡の林の陰の下】の竹崎象二である。
【さよならという奇跡】の竹崎象二である。
【ぺーさん酒場にゃ御用心】の竹崎象二である。
その竹崎象二の最新作【舌切り御免】が担当編集者である渡部の元に送られてきたのだ。竹崎象二の最新作は最初の行から最後の行まで、つまらない所が一切なかった。全てが圧巻の出来であった。渡部は、この最高傑作を誰よりも早く読めたことに幸せを感じていた。
竹崎象二は、もと校正者あがりの作家で誤字脱字を出さないことで有名だった。だから【舌切り御免】の文中の
『佐吉の剽軽な物言いに、みな抱腹絶、倒の様相を呈した。』
という文章に渡辺は違和感を持たなかった。
『抱腹絶倒』という四字熟語を句読点で割る。そういう文章のルールを平然と壊すところに竹崎文学のある種の凄味を感じた。
「ほうふくぜっ、とう」
渡部は抱腹絶倒を句読点のとおりに割って読んでみた。『抱腹絶倒』と素直に書くよりも抱腹絶倒感がでている気がする。
抱、腹絶倒でもない。
抱腹、絶倒でもない。
抱腹絶、倒。
これしかない。ここにしか句読点を打つところはない。今世紀最後の文豪といわれた竹崎象二の文章は、もはや一個人の自我意識を超えて宇宙の核心を貫いている!!
渡部は、あらためて感嘆の溜息をついた。
一時間後、竹崎象二から渡辺へメールが届いた。
「渡部様、先ほど『舌切り御免』の原稿データを送りましたが一箇所、テンの打ち間違いを発見しました。125ページ8行目の【抱腹絶、倒】は【抱腹絶倒】です。言うまでもない事ですが念のため。」