読書【ストーリーメーカー】感想
『ストーリーメーカー』完読。
「物語作成」のためのマニュアル本。
「物語」には「物語」を「物語」たらしめる内的な論理性があり、それは「物語の構造」とか「物語の文法」と呼ばれるものである。
会話が言葉の組み合わせで成り立つように「物語」も「物語を作る最終単位」の組み合わせで作れるのではないか。
物語は機械的にシステマチックに作ることが可能である。
と本書はいいます。
そういう考えに拒絶感がある人もいるでしょう。
物語を作るっていうのはそんな冷たい作業じゃない。
心の内からほとばしる情熱があるから人は感動するんだ。
そういう人にはこの本が紹介する方法論は邪道と捉えるかもしれません。
物語の基本構造は二つ。
「欠落の回復」パターンと「行って帰る物語」パターン。
「欠落の回復」は身体の一部の欠落や心の傷が最後に回復する物語。
ぽっかり空いた心の虚しさが最後は満たされる。そんなストーリー。
「行って帰る物語」は主人公が未知の世界に飛び込んで、そこで様々な体験を通して『精神的に大人になって』帰ってくる物語。
行って帰る物語は【鏡の国のアリス】や【ハリーポッター】のように実際に未知なる世界に入り込むのが基本。
だけど、必ずどこかへ行かなければならない、というわけではない。
未知なる世界、つまり『知らない事を見る』という行動も、ある意味「行く」ことになる。
例えば、妻の秘密の日記を見てしまう。
というように。
主人公にとって日記は非日常の世界。
その日記を読むということは「向こう側」へ行くことである。
そして読み終えた瞬間に「こちら側」へ戻ってくる。
「欠落の回復」か「行って帰る物語」のどちらか、あるいは両方の要素があれば、それは物語である。
朝からのひどい頭痛は結局、午後になっても治らなかった。
やならければならない重要な業務だけを片付けて午後からは有給休暇をとり帰宅した。
久しぶりに明るいうちに帰宅したが妻はいなかった。
妻の様子に違和感を覚えたのは半年前からだった。
私に内緒でコソコソと外出をしている。
そんな素振りが見え隠れしていた。
妻は浮気をしている。
疑惑は、いよいよ色濃くなった。
頭痛は薬を飲んでも一向によくならない。
少しでも痛みを沈めるために私は冷水を浴びることにした。
着替えの家着を準備し妻の鏡台を横切ったとき薄桃色の本が目に止まった。
妻の日記だった。
丁寧に装丁された鍵付きの日記だった。
手に取ると、ずっしりと重かった。
その日記の鍵は外れていた。
しばらく日記を見詰めて私は日記を元に戻した。
浮気をしているかも知れない妻。
その答えは、この日記を中にあるかも知れない。
だからと言って人の日記を盗み見てよい道理はない。
鍵が外れた鍵付きの日記。
私は見なかったことにして浴室に急いだ。
とにかく頭痛を何とかしたかった。
冷水シャワーを浴びながらも脳裏に日記がちらついた。
見なかったことにした日記が。
シャワーを終えて再び妻の鏡台を横切る。
そして目に止まるのは、あの日記。
そっと日記に触れた。
そっと日記を持ち上げた。
やはりずっしりと重い。
固い表紙を、そっと開いた。
最後の書き込みの有るページ、つまり今日の日付までめくった。
12月12日。
早く旦那さんにも知らせた方がいい。
昨日、先生に言われた事が頭から離れない。
なんて言おう。
なんて話そう。
末期の乳癌。
あの人はきっと取り乱すにちがいない。
今日の検診の結果で決めよう。
ごめんね。
あたしがんになっちゃたよ。
そっと日記を閉じた。
癌に。
妻が癌に。
身体が震えた。
抑えきれないほど震えた。
そうか、あいつは癌になったのか。
自然に笑みがこぼれた。
いつの間にか頭痛は治っていた。
「欠落の回復」と「行って帰る物語」を両方入れてみたけど、ちゃんと物語になってますかね。
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