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作家の生態学・幻冬舎『ミステリーの書き方』

お世話になっております。素人以上作家未満の管野光人です。

今回は小説指南書のススメとして、作家を目指す方なら必ず持ってほしい書籍を紹介します。


尻尾まで食べられる美味しい『ミステリーの書き方』

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それこそが日本推理作家協会編著『ミステリーの書き方』(幻冬舎)です。

小説指南書のオススメで、必ず選ばれるのが本書の通称“赤本(文庫だと黒)”です。

タイトルこそミステリーになっていますが、すべての作家志望者ならびに作家に向けられた内容になっています。

なぜオススメかというと、日本推理作家協会に所属する137人の作家が本書に参加しているからです。

その帯には、東野圭吾さんの一言。

「多くのミステリー作家は、どうやって作品を生み出しているのか。」「一言でいえば、苦労して、です。」

ブッチャケすぎかと思いますが、これが作家の本音なのでしょうね。

それにしても驚かされるのは本書の厚さ、ノギス計測30ミリもあり重厚感がハンパない。

その内容も比例してハンパないのです。

作家を目指す方なら、まえがきの2ページから巻末の480ページまで、血となり肉となるコトを保証しますゾ。

まさに骨まで食べられるサバの味噌煮です。圧力鍋いらず。

次からは『ミステリーの書き方』のツボを紹介しましょう。


北方謙三さん、かく語れり

「文体について」についてインタビュー形式で綴った章では、御大・北方謙三さんが熱く語っています。

その内容たるや、

ヘミングウェイの文体をめぐって

形容詞の使い方/新人たちの個性のない文体/形容詞を使わない稽古

改行について

文体の条件

アマチュア作家の原稿に朱を入れる

どうです? 濃ぃいでしょう。

なかでも印象的だった言葉が、

「“しかし”っていう言葉を効果的に使うのがテクニックなんだ。」
「そのテクニックを身につければ、“しかし”を使ってもいい。」

「“しかし”を使っちゃいかん」と禁止しているのではなく、その言葉の効果を知るまでに、かなりの量を書かないといけない、と断言しているのです。

自分はその言葉を胸に、“しかし”を限定的に使っております。

もちろん、北方流のキビしい言葉も抜かりなく、

「今新人賞に応募してくる人たちっていうのは、二本目、三本目の作品なんだ。それって何だ? そんなの書いたうちに入らん(笑)。」
「体言止めはやるべきじゃない。安直すぎる。」
「使うのは疑問符だけ。それ以外は使わない。」
「最後のマスに丸を打つくらいの気持ちで書く。」

いやいや、勉強になります(正座)。


石田衣良さん、会話で踊る

「会話に大切なこと」の章では、直木賞作家・石田衣良さんが軽妙に書いています。

その内容は、小説家養成講座の講師である「ぼく(おそらく石田さん自身)」と、講座の優等生である「若い美人(推定24歳)」の会話で綴られています。

実はこの章、アメリカ版『ミステリーの書き方』 (講談社文庫)を向こうに回したモノだと思いました。

なぜならば、アメリカ版の「会話」の章が読んでいて凡庸な内容だったからです。

それで石田さんは「それなら僕が」とウィットに富んだ、ほとんど会話だけで要点を伝える構成にしたのだと推察しました。

それが証拠に、本文13行目でアメリカ版に言及しているのですよ。まあ、両方を読むほど奇特な人は少ないですからね。


作家43人が明かす、極秘の執筆作法

本書の大部分を占めるのは、テーマを決められた43章です。

それぞれの章で、有名作家が執筆作法を惜しげもなく披露しています。

ちょとだけ紹介しますね。

オリジナリティがあるアイデアの探し方 東野圭吾

プロットの作り方 宮部みゆき/乙一

真ん中でブン投げろ! 朱川湊人

ブスの気持ちと視点から 岩井志麻子

書き出しで読者を掴め! 伊坂幸太郎

手掛かりの埋め方 赤川次郎

タイトルの付け方 恩田陸

どうですか、読みたくなっちゃったでしょう?

岩井志麻子さんのタイトル、いまならアウトになる可能性が……。

このなかで特に心に残ったのが、赤川次郎さんの言葉でした。

公募新人賞の選考委員をやっていて思ったコトを綴っています。

「登場人物を愛さないといいものは書けないと思うのですが、そういう愛情が感じられない。」
「技術的にたいしたことがなくても、登場人物が生き生きと書いているほうがいい。」
「主人公が印象に残らない小説はダメですね。」

けだし至言ですね。

執筆に向かうとき、ついマス目を埋めるコトに頭が行きがちです。それでは登場人物との会話になっていないと、あらためて胸に刻みました。

正直、本書以上の指南書は今後でてこないでしょう。幻冬舎さん、ありがとうございました。


本音だらけの「ミステリーを書くためのFAQ」

特筆すべきは、章のあいだに挟まれた「ミステリー作家への質問」コーナーです。

26編からなる質問の内容は、

執筆する前の儀式や縁起担ぎはありますか

ラストシーンや犯人を途中で変えたりすることがありますか

プロットを立てる具体的な方法があれば教えてください

理想とする作品とその理由を教えてください

推敲するときに気をつけていることは何ですか

作家志望の方にアドバイスがありましたらお願いします

特に心に残ったのは、「理想とする作品を教えてください」の箇所です。

そこで石田衣良さんが、次のような言葉を語っています。

「ものをつくる人間は、自分のなかに神をもたなければいけないと思います。それが特定の作品であるようでは、いけないと思います。」
「ある作家への個人崇拝などは、作家として幼いと思うのですが。」

う~ん、失礼ながら自分は石田衣良さんの作品は読みませんが、その言葉は作家を目指す人には金言だと思います。

最後の「作家志望へのアドバイス」は、必見ですね!

なぜならば、ほとんどの作家が、とにかく書き続けるコトの重要性を説いています。

「最後まで書くこと。」

「へこたれず書きつづけること。」

「とにかく書くこと。まずは書く凡才たれ。」

「毎日コツコツ書くしかないと思います。」

「理屈はあとでついてくる。書くこと。」

「書き続けることが、最も大きな才能だと思うこと。」

後継に熱いエールを送る言葉が多いですね。

それなのに、本音も忘れずに吐露しています。

「あまりもうかりません。」

「まず。えっと。作家というのは、喰えません。」

「やめた方がいいんじゃないかと……。」

「悪いことは言わないから、人生をもっと大切にしなさい。」

「平凡な幸せを捨てないと作家にはなれません。」

この突きはなし方が本音であり、それ以上に「心馳せ」でしょうね。

結局、作家とは、熱情と冷静のあいだに棲む人種。

それでも作家を目指す方には役立つ書籍、『ミステリーの書き方』を心の友にしてみてはいかがでしょうか。



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