2024/10/19　不定期連載『クロスセクション』2 KA君の場合

　KA君もまた東京西郊住まいだ。
　しかし、HS君やMSさんと違う育ちだった。都心から移り住んできたのだ。育ちは悪くない。家に外車の一台や二台はふつうだ。
　彼にはヴァイオリンの心得もある。
　KA君はむしろ、公立高校は滑り止めに過ぎなかった。
　不本意だったに違いない。はにかむような笑顔の対応は、現況への必死の抵抗であった。
　だが、後輩ながらKA君はHS君に媚びを売ることは決してなかった。KA君の父親は何でも外務官僚で、彼自身ものちに外大に進学している。
　学年途中から吹奏楽部に入ってきて右も左も分からずいじられ放題のHS君を、年下の場に慣れたKA君はどう見ていただろうか。その後の人生の縮図がそこにあった。

つづく

2024/10/19　ここまで