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超情報化社会の逆張り戦略:「チ。」と「侍タイムトリッパー」に学ぶ本質の伝え方

現代の情報社会には「確からしい情報」があふれている。

ここでの「確からしい情報」とは、単なる正しいと思える情報ではなく、信頼できる根拠に基づいた情報を指している。(数学においては確からしさは確率を意味する)

たとえば以下のような情報が「確からしい情報」に該当するだろう。

- 発信元が信頼できる一次情報
- 専門家の経験に基づいた見解
- 根拠あるデータに基づく分析
- AIが膨大な情報から導き出した予測

これらは一見「信頼できる正しい情報」とされるかもしれないが、「正しさ」を決めるのは人である。そして現実には人々は常に根拠に基づいた「確からしい情報」を信じて行動しているわけではない。

たとえば、ワクチン接種は専門家の科学的根拠があっても不安を抱えながら受け入れる人もいる。
科学的根拠は分からなくても、現代の科学進歩を信じ、社会から必要だと言われたものを「確からしい情報」と認識して信じている。

そして、時代や社会において「確からしい情報」は移り変わる。

かつて科学がまだ進んでいない時代には「大仏への祈り」が、その時代において未知の病へのアプローチ方法として「確からしい情報」として認知され、信じられていた。

その結果、大仏自体の効果は別として、少なくともその時代の中では人々の不安を解消することに役に立つものであったと考えられる。

根拠はその時代のロジックにより作られるため、絶対的ではない。

そして、「確からしい情報」は「確からしくない情報」と比べて、いつも価値を持っているとは限らない。

人によっては「確からしくない情報」に価値を見出すこともある。たとえば、ネットミームや風刺漫画のように、表面的には意味が薄いとされる情報が新しい議論を生み出し、予想外の形で価値を持つこともある。

情報が持つ「確からしさ」の価値が絶対的ではないのは当然として、問題は「確からしさの陳腐化」だ。

確からしさの陳腐化:情報の価値低下の問題


インターネットやSNSの普及により、「確からしい情報」が量産・拡散され、かえって陳腐化している状況が見られる。

この確からしさの陳腐化により、人々は「役に立ち、意味がある」とされる情報よりも、「役に立たないが面白い」情報や「意味はなくても議論を生む」情報に惹かれるような傾向が強まっている。

また、情報が個人の興味や時間軸に応じて価値を持たなくなることも少なくない。ある時点で役立っていた情報も、時間が経つにつれ価値が感じられなくなり、かえって確からしい情報が「嘘くさい」「古臭い」とすら思われることがある。

解決策のヒント:逆張りの逆張り


この問題に対し、最近見たアニメや映画から解決策のヒントを得た。

アニメ『チ。-地球の運動について-』


ネタバレはしたくないので詳細は書かないが、是非1話〜3話を観て欲しい。作中では社会の価値観に対して「逆張り」を行い、さらにそれを裏返す「逆張りの逆張り」を重ねることによって、シンプルで確かな価値を再認識させる流れを用いている旨を作者が語っている。

作者の魚豊さんの言葉を借りれば、「シンプルなことを最初に言っただけでは、重みや説得力が感じられないが、逆張りを重ねることでその価値が浮き彫りになる」という手法である。

この手法は、陳腐化した「確からしい情報」の再評価に有効であり、現代における本質的な価値を鮮明にするアプローチといえるのではないか。

映画『侍タイムスリッパー』


 また、低予算ながらも最近話題を集めている『侍タイムスリッパー』もまた「逆張りの逆張り」によって、単なるコメディやアクションの面白さを超えた本質的な価値を再確認させてくれた作品である。

現代の価値観と対照的な「本物の侍」というキャラクターが真剣に悩み、喜び、悲しむ姿を見せることで、現代では当たり前となってしまった「確からしさ」を改めて考え直させ、普遍的な人間性の重みや現代の幸せについての「確からしさ」を感じさせる。とても素晴らしい作品なので是非映画館で観て欲しい。


これらの作品からは「確からしさ」や「意味」が陳腐化するリスクに対し、逆張りを重ねることで新たな価値を生み出す方法が学べる。

つまり、確からしい情報に埋もれがちな時代だからこそ、「あえて異なる視点を持ち、その視点さえも問い直す」ことで、シンプルかつ本質的な価値が浮き彫りにされるのだ。

戦略とは戦いを略すること。

情報の価値が急速に変化する時代、大量の確からしい情報、正論だらけの世の中で、情報の本質を見失わずに伝えるためには、逆張りを使いこなして、戦わないことが重要だ。

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※参考
チ。 ―地球の運動について―>なぜ心を揺さぶられるのか? リアルな人間を描く 作者・魚豊に聞く
https://news.yahoo.co.jp/articles/d03f68e5099fe764f5f8a0b5bf39575526ac531e

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