パロディスター 製作日誌④
傘を差すほどでもない小雨が降っていた。
手持ちが足りなくてホテル代を借りたことが気まずくて、女とはさっきから会話が続かない。
一向に名前を思い出せないこの女は”自分のことをいい女だと思い込んでいる”ことを抜きにすれば悪い女ではないのだろう。
だけれど、流されるままにこのまま喫茶店にでも入ってしまえば余計な質問をいくつかされて、げんなりした気持ちになることは目に見えていた。
”ねえ、昨日言ってたの嘘じゃないよね?あたしのこと好きって”
確かに、女を不安にさせてこんな質問をさせてしまった非はこちらにある。
だけれど日曜の昼日中に”ぎょうざの満州”の前でこんな馬鹿げたことを聞いてくる女のセンスの悪さと二日酔いのダブルパンチで、喉の奥に酸味がかった何かが込み上げてきた。
早くこいつをタクシーにぶちこまないことには、ただでさえ気分の悪い休日が月曜の朝より憂鬱な日に変わってしまう。
右肘に絡みついてくる女の手を振り払い、マルボロに火をつけることで質問に答えたつもりだった。
”ねえ!本当に好きなの?”
そう言って、うっすら涙を溜めてこちらを睨みつけてくる女は昨日のベッドの中よりもセクシーな顔をしていた。
名前も思い出せない女、残念だけどもう会うことはないだろう。
味のしない煙草をアスファルトで踏み消し、さよならの代わりにこう答えた。
いや、映画もすっごい好きなんやけど。音楽はものごっつ好っきゃのよ。
わかってくれる、この違い?好きって200種類あんねん。
やっぱ映画館で過ごした時間よりライブハウスにおった時間のほうが圧倒的に長いし。
バンドマンの友だちごっさようけおるけど、映画監督の友だち3人しかおれへんし。
っていうかこのウェブログを遡ってもらえたら出てくるんやけど”ONE CAM SHOW”っていうのもやってて。
まん延防止やなんやでライブハウスもバンドマンもヘトヘトになってるときに、わしがこの世界を救っちゃる!
ってキマりきったシャブ中レヴェルにアッパーなプロジェクトもやってたくらい、バンドとライブハウス好きぃ。
ほんならここらへんで”パロディスター”と音楽のこと絡めていくで、待っとってや。あと河内弁やめてもいい?
”パロディスター”にはThePlashmentsというバンドが出演してくれてます。
もちろん友だち。みんな大酒飲みだけど、4人だけで朝まで飲んじゃうエピソードはちょっとキモい。
ロックバンドっていうかパンクバンド!でもみんなの想像するパンクバンドじゃない。70sUKパンクだぜ?
革ジャンとか着ない、カットソーでパンクやってっから。コータくんの詞はシニカルなんだ!
まあ、とりあえず聞いて。当然ビデオは俺が作った。
それからBGM担当してくれたのが高田風。
本編にもちょっと出てくるんだけど元々はWalkingsっていう世界で一番イカしたバンドをやってた男。
それが解散してから、こいつはなぜかギターを置いてSP404っていうサンプラーをぶっ叩き始めた。
根が音楽オタクだったってのもあるけど、これがハマって今はトラックメイカーでバリバリやってる。
なんと1000日間!修行のように毎日必ず作曲してた時期があって、その膨大なトラックから”パロディスター”のBGMを選ばせてもらった。
マジの大天才だからみんなチェックしてて欲しい。
おわかりいただけだろうか?
ThePlashmentsのパンクロック、高田風のサンプリングミュージック。
そう、マッドアマノの”反体制”と”コラージュアート”という事柄に対するアプローチミュージックなんや!
みんな、先生の言うてることわかるかー?わからん奴はもう帰ってええぞお。
つまるところ”パロディスター”劇中内に流れる音楽は僕がへらへらDJ気分でチョイスしたミュージックなんかではなく、
マッドアマノのキャラクターとアーティスト性に通じた音楽であるということなのです。
ちなみにOP映像の曲も”BABY FIRST”というパンクバンドの曲を使わせてもろてます。サンクス、マイメン!
ドキュメンタリーのBGMってけっこう難しくて、おいそれフリー素材ちゃうか?みたいな音楽が平気で使われてたり、風景多いなと思うたらようわからん歌モノの曲が流れてきたりとか、なんか画的に寂しいから音楽入れたん違うけ?みたいなんがちょいちょいあって、私はそういうのとってもとってもとってもとっても気になってしまいます。やっぱ劇伴がダサいとそれだけで映画の価値ってさあ、
と言っている僕の首元に何かが触れた。ビニールの紐だ、引越しとかで使う、新聞とか括るようの、名前わからんやつ。ほどいて”ポンポン”とか作るやつあるやん、低学年の運動会とかで作らされた、そうそうあれよ。あの紐がきゅっと首にまとわりついたかと思うと一気に引き上げられた。
紐で括られた首を支点として、背負い投げの要領で僕は見知らぬ大男の背中に釣り上げられていて、呼吸ができない。
空中に浮いた足をじたばたさせながら、ポケットからiPhoneを取り出した。パロディスターのプロデューサーからの電話だ。
「あ、もしもし?監督、今日はそちらにうかがえなくてすみません。ただ、余計なこと言う前に先手を打っとこうと思いまして。今回はヒットマンを用意させてもらいました。190cmのセネガル人の男性です。僕も”MOON and GOLDFISH”の劇場公開あって手が離せないんですよ」
僕は白目を剥きながら全身の穴から体液を垂れ流しつつ、最後の力を振り絞って答えた。
「はい、6/27のトークショーお邪魔させていただきますっ!」
7月はこっちね。劇場で待ってる。前売り券まだまだ発売中。