相転移~Phase transition~
こんにちは。今日もアウトプットしていこうと思います。今回のテーマは相転移についてです。主に運動制御の分野において使われている単語だと思います。
この相転移が選手にアプローチするときに重要な意味を持つので勉強していきましょう。
運動制御を考える際に重要なこと
先日のCampfire sessionでは「競技力向上のためにできること」というテーマで医師の齊田先生とアスレティックトレーナーの桂さんが登壇してくださいました。桂さんの会社のブログはずっと参考にしていたので僕的にはかなり楽しみにしていた回でした。
その中での桂さんの講義の一部分を引用します。
安定性・可動性・コーディネーション・バランス・筋力・スピード・パワー・アジリティ・持久力などさまざまな基本的運動特性は、それぞれ独立して存在しているわけではない。
「筋力」「スピード」「パワー」「アジリティ」「持久力」など構成要素を抽出し、それぞれを評価し、それぞれを鍛えていく。
そしてスポーツパフォーマンスに良い転移が起こることを待つ。
という従来の伝統的なアプローチに私たちは疑問を持たなければならない。
この辺の話は
https://note.com/kouhei19981110/n/n42588cf60b25
でも言及しています。つまり、ヒトの身体は創発的現象でできているため、パフォーマンスアップに対して要素を分解して個別に能力を挙げていこうとする試みは想定する効果を得られないことが多いのです。
水が火を消すために不可欠な手段であることはよく知られている。しかし、もし水を構成要素の水素と酸素に分けると、どちらの物質も火を消すことができないばかりではなく、さらに火力を増加させる。(Antonio Barbosa)
世の中には要素還元的な事柄もあると思います。1+1=2というような。しかし、やはり人を見ていく時には1+1=2の思考では通用しないのです。1+1=200かもしれないし、1+1=-4かもしれない。要素還元主義的な思考ではなく、全体論・複雑生命系・非線形な変化をたどるという思考が重要だと思います。
個々が今日の相転移とどう関連しているかというと難しいのですが、ヒトを診る上で要素還元的なアプローチは脱却する必要があり、従来のアプローチに疑問を持たないといけないという布石として書きました。
相転移~Phase transition~
では相転移とは何でしょうか?
相転移とは「即座に全く別のものに変化する現象」のことを言います。
例えば、歩行とランニング。歩行からランニングに変わるまでには中間的な性質はなく突如として変化します。
ここで歩行とランニングって全く別のものなのか?という疑問が生じるかもしれません。実は全く別のものなのです。
歩行の重心最高点は両脚が重なっているときにおこります。そして最下点は両脚が最も離れているときに起こります。より具体的に書くと、ミッドスタンス(反対側はミッドスイング)で最高点となり、ローディングレスポンス(反対側はプレスイング)で最低となります。
逆にランニングの重心移動は両脚が最も離れているときに最高点に至り、両足が最も重なっているときに重心は最下点に至るのです。
また、歩行は倒立振り子運動により、支持脚を回転軸にして身体重心が上下動するのに対して、ランニングは弾性的な伸張的構造によって接地中にエネルギー保存が起こります。このように運動エネルギー保存の方法も変化が起こるのです。
そしてここでさらに重要なのは歩行と走行の間には中間的な形質がないこと。
ある点を境にして歩行と走行は突如として切り替わります。
これが相転移です。
相転移と要素還元主義
ここまでで即座に全く別のものに変化する現象が相転移であるということはわかりました。しかし、だからなんだ?というのが率直に浮かぶと思います。
結論から言うと歩行と走行のように他にもあらゆることが相転移している可能性があることを忘れてはいけないということが大事になります。
理学療法やアスレティックトレーニングをしている方であれば
ローカルスタビライザー→グローバルスタビライザー→グローバルモビライザーの順にトレーニングをしていき、動作への転移を待つ。
小さな力発揮(関節周囲筋群)ができるようになることが大きな力発揮(多関節筋)のための前提である。
まずは単関節の運動から開始し、徐々に多関節へ、最終的に競技特異的にしていく。
というイメージは少なからずアプローチを行う上であったのではないでしょか?
具体的に考えると、例えば脊柱の運動機能を改善させるためにまずは多裂筋・腹横筋などの関節に近い筋群をトレーニングしていき、徐々に腹斜筋群などの力発揮の役割が大きい筋群を大きな可動域で鍛えていくというようなアプローチです。しかし、私たちはこのようなアプローチにも疑問を持つ必要があります。
たしかに多裂筋や腹横筋の発火は低強度のリーチ動作などの身体内動揺の際や歩行などの比較的低強度の運動時などには重要かもしれません。しかし、走高跳などの動作時にもこれらの筋が同じような役割を果たしているのでしょうか?言い換えると、腹横筋と多裂筋の活動は、大きな力が身体に働きかける動作である、伸展捻り、宙返り時などの体幹制御時に重要になるかは疑問ではないでしょうか?
リーチと走高跳の踏切り時の体幹制御では相転移が起こっていてコーディネーションが全く異なっている可能性がありますよね。多裂筋や腹横筋トレーニングを跳躍以外のはっきりとした明確な目的のためにトレーニングしているなら別ですが、心の中で競技に活きると思って処方している場合には注意が必要でしょう。
なので今回の例で言えば、走高跳のパフォーマンスを改善したい人に対して思考なしに小さな筋群の発火をさせて大きな筋群に移るようなトレーニングを組むのは良くないということになります。
・静から動へ
・小さい筋から大きい筋へ
・単関節から多関節へ
・広い支持面から狭い支持面へ
・遅い(ゆっくり)から速いへ
などの学校で理由もなく覚えさせられたような従来のビルドアップ方法にはすべて疑問を持つ必要があります。
特にスポーツパフォーマンスに転移を目指す場合など。相転移が起こっている可能性を吟味しなくてはなりません。
このような相転移による効果の減衰の可能性を減らすためには、”高強度運動のバイオメカニクス的分析を始めに行い、その分析をリハビリテーション過程の初めにおける低強度の動作に応用すること”が必要になります。
まとめ
・従来の要素還元的アプローチに私たちは疑問を持つ必要がある。
・相転移を理解し、従来のリハビリテーションにおけるビルドアップ法も見直す必要がある。
今日は長くなりましたし、言っていることが複雑かつ飛躍している部分もあると思うので、よくわからなかったかもしれないです。書いていくうちに文章がうまくなるように頑張ります。
参考
フラン・ボッシュ著,谷川聡 大山卞圭吾:コンテクスチュアルトレーニング 運動学習・運動制御理論に基づくトレーニングとリハビリテーション.p28-30,2019