痛み
少々やり過ぎたかなと思ったが、依頼なのだから仕方がない。
高額な料金を請求しているのだから、こちらはクライアントが望むように最高のレベルで仕上げるしかない。
より残虐に。より残酷に。
或いはゴミのようにあっさりと。
クライアントの望むがままに殺す。それが仕事だからだ。
目の前の男はすでに虫の息だ。腫れ上がった目蓋を必死でこじ開け、涙を流しながらこちらを見上げる。じりじりと蠢いているのはそれでも私から逃げようと必死なのだろう。
「痛いか? あぁ、私も痛い。溺愛してきたであろう我が子に、このような仕打ちを依頼されているあなたの心情を思うと心が痛む」
この男を殺すよう依頼してきたのは、この男の子供だった。溺愛してきたと言っても過言ではない。ただいささかその愛は重すぎて、束縛が過ぎる。子が愛した男の命すら奪う程に他者を寄せ付けようとはしなかった。
結果この男は我が子に心の底から憎まれた。愛する者の命を奪った憎き敵として。
依頼内容は愛する男と同じ死にざまをとのことだった。
なんと言う因果応報。
愛する我が子をたぶらかした男を惨殺したら、同じ方法で殺されるのだから。いやはや、人の思いというのはなんて複雑なのだろう。
どちらの思いも愛ゆえに起こった悲劇だ。
私は二丁の銃を構え、その引き金を弾く。
悲鳴は一度きりだった。二度目からは男の身体は跳ね上がりはしたものの、声を上げたりはしなかった。三度、四度、五度…… 両手に構えた銃の引き金を弾き続け、合わせて十三発の銃弾を叩き込んだ頃には、びくりびくりと痙攣をしていたが、もう呼吸などしていない。
「愛と憎しみは表裏一体だね」
私は最後にそう呟いた。スマートフォンで惨たらしい写真を一枚取ると、クライアントに送信する。タイトルもなくなんのメッセージもない。だが相手はきっと今か今かとその時を待っていただろう。すぐに既読がついた。こちらから通話をつなげる前に相手からかかってきた。私は血なまぐさい遺体を見下ろしながら、うっすらと微笑みそれに応えた。
「これで仕事は終了した。満足かな、お嬢さん」
『えぇ、ありがとう。残りの金額を振り込んでおくわ。さようなら殺し屋さん』
「さようなら。二度と会うことがないことを祈るよ」
『会わないわ。私は彼の元へ行くから』
クライアントの娘はそう言って、電話を切った。彼女の声はとても満足しているようだった。私は彼女の依頼を完璧に果たせたようだ。
私は携帯電話を地面に捨てて、その小さな四角い画面に銃弾を撃ち込んだ。
end
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