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選ぶ力、辞める力(止める)、続ける力。

料理人という仕事を13年やっている。


19歳から始め、毎日18時間近く働き、週一回の休み。初任給は13万で、何とも言えない現実を突きつけられながらも夢だけを胸に突き進んできた。単純に労働時間で言えば、一般企業の方の2倍強。26年働いていると言っても大袈裟ではないと思っている。


僕は長く働くことを美学にしたくない。


よくある『俺が若い頃は~』なんて話は意味がない。ただ、労働時間が長かったから、給料が安かったからこそ見えるものがあり、手に入れられた力がある。それがタイトルの3つの力だ。この3つの力は胸を張れる自慢の力。


限られた時間の中で何を選ぶか(見極める)

毎朝始発で仕事に行き、終電で帰る。そんな生活の中では自分の時間を確保するのはとても難しい。仕事に慣れるまでに時間もかかるし、何より途轍もない疲労の中で日々働いていた。調理師学校を出たばかりの僕には10数人分の賄を作るだけでも心が折れそうなくらい大変で、まずいと目の前で捨てられたり、コンビニ弁当を目の前で食べられたりもした。泣きそうになるのをこらえ(実際はよく泣いた)次こそはと料理本を見て勉強し、次の日の賄を夜中に試作したりもした。休憩時間もほとんどない中で培われたのは『選ぶ力』。本当に自分に必要なものは何なのか?必死に考えそれだけを選んで時間を使っていた。

当時選んだのは料理を学ぶ事。休日も友達と遊んだり飲みに行くこともなく、ひたすら料理を学ぶ事に費やした。魚や肉を買って捌いたり、高級なレストランに食事に行ったり。13万の給料に7万の家賃。光熱費や携帯台を引いたら・・・。そんな中でも何を買うか。真剣に考え選んできた。自分にとって必要なものは何か?今でも僕は自分に何が必要かを客観的に見て選ぶことが出来ていると思う。これはお皿の上にも表れている。


辞める(止める)のもセンスだ

新卒の頃先輩に言われ未だに心に残っている言葉。飲食業界は人の移動がとても多い。所謂バックレもとても多く、そうでもしないとやめられないくらい人が足りておらず、劣悪な環境のお店も少なくなかった(今はだいぶ良くなっている)。そんな中で、お店を円満退社することがとても難しく(と感じていた)上手くやめるのにはセンスが必要と言われたことに妙に説得力があった。

だが仁義は通さないといけない。野球をやっていた僕は上下関係に厳しく、その辺りは自分の考えよりも『和』を保つことに頭を使っていた。しかし、一度きりの自分の人生。他人に気を使いすぎるよりも自分の事を考え何を選ぶかが大切な時もある。少し内容は違うかもしれないが、プロ奢ラレヤーさんのツイートを見てえらく納得した。

仕事に限らず何を選び何を止めるかが重要。僕はワインに詳しくない。色んな人に勉強しろと言われたが、どう頑張っても頭に入ってこなかった。最低限知識が必要なことは分かっている。ただ、努力しても成果が上がりにくい事に対して時間をかける事が僕には出来なかった。だから僕はワインの事を勉強することをやめ、その分料理やアロマの分野に集中し、自分のフィールドを広げた。

また、僕は割と器用に何でもできる方だと思う。だからこそなんでも自分でやってしまいがち。努力すればできる事をやってしまう。しかしどんな分野でも努力しなくても突き抜ける人がいる。それを人は才能と呼ぶのかもしれない。(しかしながらその世界でトップに立つためには努力は絶対的に必要)

なので努力しなくても出来てしまう事を徹底的に伸ばすべきだと思う。気が付いたら朝になっていたり、周りの雑音が聞こえなくなるくらい好きな事。努力を努力だと感じないことをひたすら伸ばす。それ以外の事は全て得意な人に任せるくらいが丁度いいと僕は思う。自分にしか出来ないことを見極め、それ以外は全てをやめる。それくらい極端で良い。それくらい辞める力は重要だ。


選び、辞め、初めて『続けられるか』の土俵に上がる

何が必要かを見極め、更に何を辞めるかを決める。その上で初めて続けるかどうかという選択肢を選べると僕は思う。成果が出にくいことを続けるか悩むのは本当に時間が勿体ない。成果が見込める事に対して続けるか他の選択肢を選ぶかを考えるのは良いが、そもそも成果が見込めないことに対して悩むのはナンセンスだ。

勿論みんながみんな自分が何が得意かなんてわからない。だからこそ先ずは選ぶ力を磨いてほしい。選んだものの中から辞めるものを更に選ぶ。自分と向き合い、何が出来て、何が好きで、何が求められるのか。この3つのバランスがとれるものは何なのか?

続ける事は大切だ。だが向いていない事を続けられるほど人生は長くない。

一生に一度の人生だからこそ、選び、辞め、そして続けられることを見つけてほしい。僕は今『料理人』という肩書をやめようと思っている。その枠の中では自分のやりたい事は出来ないと思うからだ。今までずっと人生をかけてきた料理人をやめる。料理には携わるが、料理人ではなくなるだろう。それは料理人に対してのリスペクトからだ。僕のこれからの生き方を他の料理人と同列にしてはいけないと思う。僕は自分らしく生きていくだけだ。

料理人ではない新しい生き方を僕は創っていこうと思う。













ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。そんな皆様にお知らせです。チーズケーキの販売再開は6月24日からとさせて頂きます。noteを読んで頂いた方へのささやかな感謝の気持ちです。丁度フランスにいるので時差がありますが24日の日本時間15時に再開したいと思います。配送指定は出来ませんのでご了承ください。配送時間は指定できますので備考欄に記載いただければ幸いです。今後もミスターチーズケーキ共々宜しくお願い致します。

田村浩二。

皆様の優しさに救われてます泣