宮崎でチキン南蛮が食べたい話
最後に宮崎の実家に帰ったのは、去年のお正月だった。
それまでの私は少なくとも年に3回は実家に帰っていたし、1回は地元住む両親と弟が上京して来ていた。
こんなに長い間、家族に会えないのは上京して来た10年前、全くお金がなかったとき以来だ。
事態がいつ収まるかが全くわからない今、宮崎に帰ったら何をしようと考えることで、寂しい気持ちを紛らわせている。
その中でも、自分の食への執着がすごいことに気が付いた。
特にチキン南蛮への思い入れは一番かもしれない。
不思議なことに宮崎を一歩出ると、チキン南蛮は姿を変える。
大学に進学したとき、目にしたものの衝撃はすごかった。
唐揚げに南蛮だれとタルタルソースがかかっているそれは、ビジュアルからして全く違う。
それなのに、表記は「チキン南蛮弁当」
びっくりして、思わず一緒にいた他県出身の子に
「これ、チキン南蛮じゃない」
と言ったら、
「え?チキン南蛮ってこういう食べ物でしょ?」
と返ってきて衝撃を受けた。
別に美味しいからいいけど……(なんだかんだ買って食べた)と思ったけれど、あれは私の中では別の食べ物である。
それ以来、心の中では『偽物のチキン南蛮』(でも美味しい)と呼んでいる。
都内でも美味しくてかつ、本物のチキン南蛮が食べられるのは、「塚田農場」くらいしか思いつかない。
実際、品川駅の売店で、お弁当を買って帰ったけれど、食べたかったチキン南蛮そのもので、大満足だった。
宮崎で、チキン南蛮は家庭で作ることももちろんあるけれど、我が家ではお休みのお昼ご飯に、母がスーパーのお惣菜で買って来てくれることが多かった。
私が幼い頃は、母が南蛮だれも、タルタルソースも、自作したものが夕食に出ていた。
それはとても美味しくて、大好物だったけれど、母親が仕事を再開してからは、タルタルソースが市販のものになり、南蛮だれは生協のものになって、やがてスーパーのお惣菜に変わった。
手間を考えれば、それが普通だと思う。
鶏肉を切って、下味を付けて、衣を片栗粉→卵の順につけて、手作りの南蛮だれに浸す。
その間にゆで卵とタマネギ、たくあんをみじん切りにしたタルタルソースを作る。
それだけの工程を経て出来たチキン南蛮を、育ち盛りの三人の子供が30分もかからずに食べてしまう。
……想像しただけで、絶望する。
その手間が省けて、母が楽できるなら、お惣菜がいいとさえ思う。
そうしてよく食卓に登場するようになった実家近くのスーパーのチキン南蛮はちょっと変わっている。
チキン南蛮にタルタルソースではなく、サウザンドレッシングがかかっているのだ。
酸味のある南蛮だれと、ほんのり甘みのあるサウザンドレッシングはとてもよく合うけれど、他では見たことはない。
人口5000人に満たない地元出身者だけが知る味だ。
そういえば、去年、たまたま、チキン南蛮=タルタルソースと思いがちだけれど、そうではないと知った。
チキン南蛮発祥の店と言われているところは二つあって、一つは全国的に有名なタルタルソースのかかった「おぐら」、もう一つはタルタルソースのかかっていない「直ちゃん」
弟が延岡市に出張に行くたびに、食べに行っていると聞いて、とても興味がわいた。
実は、前回の帰省のときに、弟がドライブがてら連れて行ってくれるはずだったけれど、予定が合わずに、また次回、となったのだ。
そのときは次回がこんなに先になるなんて、思ってもみなかった。
次、帰省したら、絶対に「直ちゃん」のチキン南蛮を食べると決めている。