餃子にも派閥があるらしい
県をまたいだ移動の自粛が求められて、地元の宮崎に帰省できなくなって、一年以上が経過した。
私の出身は宮崎県の木城町という人口5,000人に満たない小さな町だ。
その隣町の高鍋町では餃子に派閥があるらしい。
『餃子の馬渡』と『たかなべギョーザ』、この二つは「マツコの知らない世界」でも取り上げられたことがある。
実家では『餃子の馬渡』を好んで食べていた。
その出会いはおそらく小学校高学年の頃だったと思う。
父が「馬渡の餃子が美味しいらしい」と、どこからか噂を聞いてきて、休日だった我が家は晩ご飯をそこにしようと決めた。
どうやらテイクアウトしかやっていないらしいと聞いて、父と車で買いに行ったのを覚えている。
そうして、食べた餃子は衝撃的だった。
まず、その見た目にびっくりした。
想像していた薄い皮に餡が包まれているものではなく、分厚めの皮が折りたたまれている。
口に入れると外側がぱりっとしたあと、もちもちとした食感がして、餡のうまみが広がる。
それからしばらくは週末のたびに食べていた気がする。
実家を出てからは、餃子はどこでも食べられるイメージがあるからか、帰省の時の食べたいものリストに上がらず、10年近く口にしていなかったと思う。
その餃子への気持ちを思い出させてくれたのは、一昨年のことだ。
私には弟が二人いて、上は実家に、下は上京している。
下の弟が結婚して、初めて実家に帰省してきたときの食卓に並んだのが、馬渡の餃子だった。
お嫁さんの同僚が私たちと同じ高校の出身で、「馬渡の餃子が美味しいって聞きました」と言っていたのを両親が覚えていて、買ってきたらしい。
いつもは焼き餃子だけなのに、その時は揚げ餃子や手羽餃子も並んで圧巻だった。
あっという間になくなったから、私は手羽餃子を食べ損ねた。
そんなちょっとだけ、未練のあった馬渡の餃子が、去年の夏頃、母から送られてきた。
冷凍で送れると知って、すぐに手配してくれたらしい。
1人暮らしの我が家にまさかの40個入りが届いてとてもびっくりしたけれど、付属のラードを使って説明書通りに焼くと、まさにお店の味だった。
外出も制限されて、帰省もままならないストレスが地元のいつもの味に触れることで、ゆっくりと溶かされていった。
今、『餃子の馬渡』のサイトを見てみたら、手羽餃子もお取り寄せできるらしい。
気温も上がってきて、餃子とレモンチューハイの美味しい時期になってきたし、お取り寄せしてみようかな。