8 成長して旅立ってくれればいんです
医師には医療者と医学の研究者と生活者・労働者の三つの顔がある、と書いてきましたが、実はこれは医師だけではなくて、薬剤師や看護師、臨床検査技師など医療の専門職全般に言えることですが、その三つのバランスが職種ごとに違うように感じます。
医師の皆さんとお付き合いしてきた感想としては、医師は医療者と研究者としての立場への関心の割合が高くて、合わせると、ベテランの医師で医療者4割研究者3割で全体の7割、若手の医師だと医療者5割研究者3割で8割以上、初期研修医だと医療者7割研究者2割で9割以上になるような感じかと思います。最近はワークライフバランスを大事にする医師も増えていますので、1割から2割分は下がっているかもしれません。
これに対して他の医療職種は、医療者であることが4割、研究者が2割、生活者・労働者が4割くらいかな、と思います。
個人的な経験からのまったく主観的な見方ですが。
いずれにしても、研究者としての立場を重視する割合は高いので、この立場に目を向けて処遇を考えることが、医療者に選んでもらう病院になる一つの方向性だと思います。言い方を変えると、この病院で働くことで自分が医療者・研究者として成長できると思える環境を整えてあげることが、医師だけでなく看護師や薬剤師などの医療職に選んでもらために重要なことだと思います。
少し話は違いますが、保健師の採用に苦労している離島や過疎地の自治体にも同じことが言えるのではないでしょうか。
公務員の頃に人口1千人たらずの離島の村で勤務をしたことがありました。
そこの住民課長さんは、関西からダイビングに来ていて島の人と結婚してから役場に勤めた優秀な方で、この課長の保健師観がまさに医療者と研究者の立場を踏まえたものでした。
保健師は成長しようと思うし、自分みたいに結婚でもしないと離島に生涯縛り付けておくことは難しいので、2年とか3年の短い期間で良いから、ここにいて学ぶことができた成長できたという実感を持たせてあげることができるようにすれば、その人が退職しても次の人に来てもらえる、というのが課長さんの考えで、その実現のために希望すれば県立看護大学の修士課程での勉強を支援する、ということで看護大に話をして2人の新卒の保健師さんに来てもらっていました。
支援すると言っても、2人いるから土日の休みがしっかりと取りやすくなるという程度のものでしたし、離島からの船賃や本島でスクーリングするための滞在費などは基本的に自前でしたけど、2人とも頑張って勉強され、そのうちの一人は今看護大学の助教になっています。
今も苦労はあるけど全く保健師がまったくいなくなることはないという状況のようです。
医師や看護師などが長続きしない病院は、もちろん地理的な問題もあります。でも、そこで彼らがやりたい医療が実践できたり成長をさせることができれば、長期間にわたっていてもらうことは出来なくても、次の人に来てもらうことは可能だと思います。
ずっといてもらいたい、というのは採用の苦労をしたくないという側の理屈ではないでしょうか。ずっといてくれる医師や看護師を探すよりも、短期間でも情熱をもって医療に携わってくれる医療者に継続的に選んでもらう病院を目指す方が楽だと思います。
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