新型コロナウイルス感染症の病床ひっ迫を振り返って
いつもの公立病院の話ではありませんが、関西学院大学総合政策学部の宗前清貞教授が、新型コロナでの病床ひっ迫について、医療制度の視点から分析されていますのでご紹介します。
医療供給体制と構造的制約-日本のコロナ病床確保はなぜ困難に直面したのか-
文中にもあるように、宗前先生は「日本医療の近代史ー制度形成の歴史分析ー」という本を著されており、世界的な古代からの医療提供の歴史を概観しながら、日本における江戸期から現代に至るまでの医療の歴史を、高度な専門技能としての医療としてではなく、医療提供の制度の視点から深く分析、考察しておられます。
今回の論文では、ご著書での分析を基に、現在確立している医療提供制度の良し悪しは別として、今回の新型コロナウイルス感染症にかかる病床確保については「病床や保健所の逼迫は単にガバナンスや危機管理が欠如していたからではなく、医療機能形成の歴史的構造的制約のもとで発生したもの」と結論づけられています。
元地方公務員として印象に残るのは、「地方政府は二系統の保健行政機構を有しながら、相互に冗長性を担保することができなかったが、それは70年代以降の政治変動の帰結として現行の保健機能の切り分けが位置づけられているからである」との指摘です。
先生が指摘されている「70年代以降の政治変動の帰結」というのは、地方分権の流れの中で地域保健が都道府県保健所から市町村業務に位置付けられたことを指していると思われます。この改革以前には都道府県保健所の保健師は市町村の保健担当職員に対して指導的な立場にありましたが、現在は地域保健は市町村、都道府県保健所は広域の感染症中心と役割が分かれているため、まさに「相互に冗長性を担保する」ことができない状況にあります。
いっぽうで、保健師が増えた市町村においては、専門職として担うべき業務と行政職員としての日常業務の中で、保健師の位置づけがあいまいになりがちではないでしょうか。
未知の感染症が流行する可能性はこれからも十分あります。先生が最後に指摘されているように、「Good Practiceに学び、そのエッセンスを地域医療や地域保健に活用していくことによって、漸進的ではあるが確実に効果をもたらす構造改革」を考えてもらいたいと思います。
行政施策に著作権はありませんから、保健衛生行政でも良い先行事例のTTP(てっていてきにパクる)を進めてもらいたいと思います。