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11 事務屋も楽しくお勉強

4月の人事異動で晴れて病院勤務になった公務員の皆さん、3週間過ぎて少しは慣れたでしょうか?
中には、見たことも聞いたこともない企業会計の担当になって、決算を控えて頭を抱えている方もいらっしゃるかと思います。もしかしたらお悩みにお答えできることもあるかもしれませんので、その程度でもよろしければコメントにお書きください。

さて、医療職-特にお医者さんは医師と研究者としての立場があるということを書きました。どちらも日々学習と研鑽が求めらます。
そういうお医者さんと接する時には、やはり我々事務屋もちゃんと勉強しないといけないな、と感じます。
もちろん直接の診療をするわけではないので、医学のことを詳細に知る必要はありません。中学の理科室にあったような気味の悪い人体模型を思い出して、臓器の位置や血管、神経の走行を勉強しようなんて考える必要はありません。

事務屋が勉強しないといけないことは、第一に診療報酬の「構造」です。

診療報酬全体はものすごく複雑怪奇で、通則を定めた基本通達にその解釈、基本診療料や特掲診療料を請求できる施設基準などの細かい内容を覚えるのは至難の業です。そういう通達などをまとめたものが「白本」と呼ばれていますが、昔の電話帳並みの分厚さ(と言っても、最近のスマホしか持たない若い人は電話帳も知らない人が多いようですが)です。たぶん3年しかいないであろう事務屋が詳しく覚える努力をするのは、はっきり言って時間の無駄ですが、基本的な構造は知っておくべきです。

診療報酬はまず大きく医科、歯科、調剤の3つがあり、医科と歯科はその中で基本診療料と特掲診療料に分かれています。基本診療料はその名前のとおり基本的に提供される初診や再診の診療料、入院の基本診療料です。特掲診療料は、入院中の医学的な管理や、検査、投薬、注射、手術などのいわゆる手技に関わる部分の診療料です。それぞれに請求できる内容と、請求するための人員配置や職員の資格などが決められています。
これらは病院の収益源になるものなので、細かい内容は別として、例えばうちの病院の看護配置基準は7対1だとか、CTやMRIなどの機器があってそっちの請求もある、カテーテルという高い材料を使った治療や検査もやっているみたいだ、などの大きな収益に係る分は早めに勉強しておいてください。

もう一つ知っておかないといけないのは、その診療報酬がどういう流れで病院に現金として入ってくるかです。


当然ですが、病院では毎日診療が行われています。その中で、外来診療の場合は、基本的に3割を窓口で自己負担で支払ってもらいますので、この分は現金が日銭で入ってきます。でも、残りの7割については、その月の分をまとめて翌月の10日までに審査支払機関に請求します。(「高齢者医療はどうした!」と突っ込まないように)

さあまた聞いたことのない名前が出てきましたね。審査支払機関。
市町村の人なら必ずそれぞれの役所役場に国保担当があると思いますが、これは、市町村が国民健康保険の事業主体=保険者になっているからです。でも、保険者だからと言って、それぞれの市町村が個々の医療機関から診療報酬請求書(これがレセプト、通称レセです)を受け付けて、その内容を審査して個別に医療機関に診療報酬を支払うのは、無理だし無駄ですよね。だって、各医療機関は市町村ごとにレセプトを仕分けて送らないといけないし、専門家でもない市町村職員はその内容を見ても正しいかどうかわからないし、仮に審査できたとしてもそれをまた個々の医療機関あてに分けて支払うって、考えただけでも壮大な無駄じゃないですか。

ということで、各都道府県に市町村国保の審査支払業務をまとめて行う国保連合会という組織ができています。医療機関は国保連合会にレセを送って、連合会では、保険者側、医療機関側、中立の立場ということで選ばれた医師が内容が適正かを審査します。その結果、適正なものには請求どおり、過剰な診療や保険請求が不適切と認められたものは査定減したりして医療機関にまとめて診療報酬が支払われます。市町村は、その支払った分に手数料を加えて、毎月国保連合会に精算する、という仕組みになっています。
公務員の共済組合などは社会保険診療報酬支払基金という団体があって、そちらが審査支払機関になっています。

さて、毎月10日までに提出された診療報酬請求書ーレセは、その月に審査され、請求の翌月の20日以降に医療機関に支払われます。つまり、今月分の診療報酬は翌々月にならないと入ってこないわけです。なので、病院はその間の給料や薬品費、診療材料費、委託料などの支払いに充てるための現金を常に確保しておかないといけません。足りなかったら金融機関からの一時借入でしのがないといけませんが、その時には当然利息の負担が出てきますから、できるならやりたくない話です。

査定減は向こうの判断なので致し方ないとしても、中には、治療はちゃんとやっているのに、カルテの記載がしっかりされていないために査定されたなんて言うこともあります。また、使った診療材料の記載を漏らしたために、お金が入ってこなかったなんて言うとんでもないことももちろんあります。
明らかにカテーテルを使った手技のレセに、1本13万円のカテーテルを書き忘れていても、支払機関は注意しないし当然追加で支払ってくれるわけもありません。

請求側の病院の責任です。


こういうことがあるので、少なくとも診療報酬の構造と、自分の病院ではどういう医療行為が行われていて、こういう診療報酬がだいたい請求されているんだな、ということくらいは勉強しましょうね。そして、「先生、このカルテのここをもうちょっと書いてもらえると、報酬がこれくらい増えるんですよ。せっかく先生がやってくれたことがもったいないじゃないですか」みたいにお医者さんに言えるようになると、「お、こいつ少しは勉強してるじゃない」くらいの評価はいただけて、お付き合いしやすくなる思います。

キーワードは「せっかく先生が頑張ってくれたのにもったいない」ですからお忘れなく。
「先生が書き忘れたから査定されちゃったじゃないですか!」なんて口が裂けても言っちゃいけません。それは院長に言ってもらってください。

そして、診療報酬が少しでも増えたり査定が減ったりしたら、「へっへっへ、銭や銭や」とこっそり喜びを味わって、ほくそ笑んでください。

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