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公立沖縄北部医療センターは絶対失敗する 2

(写真は沖縄県のホームパージから)
http://www.hosp.pref.okinawa.jp/hokubu/north-medical/

沖縄本島北部で設置が検討されている(決定した?)公立沖縄北部医療センターについて、次のような構成で駄文を書いてみます。
と言っても約20,000字という社会科学系の卒論並みのボリュームになったので、適当なところで切り分けながら載せていきます。

1 はじめに

2 沖縄北部医療センターの成功と失敗
(1) 診療についての成功要求はとても高い
(2) 経営では、基準内繰入で黒字ならOKとする。でも厳しいだろう。

3 現在の計画の概要

4 医療提供の可能性
(1) 必要な医療職の数
①必要な医師数
②看護師その他の医療職の必要数
(2) 医療職確保の見込み
①医師の確保の見込み
②看護師確保の見込み
③他の医療職の確保の見込み

5 将来の経営見込み
(1) 収支見込みと問題点
(2) 運営及び経営の能力とガバナンスの問題

6 市町村や県の財政への影響

7 何が問題だったか、どうすればよいか
(1)何が問題だったんだろう
(2)どうすれば良いんだろう

2 沖縄北部医療センターの成功と失敗


 議論を始めるにあたっては、成功と失敗の基準を決めることがフェアだと思うので、診療と経営の両方について、基準を考えてみたい。
 コンサルタント風に考えると、診療と経営のマトリックスで考えて、診療も経営も目標を達成している①の範囲なら成功、診療は達成できているが経営的には問題という②の範囲なら失敗、経営は何とかなっているけど診療の目標は達成できていない③の範囲なら大きな失敗、経営も診療も目的を達成できていない④の範囲なら大失敗ということにしよう。
 この図を見て、お前は失敗することを主張するためにこんな書き方をしているんだろう、と言われるかもしれないけどそうじゃない。日本病院会の調査によると、2022年度の一般病院の医業利益率(本業の医療行為だけによる利益の率)はー7.9%の赤字となっており、コロナ関係の補助金などを含めた経常損益で5.0%のプラスの決算になっている。したがって、①の範囲は実はもっと小さくなる。
(2023年度病院経営定期調査 概要版-最終報告(集計結果)-https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/231130_2.pdf)

病院の損益のイメージ

(1) 診療についての成功要求はとても高い
 診療に関しての評価指標としては、県が令和5年7月の第1回公立沖縄北部医療センター整備協議会で示した資料などであげている数字がある。
ア)病床稼働率 90%(急性期病床)
イ)運用されている診療科数 34診療科
 このうち、イ)の診療科数が実現すれば基本的に病床稼働率は達成できると考えられるので、病床稼働率90%を評価指標とする。
病床稼働率は、基本的には年間の平均値なので、(年間延入院患者数+年間延退院患者数)/稼働ベッド数×診療日数で計算する。なんで退院患者数を足すんだ、と突っ込みたくなると思うが、「稼働率」はそのベッドがどれだけ働いているかを示すので、入院患者数は午前零時の入院患者数をカウントし、午前中退院したベッドに午後入院患者を受け入れたら、そのベッドの稼働率は2になる。従って、患者の回転が速い病院なら、瞬間的には稼働率は100を超えることもあり得る。
 このことから、病床稼働率が高いということは、診療科が適切に患者を診療して入院につなげて、また看護師の数も揃って入院患者を受け入れる体制が整っているものと考えられるので、病床稼働率を診療についての成功指標とすることは妥当だと思われる。
 とはいえ、稼働率が高くなると特に患者の退院送り出しと入院受け入れを行う看護師の負担は大きくなるので、民間病院では85%を目標とするのが一般的だと思われる。また、新型コロナ感染症などの新たな疾患だけでなく、毎年発生しているインフルエンザ患者の重症化受け入れなどがあるので、特に公立病院では病床稼働率にはある程度の余裕が必要となる。その上で、黒字となる損益分岐点が90%程度になると考えられるので、病床稼働率90%は、経営面も考えたうえではまあ妥当な線だろう。
 病床稼働率が低くなる原因としては、患者側の要因としては人口減による患者数の減や高齢化による疾患の構成の変化などがあり、病院側の要因としては、医師の確保ができないことによる診療科の休診や看護師が確保できないことによる実稼働病床数や病棟数の減がある。また、病院側の要因としては、リハビリテーション技師の確保ができないことにより在院日数が長引くと、分子の退院患者数が減って稼働率が下がることになる。このほか、MSW(医療ソーシャルワーカー)が足りないなどによって退院調整が進まないことは、稼働率の減だけでなくDPC/PDPS(後で説明)という診療報酬制度での収益減の要因となる。
 ということで、病床稼働率90%で設定すると、成功とみなされる①の部分はもの凄く小さくなる。これは当然のことで、診療科数(沖縄北部医療センターの場合で34)と病床数(同じく450床)は、この病院はこういう医療をこれだけの診療科で行いますよ、という目標であり住民に対する約束なので、これが実現しないということは約束に反して住民の不満を生むこととなる。
 従って、医師が確保できなかったり看護師が不足したりするなどで、病床稼働率が落ちるということはそのまま病院の失敗となる。このため、民間病院では医師の確保に努めると同時に、計画を立てるときには医師や看護師の確保の可能性も含めて診療科とベッド数を考えることになる。これに対して今回の計画は、デマンドに基づいて診療科と病床数が決められているため、医師や看護師の不足はそのまま失敗となってしまう。
このようなことを考えると、とりあえず民間と同様に85%の病床稼働率を成功とすることとしよう。

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