童話『しっぽの魔法』

 この童話は第52回ENEOS童話賞用に書いたものです。ですが、あえなく落選してしまいました。残念ではありますが、作った本人としては、とても気に入っている作品です。お時間のある時に読んで頂ければと思います。


 小犬のクローバーは、ゆうこちゃんと大の仲良しです。ある日ゆうこちゃんの三歳のお誕生日に、うさぎのぬいぐるみのネネがプレゼントされました。それからというもの、ゆうこちゃんのとなりには、ネネが必ずいました。ご飯を食べる時も、お昼寝する時も、いつも一緒で、クローバーは、ゆうこちゃんに遊んでもらえなくなりました。ふてくされたクローバーは思いました。ネネがいなくなってしまえばいいのにと。どうしたらネネがいなくなるんだろうか……。クローバーは頭が痛くなるぐらいまじめに考えました。そしてそんな時、となりに住んでいる老犬、フレッドが教えてくれました。
「わたしたち犬にはほんとうに大事な時に、使える魔法があるんだよ。それはしっぽの魔法だ」
「しっぽの魔法?」
「そう。どうしてもかなえたい願いごとがある時は、自分のしっぽの毛をぬいて、だれにも聞かれない場所で心の中で願いごとを言うんだ。そうすると願いがかなうんだよ。ただし、その魔法を使えるのは、生きているうちで一度きりなんだ。だからほんとうにその魔法を使う時は、よくよく考えないといけないよ、クローバー」
「うん、わかったよ」
それを聞いたクローバーは思いました。これでゆうこちゃんのとなりから、ネネがいなくなる。そしたら、ぼくはまたゆうこちゃんと遊んでもらえるだろう。そう思うと、クローバーの胸は高鳴りました。でも待てよと、思いました。この魔法は一度きりしか使えないんだ。こんなことに使ってしまってほんとうにいいんだろうか。そこでまたクローバーはじっくり考えました。そして、あることに思い当たりました。

そうだ。ぼくがどこかにネネをかくしてしまえばいいんだ。そうすれば何も大事な魔法を使う必要もない。
そこでクローバーは、ゆうこちゃんがネネから離れたすきに、ネネをくわえて家の裏庭に持って行ってしまいました。
ここにおいておけば、ゆうこちゃんは気づかないにちがいない。クローバーは、ほっとしましたが、それと同時に、急に腹が立ってきました。このネネとかいう、うさぎのせいで、ぼくはゆうこちゃんと遊べなくなったんだ。クローバーは腹立ちまぎれに、ネネの耳をかみ切ってしまいました。するとぬいぐるみのネネは、生き物でもないのに、悲しそうな顔をしています。こわくなったクローバーは耳のとれたネネから、さっと離れて家へと戻りました。戻ってみると、ゆうこちゃんがネネを探していました。心配そうな顔のゆうこちゃんを見た時、クローバーは、とても悲しくなりました。

『ぼくはなんてことをしてしまったんだろう……』
クローバーは背中に水をかけられたような寒さを感じました。

そして、うさぎのネネの耳がとれたことを知ったら、ゆうこちゃんはもっと悲しむだろうと思いました。クローバーはあわてて、うさぎのネネの元へと戻りました。そうして、かみ切った耳を、ネネの元通りの位置のあたりにおくと、自分のしっぽの毛を一本ぬきとりました。
『うさぎのネネの耳を、元通りの耳にしてください!』
クローバーは心の中で必死になって言いました。すると辺りにふしぎな光がたちこめました。
『本当にその願いでいいのですね』
その光の中から声が聞こえてきました。クローバーは答えました。
『はい! お願いします』
『わかりました。あなたの願いをかなえましょう』
その声が聞こえなくなるのと同時にクローバーは気を失いました。

それからしばらくして、ゆうこちゃんのわあわあ泣く声で、クローバーは目覚めました。その声は家の方から聞こえてきます。クローバーはあわてて起きあがりました。見るとすぐそばにぬいぐるみのうさぎのネネがありました。ネネの耳は、かみ切る前の、元通りの耳に戻っています。願いがかなったことを知ると、クローバーは、ほっとしました。それから急いで、ネネをくわえて、ゆうこちゃんのところへと持って行きました。するとゆうこちゃんは、とても喜びました。そしてにっこりほほえんで、
「クローバー、ありがとう!」
 そう言ってクローバーに抱きつきました。
クローバーは、ちょっぴりしっぽが痛かったけれど、よかったなあと思いました。それからこれからは、ゆうこちゃんが悲しむようなことは決してしないと思うのでした。
おわり

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