童話『紅茶の姫』
2月14日に校正技能検定試験を受けに行く予定なので、今日は勉強しようと思ったのですが、全然はかどりませんでした。たぶん落ちるとは思うので、試験の雰囲気だけ味わってくる予定です。
ところで今日は小説家になろうサイトにも載せている私の童話を、こちらにも掲載しようと思います。タイトルは『紅茶の姫』です。こちらのブログのURLはこの作品から来ています。短い童話なので、紅茶でも飲みながら読んで頂けたらと思います。
『紅茶の姫』
最近さやかの周りはおもしろくないことばかり起こります。仲良しグループの成美ちゃんが自分の鉛筆を隠したのは、さやかだと言い出したのです。 もちろん、さやかはそんなことはしていません。
「違うよ、違うよ。私何もしてないよ」
さやかはそう言いましたが、みんなは成美ちゃんの言うことを信じてさやかをのけ者にしました。
そんなことがあって、学校からの帰り道を、さやかがとぼとぼ歩いていますと、いつもは見逃してしまうような道端の小さな花壇に白い大きな花が咲いているのに気がつきました。何かしらと思ってよく見ると、それは白いシーツをかぶった女の子でした。年はさやかと同じぐらいです。
「あなたはなぜシーツをかぶってるの」
「これはシーツじゃなくてドレスなの。私、紅茶の姫なのよ」
そう言われるとその白いシーツがふんわりとした素敵なドレスに見えました。
「さあ、座って今日はあなたがお客様よ」
彼女がそう言って、カバンからバラ模様のカップを取り出していると、さやかの他にも来客がありました。それはすずめとかえるとねずみでした。彼らは口々に言いました。
「さあ、紅茶の姫。俺たちにいつものをおくれよ」
「そうよ、そうよ、私にもちょーだい」
「しーっ。静かにして。紅茶の葉が怒っちゃうでしょ」
彼女が指を立てると、みんな黙りました。
皆、静かにバラ模様のカップを見つめています。紅茶の姫は持ってきたポットでお湯をわかしました。
「ぐつぐつふつふつ」
いい音がしてくると彼女はさっと金色の紅茶の葉をポットの中に入れました。するとどうでしょう。ぽわんと大きな湯気が金色の光を放ちながらポットから飛び出してきたのです。紅茶の姫は叫びました。
「ンサア カオ ウトガリア」
それをきいたすずめとかえるとねずみは
「おーっ」
とありがたそうに叫びました。
「さあ、皆さん召し上がれ」
紅茶の姫は花壇の花の花びらをバラ模様のカップの中に落としました。するとたまらないいい香りがしてきました。すずめとかえるとねずみは持ってきた袋にその香りをつめこんでいきます。袋がぱんぱんになると皆口々に言いました。
「これで病気で弱ってるうちの子がよくなるわ」
「これで俺様のかんしゃくの虫がおさまるってもんだ」
「これでなにもかも良くなるわ。紅茶の姫、ありがとう」
彼らはそれだけ言うと、どこかへ行ってしまいました。
「あの人たち香りだけ持ってっちゃったわ」
さやかは目を丸くして言いました。
「そうよ。彼らは紅茶を飲めないからかわりに香りを持って行くの。そうするとたちどころによくなるのよ」
「たちどころによくなるって、かんしゃくの虫もおさまるのかしら」
さやかは怒っている成美ちゃんのことを思い出しました。
「試してみたら」
そう言われて、さやかはたまたま持っていた瓶に、その香りをつめこみました。
次の日のことです。さやかはその瓶の香りを教室中にばらまいてみました。すると、のけ者にしていた成美ちゃんが泣きそうな顔をしてやってきました。
「鉛筆隠したの、ほんとは私なの。ごめんね。きれいな鉛筆が欲しくて嘘ついてたの」
成美ちゃんのその一言で教室の中のみんなもごめんねと言い出しました。しゅんとしていたさやかの気持ちも、ちょっぴりなんだかやさしくなりました。そして、ああ、これって紅茶の魔法なんだ! と思いました。早速紅茶の姫に友達と仲直りしたことを伝えようと、昨日の花壇の前に行くと見知らぬおばさんが泣きながら白い花束を置いていました。
「なぜ花束を置いてるの」
おばさんに話をきくと、おばさんの娘さんは日に当たってはいけない病気で亡くなってしまったそうです。それでも彼女はお花と紅茶が好きで、夜になるとここの花壇の花を眺めながら水筒の温まった紅茶を飲むのが好きだったという話でした。さやかは言いました。
「おばさん、大丈夫。彼女は紅茶の姫なのよ」
そこで、さやかはおばさんに昨日あったことを話しました。それを聞いたおばさんは
「そう、あの子は紅茶の姫になったのね」
そう言ったおばさんの目には涙が光っていました。でもおばさんの顔は笑顔でした。(おわり)
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