重なり(美しい恋愛小説)
夏、てっちゃんは、スカイツリーを指差し
「美菜の手術が成功したら俺があそこの上に連れてく」
と言ってくれた。
物体を遠くへ引きずり込むような、どこまでも人々の心を不安にさせる音。周りにいた知らない人含め私とてっちゃんは同時に振動するスマホを見た。
緊急速報
東京ドーム一つ分ほどの巨大な小惑星が現在日本に接近中。大気圏を突破しました。
シェルターなど安全なところへ避難してください。
大きさの例えがテレビに影響されまくってる…とか考えていたら、てっちゃんが
「美菜、逃げるぞ」
と手を引っ張ってきた。
私はてっちゃんの強張った瞳の奥に映った光を見て後ろを振り向いた。
ピンポン玉ほどの大きさの火の玉が空高くにいる。
私は人混みをかきわけて全面ガラス張りの窓に近寄っていった。
窓の外には隅田川が火の光を反射させてオレンジ色にキラキラ光っている。
「おいっ! 美菜!」
もうどこに行っても遅いのだ。それなら私はてっちゃんとの二人の世界のうちで終えたい。
焦った様子で追いかけてきたが、不可解な私の行動にどうすればいいかわからず棒立ちのてっちゃんを私はガラスの窓に背中から押しつけてキスをした。
私に希望をくれた彼に滅びゆくこの世界を見せないように。
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