読めた間合い(少女のやさしさを感じる小説)
亀戸駅へ向かう二車両の電車。東あずま駅へ止まる。僕はこの時間が苦手だ。電車に乗りこんでくる学生たち。車内が一気に騒がしくなる。僕には関わりのない人たち。そう思っていた。
一つ空いていた隣の席に、電話をしながら一人座る。僕はボーっとしていた。隣からいきなり
「ねぇおじさん! これなんて読むの??」
その子が突き出してきたノートには大きく
「間合い」
と書かれている。
「まあい、ですよ」
周りを憚り小声で伝える。
その子は電話で相手に「まあい、だよね? あははは」と笑っている。どんな会話だよ、と思いつつ、もう終わっただろうと前を向く。
「おじさん、ありがとねー」
「いえいえ、全然」
「ねぇいつもむすっとしてるけど、なんで?」
僕は生まれつき目が悪く、耳に神経を集中させていると無表情になってしまう。
「私も亀戸で降りるから、改札まで一緒に行こうね〜」
彼女は手を取って人ごみの中を誘導してくれた。
東武亀戸線は短い。だからこそ人と人の距離を近づける。
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