見出し画像

KONICA HEXANON について

KONICA HEXANONというレンズの銘を聞いたことはないだろうか?

現コニカミノルタは事業の多くがBtoB向けのものであり、業界に身を置かなければその存在感をもつことはない。
何よりカメラ事業からは撤退してしまったし、カメラユーザーにとっての存在感は一部を除いてもはや無いと言って等しい。

αショック以来のAF時代までは生き残れなかったものの、かつてはカメラ部門を持ち、一眼レフ事業も抱えていた。
その中で数十年にわたって登場し続けてきた一眼レフ用レンズのシリーズが存在していた。
この記事はあまり中古市場においても存在感を持つことのないKONICA HEXANONシリーズについての、主にその写りについて述べた記事となる。

(最初期のL39マウントレンズや90年代の復刻版および、M-HEXANONシリーズについては割愛とする。また別の機会に記事にしよう)


光学設計を優先した設計

さて、本題のKONICA HEXANONレンズについて語ろう。
このレンズはKONICA マウントⅡ、巷ではARマウントと呼ばれる独自規格のマウントを採用している。コニカ製一眼レフの交換レンズだ。
35mm判一眼レフの世界ではフランジバックがALPAについで二番目に短い。
LEICA Mマウントに変換した際はアダプターの短さに驚くだろう。

ヘキサノンレンズに共通する点として、光学設計を優先した設計が挙げられる。
組み立ててみればわかるのだが、コニカのレンズはピントリングの感触を良くするのが難しい。
多くのレンズは鏡筒ギチギチに光学系が詰め込まれているので、設計的な余裕もなければ、光学系の自重もあり、ヘリコイドが重くならざるを得ないのだ。

光学系が重く巨大であるだけあって、描写性能は非常に高い。
特に私が愛してやまないKONICA HEXANON AR 35mm f2はその特筆すべき例だろう。開放では、ややハロをまといつつもシャープに写り、絞り込めば抜群の解像力を見せる。
正直、ニコンやキャノンよりも描写性能が高いのでは?という疑いすらある。それぐらいちゃんと描写している。

肝心な開放の描写が気になる所だが、この写りは柔らかいというよりも、不安定と呼ぶべきだろう。
ボケが固く、破断を抱えているような気がする。
ボケ味よりも描写性を意識して設計されているのかもしれない。
「過剰補正型」の写りとでも言うべきか。
ざわざわとした不気味な写りになりがちだ。
まあ、それも使いこなしだ。
大きなボケを作る事ができれば、あまり気にするほどのことでもないし、むしろこれは表現として頼もしいところでもある。

SIGMA fpL
KONICA HEXANON AR 35mm f2
かつて頒布した同人誌「21:9」の表紙に使ったお気に入りの写真だ


オールドライクな写り

KONICA HEXANON レンズ全般に言えることだが、カラーバランスがある程度統一されている。
描写性やコントラストの高低などを論えば、コニカの個々のレンズは製造年代によっても全くの別物だが、しかし、この色味がとても良いのだ。

普段、色味について述べられるのは、フジフイルムのフィルムシミュレーションが良いだとか、LightLoomのプリセットがどうだとか、そういった画像処理の観点が多い(ような気がする)。
ただ、レンズの色味が良いと言うのは気持ちが良い。
RAW現像によって、あとでいくらでも色味を操作できるとは言え、レンズ特有の発色を無視するのは意外と難しい。

清涼感があって、記憶色に配慮したKONICA特有の発色はどこか懐かしさを感じる。

特筆すべきは青と白の発色。

GFX 50R
KONICA HEXANON AR 85mm f1.8
開放で甘く撮った

青色はシアンに傾き、白は暖色に転んでトーンは滑らか。
製造年代の話になるが、前期のレンズでは赤みと青みが強く、後期になると白の発色が重視されている。
後期型の特徴だが、コントラストを下げて彩度を上げると「カーン」として、なんとも言えない独特の色味になる。
まるで異世界に行ったみたいだ。

GFX 50R
KONICA HEXANON AR 85mm f1.8
このレンズ固有かもしれないが、こんな彩度の上がり方はコニカ特有だ


神レンズ KONICA HEXANON (AR) 57mm f1.4

KONICA HEXANON AR 57mm f1.4は前述したコニカ前期の傾向、怪しげな表現力を湛えた代表的なレンズだ。
わざわざ見出しで、神レンズと呼ぶ通り、このレンズはとても良い写真を吐き出してくれる。
コスト重視で枚数が少なく抑えられた特異な光学系らしいが、これがなんとも言えない破綻を抱えた、魔術的な美しさを生み出しているようだ。

GFX50R
KONICA HEXANON AR 57mm f1.4


X-T2
KONICA HEXANON AR 57mm f1.4

このレンズ、やけにヌケが良い。
絞ればかなりスッキリした描写になる。
構成枚数の少なさが、この時代のコーティング技術の未熟さとうまく噛み合ったのだろうか。
気持ちの良い写りになりやすい気がする。

このレンズを含め、コニカのレンズは絞ったときの描写が非常に良いものが多い。

5群6枚。たいてい、ダブルガウス構成のレンズは7枚以上で設計されている。
同じ枚数かつ同じタイプの構成にminoltaの58mm f1.4が存在するが、ミノルタにおいても標準f1.4における6枚構成はあとにも先にもこのレンズのみ。
少なくとも、写真用レンズにおいて、6枚構成は希少種なのだ。
(ついでに言うと、このミノルタのレンズもなかなか良いレンズである。
しばしば眠いと呼ばれる描写だが、この柔らかさには不思議な魅力がある)


玉数が少ない

ここからは欠点を述べていこう。
まず、少し面倒くさい欠点なのだが、あまり人気がなかったのか、他のメーカーのレンズに比べて玉数が少ない。
その癖、今でも存在感が無いのは変わらないのか、一部の希少なレンズを除いて、売れずに不良在庫化しているレンズがフリマサイトでは散見される。

おそらく、円安で転売需要が存在している現在の市場価格は、多少というかかなり水増しされたものになっているだろう。
高い値付けの商品も、売れないまま時間が経てば次第に値下がりしてゆくし、オークションでも落札額が安定しない。
玉数が少ないから市場に供給される商品の新陳代謝も少ない。

なんだかこう、買いにくい。


状態の良い個体が少ない

現在市場に存在しているコニカレンズの多くは中身の状態がよろしくない。

具体的に言えば、グリスが劣化して黒く変色している個体が大半で
(基本的にほとんどのオールドレンズはこれだが、コニカは特に)
ひどいものになると、グリスが色々なところに塗りたくられてマズイ事になっている。

グリスからはみんな同じ匂いがするので、このメーカーを中心に劣悪なオーバーホールを施していたとか、あまり相性の良くないヘリコイドグリスを使用していた業者が存在しているのだろうと考えられる。(注:あくまで予測です)

グリスの状態が悪かったり過剰に塗られていたりすると、光学系にあまり良い影響をもたらさない。
グリスが揮発してレンズに付着するのはコーティングの劣化やカビ、クモリの発生を招くためできる限り避けるべきなのだ。

問題はまだある。コニカのコーティングは劣化しやすい。
そのためか、市場には多かれ少なかれ、曇った個体が多い。
清掃で除去が可能な段階であればまだ良いが、劣悪な状態で放置しておくと後戻りできなくなる。
幸いなことに、ちゃんとした手順で拭けばどうにかなるものは"まだ"多く、手順さえ理解していれば、光学系も取り出しやすい。


逆光に弱い

人によってはプラスの観点になるのだけれど、コニカのレンズは総じて逆光に弱い。
夜の街灯などは非常に不得手で、レンズによってはかなり強めのゴーストが発生する。
今の手持ちの中で最も良好な逆光耐性を持っているのがKONICA HEXANON AR 50mm f1.8で、それ以外はあまり強くない。
夜間の使用には向かないだろう。


癖のある内部構造

他のメーカーに比べると内部構造が少々特殊だ。
オーバーホールする場合、たいていのレンズは一筋縄ではいかないものだが、コニカのレンズは慣れるまでに時間がかかるだろう。
慣れればどうってことはない。構造にはしっかりと合理性がある。
少し慣れが必要な部分はマウントから直進キーまでのアクセスが面倒である点だ。
強めの捻りバネがあるのでパーツを紛失しやすい。

まあ、何よりの難しさはこれだけではない。
ヘリコイドの条が多く、光学系ユニットもそれなりに重量があるため、満足の行く仕上がりになりにくいのだ。
また、もとより状態の悪い個体が多く、コーティングも劣化しやすいため、清掃する際は完全分解と部品の洗浄と脱脂が欠かせない点も難点の一つである。

最善を目指すなら、手順も工程も多くなりがちだ。
とにかく、手間がかかる。


レンズの年代とバリエーションについて

最後にレンズの世代とバリエーションについて語ろう。

  • KONICA HEXANON (F) シリーズ
    KONICA Fとともに登場した最初期のシリーズ
    プリセット絞り
    あまり見かけないが、マウントは俗にKONICA Fマウントと呼ばれるもので、市場にマウントアダプターが存在しない厄介なもの
    KONICA ARマウントに変換する純正のアダプターが存在しているが、希少かつ高値で取引されている
    一番現実的なのはEbayでL39マウントに変換できるアダプターを購入することだろうか

  • KONICA HEXANON 世代
    KONICA オートレックスが登場し、合わせてレンズもより大口径のコニカマウントⅡつまりARマウントとなった
    自動絞り化し、EE(シャッター優先AE)に対応した
    AR(オートレックス)銘の刻まれていない初期のもので、52mm f1.8などアンバー色の単層コートモデルも頻繁に見かける

  • KONICA HEXANON AR(EE)世代
    AR銘が付いたモデル
    この時代になるとすべてのレンズがパープルのコーティングに変更されている(例外があるかも)
    少なくとも、1970年代以降のモデルには「カラーグレーティッドコーティング」なるものが施されているようで、若干だが、これ以前と以後で写りに変化がある(ような気がする)

  • KONICA HEXANON AR (AE) 世代
    オートマチック表記が黄色のEEから、緑色のAEに変更されたモデル
    機能的な差異はなく、思想の変化があったようだ
    ピントリングのローレットがゴムローレットに変更されより現代的なデザインとなる
    絞りリングのクリックが多くのレンズで一段クリックへと変更された

  • KONICA UC HEXANON AR 世代
    UC(ウルトラコーティング)が施されたモデル
    単焦点のUCレンズは希少かつ高値で取引されやすい
    UCにはウルトラクローズ(超近接)、ウルトラコンパクト(超小型)、ウルトラーコーティング(多層膜コーティング)と、カタログには頭の悪そうな文字が並んでいる
    これまでのコニカレンズとは全く異なり、発色が強くビビットな写りであるが、独特の写りであることに代わりはない

    後の時代に、高級コンパクトKONICA HEXARのレンズを使用し、ウルトラコーティングが施されたL39マウントレンズ KONICA UC HEXANON 35mm f2が存在する

  • KONCA (new) HEXANON AR 世代
    TOKINAと共同(あるいはOEM)で開発していると言われるHEXANONレンズが混在する世代
    カタログにnewの単語が存在したためnew HEXANONと呼ばれているようだ
    小型化が意識されており、一部のレンズが再設計されて登場した
    35mm f2.8や24mm f2.8などが小型化し光学系が変更された
    既存の50mm f1.7や50mm f1.4等も機構が再設計され変更されたデザインで登場した
    50mm f1.4は絞り羽が8枚になった




いいなと思ったら応援しよう!