KONICA HEXANONレンズの分解清掃について

(作りかけの記事だ。何ヶ月かにわたって加筆修正があるだろう)

他のメーカーに比べると内部構造が少々特殊なコニカ製レンズ。
まあ、たいていのメーカーは一筋縄でいかないものだが、オーバーホールに関してコニカのレンズは慣れるまでに時間がかかるだろう。

あまり整備転売市場でも人気が無いと思われるコニカレンズの分解清掃について、いくつかのノウハウを語ろうと思う。


絞り制御機構の分解と組み付け

最初の難関。
マウント側から直進キーまでアクセスする手順が面倒だ。

KONICA HEXANON レンズの絞りリングは内側に多くのモデルでネジ切りがあり、基台に直接ねじ込んで固定されている。
そして、ネジにはヘリコイドと同じようにグリスが充填され、特定の範囲で回転する。(諸説ある。だが、ここにグリスを充填していなかった個体がかじって動かなくなった経験があるため、原則的には入れるべきだろう)

直進キーのネジ止めは絞りリングで隠れており、リングを取り外さない限り、キーにはアクセスできない。
そして、絞りリングについているパーツをいくつか取り外さなければ、絞りリング自体の取り外しが不可能だ。
このとき、捻りバネは紛失しやすいので注意しよう。

取り外すということは組み付けるということでもある。
この組み付けが面倒かつ慣れのいる工程だ。
捻りバネをネジ止めし、所定の位置で固定する必要があるため、場合によってはもっとも時間を取る工程ともなる。
組み付けるときも同様に、捻りバネを紛失しやすい。
作業環境は適切に整頓し、壁や袋を利用して亡くさないようにしよう。


絞りリングがガチガチになる

主にEE版のレンズには、クリックボールを二つ装着するモデルがある。
半段絞りとなるため便利ではあるのだが、機構の劣化とバネ自身の劣化により、絞りの感触がガチガチとした重くて悪い感触になってしまう。

調整箇所は幾つかある。コニカ製オールドレンズの多くのモデルでは絞りのクリック感をイモネジのねじ込み具合によって調整できるようになっている。(例 外 あ り)
ねじ込み具合によってバネ圧が変わるためクリック感も変わるというわけだ。
こういった調整が可能なのは今のところコニカ製品しか知らない。面白い機構だ。

さっき例外ありと書いたが、同様の機構でないモデルがある。
確認している限りだと、HEXANON 85mm f1.8、HEXANON 21mm f4、HEXANON AR 57mm f1.2だ。
恐らく他にも沢山ある。
AR銘が付く以前のモデルは殆どが調整のできない仕様なのではないかと予想している。
専用のキーが存在し、マウントパーツの固定によってキーが押し込まれ、押し込まれた分のバネ圧を発生させる仕組みなので調整が効かないのだ。
この場合は、絞りリングのネジ切りを磨いて綺麗にするとか、充填するグリスを調整するなどして対処するほか無いだろう。

バネの加工は後で戻せなくなる可能性が高いのでやめておくべきだ。
交換可能なバネが売っているとか所持しているのであれば問題はないだろうが。


光学系ユニットについて

マウント部から解説して来たが、そろそろ前玉側に話を移そう。
光学系ユニットは前玉側から取り外しが可能だ。
銘板を外し、フィルターリングを取り外すことで到達できる。この仕組みはモデルによって異なるので注意しよう。

・光学系の清掃
まずは光学系の清掃についてだ。
コニカヘキサノンレンズは内部のレンズが曇っている個体が多い。
大抵は揮発したグリスによるものだが、たまに本当に曇っていてどうしようもないものがある。幸運なことに、描写に直ちに影響するほど濃く曇っているものに出会ったことはないが。
このクモリは、おそらくはコーティングの劣化によるものだろう。

また、コニカレンズに限らないが、前玉や後玉の表面、常に露出した部分が汚れている個体は高確率で表面が劣化している。
汚れた感じが残ったり、コーティングがダメージになって斑を作っていることが多い。

いずれの場合も言えることはただ一つ、どうしようもないものはどうしようもないので、しっかりと清掃し、やりすぎないように注意しよう。

・光学系ユニットについて
光学系ユニットは締め付け環によって固定され、位置決めキーが存在し、上部のヘリコイドに嵌っている。
主に分解する際に気をつけるべきことだが、多くの場合、ユニットを固定する締め付け環は側面からイモネジを突き刺すことで固定されている。
締め付け環が外れない場合は、無理に外そうとせず、確認してから外すようにしよう。

組み付けの際に注意するべきことだが、光学系ユニットがハマらない場合は無理に押し込むべきではない。(絞りの連動アームが歪む可能性がある)
スムーズに入る位置があるので探し当ててから挿入しよう。
このとき、絞りの連動アームを基台側の絞り機構に連結させる必要があることに注意しよう。
マウント側をAE(EE)に設定して、鏡筒ユニット側の絞りの大きさに合わせると連結させやすい。


気難しいヘリコイド

レンズのモデルによって大きく難度に差があるものの、コニカ製オールドレンズのヘリコイド(ピントリング)の調整はいささか難しい。
重く、悪い感触になることが多く、モデルによっては繰り出しによってヘリコイドの重さが変わる。

重さの変動は、繰り出しによってヘリコイド同士の接触面積が小さくなるためだ。
基台側ヘリコイドは繰り出し量が小さいため、こちら側のグリスを硬めにすることである程度対策することができる。

最たる問題であるピントリングの重さの原因は光学系の自重とネジピッチの細かさである。
経験不足により知見が不足しているが、条の多さとピッチの細かさは、そのまま感触の重さになりやすい。
光学系の大きさと自重を、精度を担保しつつ許容するための設計だろう。

整備時、ピントリングの感触は複数の要因により変化する。
詳細にはグリスの硬さ、ヘリコイドの状態、直進キーとガイドの状態、あとは絞り伝達アームの状態なんかがある。
当然ではあるが、滑らかであれば良いし、歪みもなければ良い。

ヘリコイドの感触を改善するためにグリスの硬さ(重さ)を変えるのも良いが、あまり柔らかいものを使うのは少し邪道に近い。
柔らかいグリスはヘリコイド表面の平滑性の影響を受けやすく、指先にまで金属同士の擦れが伝わってくるので感触が悪くなりやすい。なんなら実際摩耗しやすい。
また、揮発性や滲み出しに関しても、光学系のことを考えるのであれば、あまり柔らかすぎるものを使用するべきではないと私は考えている。


直進キーの重要性

グリスの重さよりも先に確認するべきなのは、直進キーの状態だろう。
しっかりと基台に固定されているだろうか?
いくらネジ止めされているとはいえ、キーガイドに対してまっすぐ刺さっていなければ意味がない。意外と直進キーの固定にあそびのある個体も少なくない。
適当な位置に固定して、ネジでしっかりと固定しよう。
ただ、あまり、ネジにかけるトルクが強いと、ネジ頭を飛ばすので注意が必要だ。

もう一つ。直進キーの表面は劣化していないだろうか?
直進キーに抵抗があると、力の伝達率も悪くなり、ヘリコイドを動かす際のトルクのロスが大きくなる。
有効なのは、細かめの研磨剤で直進キーとキーガイドを磨くことだ。
だが、磨き過ぎたり、粗めの研磨剤やヤスリを使用すると、マージンが広がってしまうので良くない。4000~8000番程度の研磨剤で、布につけて擦るのが良い。
あくまで、目的が表面の滑らかさであることに注意しよう。
ある程度磨いたら、洗浄した後に、実際に装着して稼働を確かめてみよう。

なお、直進キーにグリスを塗るのは良くない。
直進キーは光学系ユニットに近い位置にある。
光学系に対して、グリスは天敵であるので、過剰な塗布は避けるべきなのだ。

ただ、どうしても、改善が望めないのであれば、多少塗っても問題ないのでは?という考えもある。
塗る場合は最小限。直進キーを組み付けた後に、綿棒にエタノールやベンジンをつけて余分なグリスを拭って脱脂してしまおう。


グリスが必要なのは、ヘリコイド、絞りリングのみ。

コニカレンズについて過去に語った際、グリスが過剰に塗られている個体が多く、内部の状態が悪いという話をした。
これは警告に近いが、グリスが必要なのはヘリコイドと絞りリングのみである。

・塗りすぎない
・いらないところに塗らない
・パーツをこまめに脱脂する

この原則を守ろう。

また、できれば、グリスは良いものを、そして専用のものを使用しよう。
たまにケチって産業機械向けのグリス(よく蛇腹のチューブに入っているアレ)を使ったりする人もいるが、やめておくべきだ。
ヘリコイドグリスは揮発性やにじみ出しなど、光学系に対する考慮がなされている。
せいぜい3000円程度の出費で、数十本分のレンズを整備することができるのだ。妥協するべきではない。

しかしながら、ヘリコイドグリスとは言うものの、その性能に対して、疑問のあるものもちらほらある。
こればかりは市場にあるものを使うほかない。基本的にヘリコイドグリスなど一般に出回るものではないのだ。
それで不服であれば、持ちうる伝手をうまくつかって、探してみよう。
なかなか難しい話ではあるけれど。


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