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【文学賞を狙うなら読んでおいて損はなし!】文学賞の予選選考者が注目する意外なところ(2012年12月号特集)


 文学賞に送られてくる作品はいきなり選考委員が読むのはなく、下読みと呼ばれる予選委員の方がまず粗選をします。では、下読みの方はどんなふうに選考しているのか、ベテランの予選委員の方に取材をしてみました。

予選委員匿名インタビュー

――選考の流れを教えてください。

 一次選考は外部の下読みの人たちがやり、二次は編集部でやるというのがほとんどだと思いますが、二次選考も下読みにやらせるというケースもあります。最終的に編集部で4、5本の候補作に絞り込み、その作品が選考委員に送られることになります。

――下読みというのは、どのような方がされるのですか?

 このあたりのことは、村上春樹さんの『1Q84』の冒頭部分に書かれています。
 取材をされたものだと思うのですが、非常に正確に描かれています。だいたいどこの賞でも過去の受賞者がやっているというケースが多いようです。編集部の思惑としては下読みという作業を通じて小説の勉強をしてもらいたいということと、経済的な援助にあるということです。そのほかの職種はさまざまだと思います。ほかの出版社の編集者がやっているということもあります。

――一次選考はどれくらいの期間に何本読み、何本を予選通過としますか?

 長編、中編にかかわらず読む本数は50本くらいというケースが多いのではないでしょうか。以前は通過させる本数を指定されていたことがあったのですが、今はそういうことはあまりないようです。
 いいと思ったら何本でもいいから通過させるようにいわれています。

――一次選考では、選考基準のようなものを示される場合はありますか?

 過去に一度だけありました。評価項目の書いてある選考表のようなものがあって、作品ごとに書かされたことがあります。それはエンターテインメント系の新人賞でした。評価項目は「文章力」「題材の新鮮さ」「知識の広さ」「ストーリー性」「主人公の魅力」「構成力」「エンターテインメント性」といったようなものです。項目ごとに点数をつけるという形式になっていました。やっていて非常にやりやすかった記憶があります。

――どんな作品が予選を通過しますか。

 一次については小説になっていれば通過します。それ以上はオリジナリティーが分かれ目になります。

――下読みをされていて、困る原稿とはどんなものですか?

 ノンブルが入れてない原稿です。読んだ作品の枚数に応じて下読みの料金が支払われるというケースがよくあります。
 その場合、読んだ作品の枚数を申請する必要があるのですが、ノンブルが入れてないとこちらで数えなければなりません。
 これがけっこう面倒な作業なのです。どうかノンブルはかならず入れるようにしてください(笑)。それから原稿用紙に印字したワープロ原稿はやはり読みづらいです。綴じ方は紐を使わなくてもいいと思います。バインダークリップ(メーカーによっては「ダブルクリップ」)でいいのではないでしょうか。

――5本残せという指示があった場合で、いいものが6本あったら?

 躊躇なく6本残すと思います。いい作品であるのならば残したいという気持ちは編集部も下読みをやっている人間も共通にあります。新人賞の選考は落とすためにやっているわけではないのです。有望な新人を発掘することが目的です。こんなことを言っていいのかわかりませんが、よく書けた作品ならば枚数がちょっとオーバーしたくらいのルール違反は目をつぶっているのではないでしょうか。

――略歴を書かせる賞もあるようですが、どんなことを書くのでしょうか。また、なんのために書かせるのでしょうか。

 略歴を書かせることについての積極的な理由はないと思います。以前、「職業・専業主婦。書くべき略歴はなし」という略歴がありました。作品はどうってことのないものでしたが、略歴のいさぎよい書きっぷりに感動したことがあります。
 略歴は性別、年齢、最終学歴、現在の職業がわかるくらいでいいと思います。

――梗概はどのように書けばいいと思いますか。また、梗概は何が目的で書かせるのですか?

 梗概を書くように指示されているのは、規定枚数が300枚から500枚くらいの賞ではないでしょうか。作品のあらすじがわかればいいと思います。梗概は編集部内の議論をする際に使うのではないでしょうか。毎回痛感することなのですが、梗概を書く能力と小説を書く資質は別なものだと思っています。
 梗概はおもしろく書けているのに作品はつまらない、あるいはその逆というケースはよくあります。「謎の美少女! 奇怪な出来事が連続する洋館! 私立探偵凸凹〇太郎が立ち上がった! 荒唐無稽な本格ミステリ・ロマン!」といった宣伝文句のようなものになっているのがよくあるのですが、客観的に筋を書くこと。意外に梗概を書くのに悩む人が多いようですが、梗概の出来、不出来は作品評価にはあまり関係ないと思ってください。

――ミステリーの場合、梗概にはトリックまで書くべきだと思いますか?

 むずかしい問題だと思います。「すると意外な事実が判明する」といった文章でもかまわないとぼくは思っています。
 トリックや謎解きの部分が書いてないほうが下読みをしているほうからすれば楽しいということもあります。

――同じ作者の作品が2本送られてくることはありますか。2本送った場合の印象はどうですか?

 シャッフルしているはずなのに、同じ作者の原稿が4本連続したこともあります。書き手の手口や発想のパターンが見えてしまうという印象はあります。2本とも傑作ということはないと思います。

――前年の応募作を改稿したもの、または別の賞に応募して落選したものを書き直して応募することについて、どのように思いますか?

 書いた作品が小説になっているのならばそれでもかまわないと思います。ただ、そもそも小説になっていない作品の細部をいくら書き直してみてもあまり意味はないのではないでしょうか。

文学賞応募の十戒

一、ノンブルをつける

ノンブルは英語で言う「ナンバー」。ページ番号のことです。忘れずに。

二、原稿は綴じる

原稿は事務用の黒い紐か、ダブルクリップで綴じてください。ダブルクリップは原稿の厚みに合ったサイズのものを。

三、余計なことは書かない

「よろしくお願いします」「一生懸命書きました」「設定に関する補足」「先生の新刊、読みました」など余計なことは一切書かないこと。

四、余計なものは添えない

BGM用のCD、イメージイラストなども一切添えないこと。

五、過剰包装しないこと

文章系の場合は、二重に包装したり、台紙で補強したりは不要です。開封したらすぐ読めるのが理想。

六、原稿は市販のものを使う

団体名入りの原稿用紙は不可。ワープロ原稿は無地の用紙を使い、マス目は付けないこと。用紙は横位置で文章は縦書き、感熱紙は不可。ゴミ、染み、髪の毛、香水などがついた原稿は論外。

七、有名な作品に似ていないこと

新人賞に求められるのはオリジナリティー。有名な作品に限らず、応募作品の中に似たものがあればまとめて落とされると思いましょう。オンリーワンを!

八、ありきたりな設定にしない

どこかで読んだような話だとか、またこの設定かと思われたアウトと思いましょう。個々のシーンでもどこにでもあるようなあたりまえのシーンが続くと読んでいて眠くなります。

九、導入部を重くしない

特にエンターテインメント系の場合、導入部で設定の説明を延々とやられるとそれだけで心が折れます。

十、名前に凝りすぎない

小説のジャンルによりますが、歌舞伎町のホストみたいなペンネームは避けましょう。それから原稿にはペンネームしか書かれておらず、別紙の本名と照合できないことがありますので注意!

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※本記事は「公募ガイド2012年12月号」の記事を再掲載したものです。

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