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マーケティングで、仕事を作るということ

Webマーケティング、桁違いの予算がある美容業界

WEBマーケティングの現場では、業界ごとの広告予算の差に驚かされることがある。
特に化粧品や美容業界は本当に広告予算が多くて、他業界と比べてスタートの段階から予算の桁が1つ2つ違うことも普通だ。

例えば有名コスメブランドなら、新商品のプロモーションに数千万円規模のオンライン広告予算を組むなんてザラだ。事実、化粧品・コスメ業界では資金力のある大手企業が続々参入しており、その結果、必要なWEB広告費が高騰している​。
これは美容業界の人たちも頭を悩ませているところだと思う。ただ、その分当たれば利益も大きく、マーケターの腕が試される花形業界でもあるわけです。

地方の一次産業は正直儲からない

一方で、地方に目を向けてみる。田舎の農家さんや漁師さん、林業の方々──いわゆる一次産業の現場では、WEBマーケティングに回すお金どころか、事業そのものがギリギリの綱渡りだったりします。
農林水産業といった一次産業は生産者の高齢化や人口減少もあって経営が厳しく、「他の産業と比べて所得水準が低い」「労働がキツい」「技術やノウハウの継承が難しい」などと指摘されている。

要するに、キツいし、地味だし、ビジネスとしても儲かりにくい。若い人が敬遠しがちなのも無理はない。

で、儲からないっていうことは、広告にかけられる予算がないってことにも繋がります。
実際、地方の小さな農家がインターネット広告を出稿しているなんて話、あまり聞かないですよね。直売所で野菜を並べたり、地元の市場に出したりが関の山で、「マーケティング戦略」なんて言葉とは無縁だったりする。

仮にウェブサイトを作ったりSNS発信をしようにも、人手もスキルも不足していて手が回らない。そもそも一次産業の製品って単価も利益率も低いんです。一般的な農業では、利益率が5~10%と言われていて、これでは大量に売らないと商売として成り立たない。でも、大量に売るためには大量に生産しないといけないわけで、労力も大量にかかる。
正直、儲けようと思ってやるビジネスではないんです。

極端な話、WEBマーケ界隈で潤沢な予算を持つ美容業界が派手な広告キャンペーンで10,000円の商品を10,000個売る横で、地方の農家は地道な直販で100円の野菜を100個売るようなお仕事をしている。100個売っても儲けは500円だ。

収入に歴然とした差が出るのは明らかだ。
だから普通に考えたら、マーケターとしても「一次産業より、予算持ってる業界の案件やりたいな…」となるのも無理はないんです。

じゃあ、なぜ今も一次産業を頑張る人たちがいるのか

それでも僕は、「仕事を生み出す」という点で地方の一次産業を支援する意義はめちゃくちゃ大きいと思っている。
なぜなら、その地域にしかない資源を活かして仕事の場を作れば、そこに住む人々の暮らしがずっと続いていくからだ。

たとえば化粧品や美容業界といった“派手な”ビジネス領域は、WEBマーケティングにどんどん予算使う。SNSに豪快に広告を出し、有名インフルエンサーにレビューを頼み、ブランディング施策をじゃんじゃん回す。
もちろん、そこに投資している企業はちゃんと利益を出しているわけだから、マーケ部門にがっつりお金が回るのは当然の流れだ。それはそれで経済を動かす仕組みとしては大いにアリだと思う。

きれいごとは言わない。僕はお金も結果も大好きだ。
儲かる案件は、いくらでもやりたいし、手放したくないので全力で頑張らせていただく。
文脈上、化粧品や美容業界がお金をじゃんじゃん使うと書いてはいるが、
限られた予算で結果を出すために、日々WEB担当者やマーケターが頭を悩ませていることも知っている。なぜならば、僕もその一人だからだ。

それでも、地方と比べたら、広告予算が桁違いなのも事実だ。

化粧品や美容業界と比べて地方の一次産業を支援する仕事はどうか。
儲けはすぐには見込めないし、まず広告費を捻出するのすら厳しいケースが多い。

美容業界に予算月1,000万円の提案をした1時間後に、農家さんに月10万円の提案をしたら、
「ごめんなさい、月5万円が限界なんです。。」なんてこともザラだ。
儲けのことを考えると、仕事を受けたくても受けられないことも多い。

でも、そこで一歩立ち止まって、
「じゃあ、この仕事で何が生まれるの?」って考えたとき、大きいのはやっぱり「仕事の場、そのもの」なんだと思う。

地方が仕事を失うと、地域の未来も消える

地方、とりわけ農山漁村部が抱える問題は多岐にわたる。高齢化や担い手不足、農地・漁場・山林の荒廃、人口の流出…。これらの要因は、突き詰めると「安定した仕事がない」という問題につながるケースが多い。

つまり、若者が残っても食べていけないから、みんな都市部に移り住む。そこで一次産業に代わるような雇用が生まれていればまだ救いはあるが、そうはいかないのが現状だ。

そこで、地域資源を活用して何とかビジネスを興して、「地元で食っていける」状況を作ろうとする動きが生まれる。

畑があるなら野菜や果物をブランド化したり、山があるなら林業や6次産業化に取り組んだり、川があるなら体験型ツアーで人を呼び込んだり──そういった試みが全国各地で展開されている。

こうした地道なプロジェクトが成功すれば、地域に新しい“仕事”が生まれる。仕事があれば人が暮らしを続けられるし、結果的に学校や病院、商店も存続しやすくなる。

地方に仕事を生み出す意義とは、すなわち「地域そのものを維持し、可能性を広げること」なのだ。

たとえ小さな雇用でも、誰かがそこで生活できる。

そこには経済の循環だけでなく、地域コミュニティの継承や文化・伝統…
そして誰かの思い出の場所が残るということも含まれている。

四万十ドラマが創る「ここにしかない仕事」

この話をする上で欠かせないのが、高知県四万十町で地域に仕事を作り続けている「四万十ドラマ」の取り組みだ。弊社とは4年前からのお付き合いになる。

ここは、地元の資源を徹底的に活かしてユニークな商品を開発し、それを地元の道の駅や通販などで販売している。
大手企業みたいにプロモーションに大金を突っ込めるわけじゃないけれど、「地域の未来を育む」という強いコンセプトで共感を集め、典型的な“ただの田舎”だった場所に、おしゃれなカフェや地元産の特産品コーナーをつくり、そこに人を呼び込み、その結果、地元で働く若者が増え始める。これこそが「地方に仕事を生み出す」最強のカタチだと思う。

※ちょっとした宣伝だが、ここの「栗つつみ」は最高に美味しいので一度食べてほしい。

四万十ドラマを仕掛ける人たちは、最初から利益だけを追求していたわけではなく、「この土地で暮らし続けるために必要な仕組みを作ろう」と考えていた。
ビジネス化はあくまでそのための手段。だからこそ、彼らが手がける商品やサービスには、地元の風土や人々の物語が詰まっていて、お客さんもそこに共感し、お金を払う。結果として売上が伸び、雇用が増える。この流れができると、単なる“特産品ブーム”では終わらない。

もちろん、現実的に見れば利益率は低く、派手に儲かるわけでもないから、継続するには知恵を絞る必要がある。行政からの補助金に頼り続けず、地元の人や外部のファンを巻き込みながら運営を回していかなきゃならない。四万十ドラマも、そうした苦労を経て今の姿がある。でも、少しずつでも雇用や収益が安定してくれば、地域に根ざした“仕事の場”として確実に人を呼び込めるようになる。

「地方を支える」マーケティングを、もっとやりたい

化粧品や美容業界のように予算が潤沢な業界と付き合っていると、確かに広告予算も大きくて仕事がはかどる。

数値目標もわかりやすく、知名度向上や販売拡大の効果も測りやすい。ただ、そこで生まれる“雇用”はどうだろう? もちろん大企業なら社員や派遣スタッフを大量に雇っているわけだけど、それは都会のオフィスや流通拠点の話に偏る。人手不足の時代とはいうけれど、それでも都会の雇用は地方と比べるとまだまだ多い。

一方、地方の一次産業にマーケティング目線を投入するとどうなるか。

きちんとブランディングし、売り方を工夫し、人を巻き込む仕組みを作る。すると、これまで埋もれていた資源や魅力が表に出てくる。

そして、その土地ならではの商品やサービスに付加価値が付けば、新しい仕事やプロジェクトが生まれる。

働き手が増えれば、若い人たちが地元に戻るきっかけにもなるし、観光で訪れる人が増えれば地域の経済が少しずつ回り始める。

こうしてじわじわと“地元経済”が上向けば、そこで新しい雇用が発生する。

WEB広告をどう展開するかだけがマーケティングの本質じゃない。地域に価値ある仕事を作り、経済を循環させる仕掛けこそ、いま地方に求められているマーケティングの在り方なんじゃないかと思う。

「その土地で暮らし続けられる未来」を守る

最後にもう一度強調したいのは、「地方に仕事を生み出す意義」は、その土地で生きる人々の未来を守ることに尽きるという点だ。

一次産業は儲からないとか、大してお金にならないとか、そんな話は今も昔も耳タコになるほど聞いている。
でも、そこに新しい発想や戦略を持ち込めば、きちんとビジネスとして成立する可能性がある。それがどんなに小規模であっても、一人でも二人でも地域に雇用が生まれれば、人はそこで生活し、家庭を築き、次の世代へ伝統や文化をバトンのように渡していける。

大都市には大都市の華やかさがある。それを支えるマーケティングも大事だ。
一方で、地方の小さな集落に、まだ見ぬ可能性が眠っている。それを掘り起こし、そこに仕事を生み出す人たちがいるからこそ、日本のいろんな地域がギリギリ踏みとどまっているのだと思う。


だから僕は、資本がドカッと動く案件もいいけど、「地方の産業をどうやって盛り上げるか」という課題に頭を使うのも面白いと思うし、何より価値があると思う。

儲かる・儲からないよりも、「その土地で息づく仕事を作る」ことが、ほんの少しでも地域の未来を変える力になる──そんな可能性を信じているから、今日も地方を支えるプロジェクトに首を突っ込むわけだ。

いずれ誰かに「なんでそんな不毛なことやってんの?」と聞かれたら、胸を張ってこう言ってやろう。

「仕事を作る仕事が、一番価値があるからだ」

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