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100文字ノワール No.39-57 2020.7.15~2020.7.21
ノワールは狂気と破滅を描く社会的小説。虐げられた人間の記録。愚か者の失敗談。人生という名前の悪夢。騙し合いと裏切り。死から覗き込む生の醜悪。皮肉と嘲笑。
今週も楽しいノワール小説を書きました。犯罪者の囁き。馬鹿野郎の死。男と女の逃走。
39.
長生きのコツってのは、規則正しい生活と低カロリー食、適度な運動だ。お前みたいな暮らしじゃ寿命も縮まる。大丈夫だって。心配すんな。お前が自首してお前が刑務所に行くんだよ。長生きできるぞ。な、いい話だろ? #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 15, 2020
これは言われるほうが馬鹿なんで、さっさと自首すべき。
40.
にぎやかに送り出してやろうぜ。バカだったけど、いいヤツだった。女は犯すし余計に殺してくるしヤク中だったけど、いいヤツだった。銃の手入れには元々頓着しなかったな。暴発して死んだのも、あいつらしい最期さ。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 15, 2020
いい友人を持って幸せな人生だった。
41.
オンボロのジープで街を出た。
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 15, 2020
「これ、いつまで続くの?」と女が尋ねる。
「次で終わるさ」と俺は答えたが、自信はない。
どっちか一人なら逃げ切れるかもしれない。最大の問題は、俺がこの女に惚れてしまったことだ。 #100文字ノワール
典型的ノワール風景。
42.
運び屋にもビジネスってもんがあるんだよ。倍の量を運ぶには人手も倍、リスクも倍、報酬も倍ってのがビジネスだ。どうすんだよ、この分量。これじゃ運べねぇ。お前の激安キャンペーンに付き合ってる暇はねぇんだよ。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 16, 2020
運び屋に格安キャンペーンとかあったら面白いよね。
43.
ビルの最上階に駆け上がった。追手の足音。廊下を走って逃げる。一番奥のドアに鍵はかかっていなかった。「待て!」と声がして一瞬振り向く。思いっきりドアを開けて走り込んだが、残念ながらそこには床がなかった。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 16, 2020
さようなら。
44.
腹からどくどくと血が流れ出ていた。意識が遠のいていく。あの喫茶店で働く女の子の姿が、向こうのほうにぼんやりと浮かんできた。せめて笑ってくれよ。最後に聞かせてくれ、あんたには俺が普通の男に見えてたかい? #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 17, 2020
死ぬときに見る風景。きっと愛想のない娘だろうなと。
45.
雨が突然降ってきた。少女は外に飛び出した。楽しくて仕方ないのだろう。
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 17, 2020
妻を亡くした男の元に転がり込んできた女。その女の連れ子だ。女は殺されたが、復讐は果たした。
「そろそろ家に入れ」と男は娘に声をかけた。 #100文字ノワール
血のつながらない父と娘。まっとうな人間に戻れるチャンスはここしかない。
46.
地図には載ってるぜ。でも、その街は人口統計とかアテにならねぇ。非協力的なんだ。誰がどこに住んでるのか分からないね。あんたの探している女ってのも、死んでるのか生きているか分からないぜ。非協力的なんでな。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 17, 2020
こういう街は世界中にある。もちろん、日本にも。
47.
「礼儀を知らねぇデブだな」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 18, 2020
「そう言うなよ。腕は確かだ」
「でも礼儀を知らねぇデブだ」
「今度のヤマにあいつは外せねぇ」
「でもよ、礼儀を知らないんだぜ、デブなのに」
「礼儀は大事だよな」
「しかもデブなんだぜ」
#100文字ノワール
「腕は確かなんだって」「でも礼儀を知らねぇんだ、デブだし」「デブだから何だ」「しかも礼儀を知らねぇ」「礼儀が大事なのは分かったよ」「デブなのは分かったのかよ」「分かったよ」「礼儀を」「知らねぇんだろ」 100文字
48.
「どうして君みたいな美人がこんなとこに?」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 18, 2020
「人間は自由であり、常に自分自身の選択によって行動すべきだから」
「何を言ってるのか分からないけど、君のおっぱいは素晴らしい」
「あなた、人を殺したことはある?」
#100文字ノワール
サルトルはセリ・ノワールのファンだった。
49.
その夫婦は窃盗から殺人まで、あらゆる犯罪を行ってきた。妻は先日、逮捕されたばかりだ。
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 18, 2020
「旦那が行きそうなところは?」
「分からないです」
「そんなことないだろう」
「だって私、あの人のこと全然知らないんです」
#100文字ノワール
何も知らなくても夫婦になることはできる。
50.
犯人は現場に戻ってくるものだ。女性の死体が埋められた場所に来た男は、あっさりと自供した。
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 19, 2020
「とっくに通報されてたんですね」
「そうだな」
「現場でオナニーしてたのが敗因っすね」
「さすが変態は言うことが違う」
#100文字ノワール
すごく興奮したんだろう。一度で止めておけば捕まらなかった。
51.
「俺たちがやってることっていいことなんすかね」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 19, 2020
「今さらかよ」
「悪人がいなくなるのはいいことですよね?」
「お前面白いな」
「俺、変なこと言ってます?」
「人殺しがいいことかどうか悩んでる時点ですでに面白い」
#100文字ノワール
ゴミ掃除は良いこと。ゴミかどうかの判断が難しい。
52.
「可愛い坊や」って最初にあの人は俺に言ったんだ。それ以来、ずっと言う通りにしてきた。盗む、奪う、殺す。なんでも。愛とか尊敬とか、全然俺には分からねぇ。分かるのは、俺は今でも可愛い坊やだってことだけだ。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 19, 2020
忠誠ってのはこういうのを言うんじゃないかと。
53.
戦況は最高だよ。閣下も殿下も総統も軍曹も死んだ。そうそう、全滅。ラジャー? 何? 違う、そうじゃねぇよ。俺にもそんなカッコいいあだ名を付けて欲しかったなと思って連絡しただけさ。みんな元気で、じゃぁな。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 20, 2020
最後の通信で明るいヤツ。異名とか二つ名って憧れるよね。
54.
「お前昨日、ボスに会ったろ?」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 20, 2020
「会いました」
「臭いって言っちゃダメだろ」
「だって臭いじゃないすか」
「臭いって言ったら消される」
「ボスの足、臭いっすよね」
「あー? 聞こえねぇなぁ。なーんにも聞こえねぇ」
#100文字ノワール
全員で「くせぇんだよ」って言ってやれよ。
55.
俺には何にもないんだよ。金も仕事も女も。何ひとつ持ってないんだよ。手足はついてるけどな。頭がイカれてんだ。親もいない。兄弟もいない。誰からも愛されないし、俺も全員嫌いだ。みんな死ねばいいと思ってるよ。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 20, 2020
随分俺と意見が合うようだ。とはいっても友達にはなりたくない。
56.
「マズイですよ」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 21, 2020
「なんだと?」
「あいつ、正直に仲間の隠れ家明かしたんすよ。なのに用事が済んだら殺すって。公僕がそんなことしていいんすか」
「るせぇな。この街じゃ俺が法律なんだよ、俺が!」
「この人ヤバイ」
#100文字ノワール
街を綺麗にするのは立派な仕事だ。どんどんやればいい。
57.
俺はまた相棒を失った。死んだ仲間たちの顔が次々に浮かんでくる。雨が降ってきた。俺は傘もささず、とぼとぼと街を歩いた。ポルノショップのロゴが輝いている。ネオンサインの下にはゴミや空き缶が散らかっていた。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 21, 2020
喪失、そして孤独。おおかたの人生は、どこからも始まらないし、どこへもたどり着かない。