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凪いだ心に映るのは、本当の自分。
「好きだったのは、あなたじゃなく
あなたのステータスだった。」
好きだと思ってた。
それまでは。
会社でも一目置かれる存在で、男女問わず友達も多く、どこに行っても場の中心になる人。私とは正反対なキラキラして見える彼を、私は好きなんだと思ってた。けれど、本当は違った。"みんなが羨むハイスペックで好印象な彼に好かれている私"が好きだったんだ。
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私には何もなかった。華々しいキャリアも、人を惹きつける人間性も、整った容姿も。日々淡々と事務仕事をこなす、しがない派遣社員でしかない。"スタッフさん・派遣さん"と呼ばれ、誰も私のフルネームなんて知らない。SNSで繋がっている人も少ないし、これといって趣味もない。
ない。ない。なにも、ない。
いつか王子様が現れてこの現状を抜け出せるだなんて、こどもじゃあるまいし思っちゃいなかった。
けれど、現れたのだ。王子様が。
みんなが羨む彼からの告白に、私はすっかり恋に落ちた気になってしまった。思いがけず回ってきたジョーカーに、飛びついてしまったのだ。
だって、この現状を打破するには、王子様と結婚するしかなかったから。なにもないモブから主役になるには、シンデレラストーリーしかないでしょう?
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ようやく手に入れた幸せ。なんとしてでも失うわけにはいかなくて。彼に嫌われないように気を遣い、彼の好きそうな私でいようとした。
それなのに、月日が経つに従って、彼の愛は小さくなっていった。外でデートなんていつからしてないだろう。いつだって、私の家で、私の作ったごはんを食べて、やることやって寝るだけだ。自分を否定され、大事にされているだなんて思えなくて。
それでも、彼を手放すわけにはいかなかった。
みんなが羨む人気者の彼といることだけが、私の人生を逆転するたった1つのチャンスだったから。
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職場でも、プライベートでも、どこでだって空気を読んできた。息を殺して右も左も顔色を窺って、いつしか私は空気を上手く吸えなくなってしまった。
そうなって初めて全てを手放して、そうなって初めて気がついた。
私は彼を、愛してなんかいない。
私が好きなのは、"みんなに好かれているハイスペックな彼"であり、"その彼に愛されている自分"なのだ。
彼が今の生活から転がり落ちでもしたら、モラハラな彼をそれでもずっと支え続けるなんてきっとできないだろう。そういうことだ。
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自分の心の醜さと滑稽さを認め、私は新たな道をひとり歩み出した。もうジョーカーは必要ない。私が私の人生の主人公であるために、誰かの後ろ盾なんて必要なかったのだ。王子様も、王冠も、SNS映えするものも、なにも必要ない。
私が私らしく自然体で生きることが重要だったのだ。
空気を読まずに、空気を胸いっぱい吸うようになってから、やっと本当の人生を歩み出せた気がする。
自分なりのハッピーエンドに向かって生きるだけだ。
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彼女は知らない。彼女のいないところで、彼がどれほど泣いていたかを。彼がどれほど、彼女を必要としていたかを。
それはまた、別のお話。
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