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作家チヨダ・コーキが教えてくれたこと

一部の層にしか受けない作品。大人には通用しない作品。もし自分の作品がそんな風に評されたら、あなたならどう思うだろう。
今の自分のスタイルを曲げて、万人受けしやすいものを学んで改善する?
心折れて作ることをやめる?


「チヨダ・コーキはいつか抜ける」


中高生に人気の作家、チヨダ・コーキ。多感なお年頃に熱中し、年を重ねるとスッと抜けるように過ぎてしまう彼の作品は、そう評される。

彼の処女作である「V.T.R.」を読んだ。
荒々しくも、疾走感のある作品だ。マーダーと呼ばれる政府公認の殺し屋がいる世界を描いたSF?ラノベ。愛する人を思う強い愛の物語ともいえる。
これを書いた当時、彼は若干17歳。若者を中心に熱狂的な人気を誇り、彼の作品はチヨダブランドと呼ばれるようになる。
デビュー以降数々の人気作を世に送り出したが、ある事件をきっかけに彼は小説をかくのをやめてしまった。
彼の小説を模した殺人事件が起きてから。。。

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と、ここまで書いたけれど、チヨダ・コーキは実在しない。
「V.T.R.」は辻村深月さんの小説「スロウハイツの神様」に登場する伝説的作家チヨダ・コーキの作中作として発表されている。
辻村深月さんの小説として読むとはまらないかもしれないけれど、チヨダ・コーキの作品として読むとおもしろい。
あれほどの小説を書ける辻村深月さんが、チヨダ・コーキらしいであろう小説を見事に表現されていて、とても面白い。(スロウハイツの登場人物、脚本家の赤羽環の解説があるのがまた感慨深い。)

まさに、17歳の天才作家のデビュー作という感じだった。
たしかに若者向けな話で、なるほど、チヨダ・コーキっぽいなと思う。
なんというか、万人受けはしないけれど、好きな人はドはまりする中毒性のある話という感じだ。

「チヨダ・コーキはいつか抜ける」

あぁ~たしかに、なるほど。と妙に納得した。

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「スロウハイツの神様」で、"今日、電車の中で狩野は公輝から聞いてしまった。書けてしまうこと、何もないこと、衝突してこなかったこと、不幸でないこと。"と書かれている部分を、漫画ではこう表現されている。

『何もありませんよ。あの殺人事件の前まで、僕には本当に何もなかった。環のように家庭環境が複雑だったわけでもないし、いじめにあったり、酷く裏切られた経験もほとんどない。深刻に困ったことも、人と声を荒げて喧嘩したこともなかった。困らない程度に友達がいて、そこそこお金があって、本が読めて…そんな何もない人生なのに、僕は小説がかけてしまう。すべて想像の産物です。


「チヨダ・コーキはいつか抜ける」

『僕の小説は中高生には支持されますが、大学生以上になると読者ががくんと減ります。皆その頃になると僕の小説から"抜ける"んです。
僕の小説には"経験"の後ろ盾がない。いくら頑張っても大人の鑑賞に耐えうるものにはならない。
でもそれでいいんです。"大人になる前の現実逃避の文学" 僕は自分の仕事に誇りを持っています。

熱狂的なファンがいる反面、酷評も受ける。人気が出ればその分アンチが出てくるものだ。それでも彼が小説を書くのは、わずかな時でも誰かの光になれるならと、そこに自分の存在意義を見出せているからだと思う。
自身の未熟さも理解したうえで、自分のスタイルをもって届く人のために創作し続ける。これ、できる人って案外少ないと思う。

例えば私なら、巧みな構成と深みのある文章が書けないコンプレックスを指摘されると致命傷を負うかもしれない。もどかしさを抱きながら気にしている部分を突かれると、脆いものだと思う。

それでも、心折れずに届く人に届けようと思える自分でありたい。たとえ世間から批判されても、どこかで誰かが望んでくれるなら誇りを持って続ければいいと、架空の作家チヨダ・コーキは教えてくれた。

どんなに辛いことも、経験は創作の血肉になるのだと、架空の作家チヨダ・コーキは教えてくれた。






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サカエ コウ🌙.+
サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。