光差す時。わたしを救った一言。
言葉にならない辛さに初めて名前をつけてもらった時、暗闇に光が差した。
毎日責められて
実家に帰って一週間くらいは、食べることも出来なかった。この頃は心配していた親も、次第に苛立ちと怒りをぶつけるようになってきた。
母のお気に入りフレーズは、
「うちの会社のDさんは休み時間は化粧にばっかり時間かけて、洗い物も掃除もろくにせえへんどうしようもない子や思てたけど、仕事はだけはちゃんとやってるわ。あんたなんかよりずっとマシや」
父のお気に入りフレーズは、
「お前(母)が働きに出たりするからこんな子になったんや」
母は、なんでも人のせいにしたら気が済むんやなっ、と言い返していた。
ひとときの幸せで
父も母も、朝になれば会社に行く。わたしはひとり布団の中で仰向けになる。天井を見つめていると、外で遊んでいる子どもの声が鳥のさえずりのように聞こえてくる。
もうこのまま時間が止まってしまえばいいのに、と何度も願った。
夜な夜な考えて
最低の人間になったわたしは、初めて自分の本性を知る。ここまでひどい人間だったとは。
けれど同時にわたしは、他人の最低な部分を探す。自分の最低さに耐えられないからだ。
結果、わたしはもっと最低の人間になる。
だからわたしはここで消えるしかなかった。
未遂で終わって
なんとか布団から出られるようになった頃、考えていたことを決行した。
外に出る気力はない。その代わりに、台所のドアの上に紐をくくりつける場所を見つけた。
荷造り用の少し太い紐を首に巻いて、ぶら下がった。
だんだん苦しくなってくる。苦しくてたまらない。海で溺れた時よりもずっと苦しい。
耐えられずわたしは両腕で紐をたぐり寄せて、ドアの上に手をかけた。
三度目の挑戦で、苦しさのあまりに助かってしまうとは情けない。
あとは絶望しかなかった。
自死した子どものニュースを聞く度に、あの苦しみを越えるほどのものを抱えていたのかと思うと、辛くてたまらなくなります。
電話線の向こうから
ある日、電話が鳴った。出ると賑やかな声がした。
「ずっと家におったらしんどいやろっ」
ついに怒りの手がわたしの家にまで来た。
「おばちゃんやん、Hやで。お母さんいてる?」
ホッとして「会社に行ったよ」と答えた。
数日後、わたしは母に連れ出された。電車に乗って遠くまで行った。
しばらくして、名前を呼ばれた。
小さな部屋には白衣を着た人がいた。
髪がボサボサで、何度も鼻水をかみながらわたしに質問してくる。
なぜかわたしは、いろいろ聞かれるままに答えることが出来た。「わたしは怠け者でどうしようもない人間なんです」と正直に言った。
すると鼻を詰まらせた声で、あなたは怠け者なんかじゃないですよ、病気なんですよ、と言われた。
びょうき、びょうき、病気?
意味がわかった途端に涙があふれて止まらなくなった。わたしは怠け者じゃなくて病気だったのか。よかった、よかった。
一週間後にまた出かけた。
診察室に入ると、白衣を着こなす男前の先生がひとりいた。わたしは、
「ここには先生がふたりいるのですか?」
と、聞いた。
「いいえ、僕だけですよ」
あのボサボサ頭で鼻水を垂らした人を見て、わたしは正直に自分の話をした。だから、このさわやかで男前の先生だったならば、本当のことをわたしは言えなかったような気がする。
二日後に電話がかかってきた。「どうや、わたしの彼氏は」と言われた。母に精神科を勧めたのは隣のおばちゃんだった。
精神病患者となることで、わたしの苦しみは見事に溶けていった。
ここで人生の第1幕が終わる。わたしは26歳になっていた。
バタバタと9月中に一段落させるために投稿しました。なんとか予定通りに終わらせることが出来ました。ここから先については、少しずつ書いていこうと思います。
今後のわたしの話は、さほど面白くはならないのですが、こういう病人もいるのかと知ってもらえたらわたしが助かります。もちろん病気以外のことも書きたいですが。
本物のオススメで
今回も使わせていただいた写真についてお話しします。
長い文章の後になってしまって申し訳ないのですが、ぜひご一読ください。
写真は、
逢坂憲吾さんの個展「枯花」にて、
「リューココリーネ」という大きな作品の一部を撮影させていただいたものです。
実物は素晴らしいので是非見ていただきたいです。残念ながら東京と京都の個展は終わってしまいました。ですが、この作品が出品される写真二人展があります。
2020年10月7日(水)から18日(日)まで京都で開催される
そ こ か ら な に が み え ま す か
< ウリュウ ユウキ・逢坂憲吾 写真二人展 >
こちらで、見ることが出来ます。
少しでも興味がおありなら、ぜひ体感してみてください。本物を見ないとわからない何かがあります。
ー詳細ー
そこからなにがみえますか
「MEDIA SHOP I gallery2」にて開催
京都市中京区河原町通三条下る大黒町44 VOXビル 2F(クロスホテル京都 向かい)
12時から20時まで、入場無料(作品目録販売予定)
ー以上、写真をお借りしたお礼に代えてー
シリーズ
【坂道を上ると次も坂道だった】
でした。
地味に生きておりますが、たまには電車に乗って出かけたいと思います。でもヘルパーさんの電車賃がかかるので、よかったらサポートお願いします。(とか書いておりますが気にしないで下さい。何か書いた方がいいと聞いたので)