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いじめはいけない。決して許してはならないのに止められなかったわたし。
学童の仕事で一番困ったのは、やはりいじめられる子どもが出てきたことだった。今まで見えていなかったのは、わたしの力不足だ。
家庭訪問にて
Nちゃんは、臭いと言っていじめられていた。やはりわたしでは無理なのだと実感した。なんとか状況を変えられないかと知恵を絞り、一度、Nちゃんの生活を見てみようと思いつき、訪問したことがある。
お父さんは自営業でNちゃんの面倒はおばあちゃんが見ていた。おばあちゃんはNちゃんにあまり愛情を持てないでいた。「嫁が出ていったから」と愚痴るおばあちゃんと話していたらお父さんが帰宅した。
お父さんの第一声にわたしは凍り付いた。
「先生みたいな若い人がうちに来てくれたら僕は嬉しいんやけどな」
本気で言っていることはわかった。Nちゃんには悪いけれど、再び訪問する勇気を持てなかった。
保護者会にて
保護者会でNちゃんがいじめられていることを相談したら、小学4年生なら身の回りのことは自分で出来る、お風呂にもひとりで入れる、Nちゃんが悪いなど、口々に言われただけで何も変らなかった。
自分の子どもがいじめているという現実を受け止めてほしかった。わたしはなんとか助けてほしかった。けれど、これはわたしの甘えだ。
こじれる学童にて
どうすればいいか、わたしは考え続けた。Nちゃんが変わることは難しい。しかし臭いからいじめてもいいわけはない。
言ってきかせてもすぐに元に戻る。せっかくみんなと遊べるようになったと思ったら、
「Nがじゃんけんで後出しばかりする」
小学2年のY雄が言いに来た。Y雄は正義感が強くて何でもはっきり言う子どもだった。わたしが参加するとNちゃんは後出しをしない。困った。
ある日は、おやつの時間が終わって、後片付け当番のNちゃんがお皿を洗っているところにY雄がやってきた。何かと思ったらお皿を洗うNちゃんの手からスポンジをとりあげて、
「皿っていうのはこうやって洗うんじゃ!俺らを殺す気か!」
すばやく洗ったお皿を投げるようにしてY雄は去って行った。
Nちゃんは洗剤で洗った後のすすぎをほとんどしていなかったのだ。これは最初にわたしが気づくべきなのに、Y雄に言われてしまうとは、と落ち込みつつ、Nちゃんに謝った。
こんなことの繰り返しで、どうすればいいのかわからないままに日々は過ぎた。ただ、Nちゃんが毎日学童に来てくれることだけが救いだった。
今ならわかることも
結局わたしはいじめに対して無力だった。子どもの生活に関わる大人として失格だ。もっと俯瞰すれば、何かがわかったのかもしれない。でも実際には目の前の出来事に振り回されるだけだった。
いじめが終わらない大きな理由は、わたしの姿勢だったのだろうと今は思う。
Nちゃんがいじめられるのは仕方がないという気持ちがわたしの中にあったのは否定できない。もっと本気で、いじめを許さないという気持ちをもってNちゃんとも向き合い、いじめる子どもたちと向き合って、関係を変える努力をしなければいけなかったのだろう。
シリーズ
【坂道を上ると次も坂道だった】
でした。
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