部品製造者・納入者の法的責任

以下では製造者、製造者から単に仕入れて他社へ販売する納入者をまとめて製造者等という。

販売先に対する契約不適合責任

目的物が契約の内容に適合するかについては民法・商法に基づく契約不適合責任が問題になる。下請製造であれば、委託者側の指示など帰責事由の有無が争われるだろう。

この点は一般的な論点であるので割愛する。

販売先に対する保証、補修部品供給義務

販売先との任意の契約条件として、法律よりも長期・充実した一定の保証を約束する場合がある。

特に、最終製品メーカー(典型的には家電、自動車など)は、法定の保証よりも長期、充実した保証を提供している場合があり、それに対応するために部品等の製造者等にも同等の保証を求めてくることが多い。

周辺の動作環境がソフトウェア製造者等の管理が及ばない範囲でアップデートなどにより変わることが頻繁に起こるソフトウェアにおいては、保守契約において担保される場合が多いと思われる。

いずれも契約内容次第であるが、対応できないものは(失注リスクを負っても)応じないとするほかない。

第三者の知的財産権を侵害した際の部品製造者等の責任

ここでの部品はソフトウェアも含む。

部品そのものに知的財産権侵害があった場合(権利者に対する責任)

部品製造者等は権利者に対し侵害の責任を負う。

中間業者はターゲットになることは少なかったが、株式会社ズームがZOOM Video Communications, Inc.の提供するオンライン会議システム「Zoom」の「日本の第1号代理店であることのほか、ZVC社日本法人については自らがビデオ会議サービスを提供している事実が確認できず、その実際の事業内容も不分明であること」として商標権侵害を提起している。(2021年9月17日株式会社ズーム「訴訟提起に関するお知らせ」

また日本製鐵が保有する電磁鋼板に関する特許権を侵害したとして2021年10月にトヨタ自動車と中国の鉄鋼メーカーを訴えていたが、12月には三井物産も訴えていたと報じられている

部品そのものに知的財産権侵害があった場合(販売先に対する責任)

侵害品の販売先が権利者に対し賠償金を支払うなど支出した費用は損害として賠償する責任を負う。
侵害申し立てへの警戒や差し止めにより製品の出荷を一時停止したことによる逸失利益も損害を構成しうるが、これは損害額の算定、因果関係の立証などの論点があろう。(詳細は「損害賠償に関するメモ(システム開発を中心に)」参照)

不法行為責任に基づく請求になろうが、第三者の権利非侵害保証条項がある場合は債務不履行責任に基づく請求も考えられる。

権利非侵害保証条項について、知財高裁平成27年12月24日は、売主(兼松)が納入したチップセットについて、買主(ソフトバンク)が第三者から特許権侵害を申し立てられ支払った和解金につき、取引基本契約内の「売主は第三者の権利を侵害しないことを保証する」「第三者との間で紛争が生じた場合は、売主の費用と責任でこれを解決し、または買主に協力し、買主に一切迷惑をかけないものとし、賠償する」旨の定めを理由として賠償を求めたが、当該条項の意義を「①買主が権利者とライセンス契約を締結することが必要か否かを判断するため、特許の技術的分析を行い、特許の有効性、侵害するか否か等についての見解を資料とともに提示する義務、②合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を収集、提供しなければならない義務」と解釈し義務違反を認めた。

※なお買主が支払ったライセンス料には直接関係のない特許権の実施許諾が含まれていたとしてこの部分について因果関係がないと売主側が主張したが、「包括的ライセンス契約において は,契約締結交渉時に相手方に提示された特許や相手方製品がその技術的範囲に属 し又はその技術的価値が確認された特定の特許以外にも,ライセンス契約当事者間 に保有特許に関する紛争が生じるのを防止する趣旨等から,関連する保有特許につ いても包括的にライセンスの対象とすることも多く行われている…これらが一体として本件ライセンス契約の対象特許とされ, そのライセンス料を特に分けて規定していない以上,本件各特許と本件各特許以外 の特許のライセンス料を分離して,前者にのみ相当因果関係を認め,後者に対して は相当因果関係を認めないとすることは,現実的には不可能」として因果関係はあるとした。
ただしこの点は、買主の侵害に対する検討不足や売主の制止を顧慮せずライセンス契約を締結した点とあわせ、過失相殺を認めた。

部品そのものに知的財産権侵害はなく、完成品あるいは他の部品と組み合わされて侵害があった場合(権利者に対する責任)

間接侵害(特101条)が問題になりうる。

スチロピーズ事件判決(大阪地判昭和36年5月4日)では、複数人が分担して、全体として特許権を構成する工程を実施している場合、共同での侵害行為となりうるとした。
特許庁の資料では、この場合の損害賠償責任は共同不法行為となるだろうとしている。

物の発明について、間接侵害には以下の3つの類型があるが、1号と2号が問題になる。

専用品型間接侵害
業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為(特許法101条1号)
多機能品型間接侵害
その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であることおよびその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為(特許法101条2号)
譲渡等目的所持型間接侵害
特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等または輸出のために所持する行為(特許法101条3号)

一太郎事件(知財高裁平成17年9月30日)では、特許権者(松下電器)が、ジャストシステムが製造・販売する一太郎をインストールしたPCを販売するソーテックの両社に対して差し止めを申し立て、ジャストシステムが特許侵害の有無を争った(ソーテックは製造・販売を取りやめたため松下電器は差止を取り下げ)。
判決では101条2号(物の発明の間接侵害)について「広く一般に流通」をかなり狭く解釈し、間接侵害と認定している。(ただし控訴審において提出された文献をもとに特許権は無効とした)
なお同事件は、4号(方法の発明の間接侵害、現行5号)について、その物の生産に用いられる物の製造等する行為を特許権侵害とみなしていない(直接侵害品の生産に用いられる物の生産に用いられる物の製造販売は間接侵害にあたらない)としている。

部品そのものに知的財産権侵害はなく、完成品あるいは他の部品と組み合わされて侵害があった場合(販売先に対する責任)

間接侵害(特101条)に基づき負った損害の賠償が問題になりうる。

なお、販売先が直接侵害者、部品納入者が間接損害者としたとき、間接損害者が支払った賠償を直接侵害者に求償できるかについては、「不真正連帯債務にはならず求償関係は成立しないように思われる。ただし共同不法行為責任を負う場合…には…直接侵害者と不真正連帯債務を負担すると考えられ、自己の責任負担分を超えた賠償を行った場合には、…求償関係が成立する余地がある」とする見解がある。(森・濱田松本法律事務所編「企業訴訟実務シリーズ 特許侵害訴訟[第2版]248頁)

製造物責任が問題になった際の部品製造者等の責任

他の製造業者の指示があった場合

PL法4条2項は、「『当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合においてその欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。』を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない」としている。

しかし、指示に関する無過失を証明するハードルはかなり高いと考えられる。(認められた事案は見当たらない)

また「部品」にあたるかも問題になる。
東京高判平成25年2月13日は、自衛隊の対戦車ヘリコプターがホバリング状態(空中静止状態)から前進飛行を開始しようとした際、突然急激にエンジンが出力を失って落着し、搭乗者が重傷を負うという事故について、ヘリコプターに組み込まれたエンジンを完成品として設計指示の抗弁による免責を否定した。
※なおこの事案ではエンジンのコンピュータ・アセンブリのサファイアが脱落したという欠陥の部位は特定しているものの、事故発生に至る科学的経緯が明らかでない。
※ちなみにこの事案はエンジンを製造した川崎重工業が被告であるが、燃料制御装置の輸入商社が補助参加人として参加し、噴射圧が原因であるとして科学的経緯を争っていた。

他の製造業者の指示がなかった場合

東京地判平成17年2月8日では、パチスロ製造業者が製造したパチスロが焼損し保管倉庫が半焼した事故において、パチスロ機用電源を納入した製造業者のPL責任が争われた。
問題となった電源は過電流保護機能を備えていたが、パチスロ機に使用されているハーネスが耐えられる電流(16A)を超える電流(26A)が流れる可能性があった。事故は電流によりハーネスが融解を起こしたことにより生じた短絡によるものであった。

判決では、電源を組み込んだパチスロ機には欠陥があるが、電源自体には欠陥はないこと、電源製造業者は特に設計に関する指示や情報を与えられておらず、改良等を行わず引き渡したため、部品組み込みについて実質的な関与は認められないとして電源製造業者の製造上の欠陥を否定した(パチスロ製造業者が、電源の通常予見される使用形態とはいえない形態で使用したと認定)。なお本件は控訴されたが、控訴審ででも第一審の判断が維持された。

販売に関わった買主の子会社等に対する言及が契約書にあった場合(2023/10/29追記)

売買契約において、目的物に起因して第三者に生じた損害についての定め(第三者損害の賠償に関する定め)が置かれることがある。

だいたいは第三者損害を最終販売者か最終製造業者が賠償し、その賠償の補填(求償)を求める定めであり、論点としては、
・売主が求償すべき損害は、帰責性があり、相当因果関係の範囲にある損害であるが、それを無視して全額の負担を求められうるか。
・求償する損害の範囲から除外される損害の範囲や条件(例えば弁護士費用を除く、問題の認知後一定期間内に通知する・協議する、など)
であり、法の原則からどちらかを有利にするか、手続き的な対応を明確化することがある。

この文言で、例えば「買主又は買主の子会社等(買主等)が第三者から、目的物に起因した損害に関する請求を受けた場合、売主は買主等に一切の迷惑を及ぼさないよう防御し、買主等の負担した費用を補償する。」というような定めがあった場合、契約の当事者でない買主の子会社等に対する防御・補償に関し、第三者のためにする契約と評価され、買主の子会社等から直接受益の意思表示を受けることがあるという指摘がある。(ビジネス法務2023年12月号27頁。なお文言例は引用元を参考に筆者作成)

(第三者のためにする契約)
第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

民法

本来、契約外である買主の子会社等は、売主に対しては一般の不法行為などに基づき因果関係や賠償額などの根拠を精査する必要があるが、第三者のためにする契約が適用されることにより、契約内容によってはこの負担が緩和され、売主が不利になる可能性がある。

部品がソフトウェアであるときの製造物責任

ソフトウェアはPL法における「動産」ではないので、純粋なソフトウェアの製造者はPL責任を負わない。

一方でソフトウェアを組み込んだ製品は製造物として対象となり、ソフトウェアの不具合は製造物の欠陥となりうる。また、ソフトウェアの仕様、不具合や性状が原因でソフトウェアを組み込んだ製造物に起因する事故が発生した場合には、ソフトウェア部分の仕様や性状が製造物全体の欠陥となりうる。

ソフトウェア制御を有する機器に対し、設定などを行って納入した業者の責任

加工にあたる行為といえるだろうかが問題となるだろう。

加工の定義は「動産に工作を加え、その本質を保持させつつ新しい属性を加えて価値を付加すること」である。
設定行為が「工作」といえるかが問題となりそうだが、上記の通りソフトウェアの不具合が原因でソフトウェアを組み込んだ製造物に起因する事故が発生した場合には、ソフトウェア部分の仕様や性状が製造物全体の欠陥となりうる以上、もともとの製品から設定行為を行った者は、欠陥を生み出したとしてPL責任を問われうるだろう。

例として、IoT機器(ラズパイなど)を他社から仕入れた業者が、設定を行って販売した場合は、そのIoT機器が設定を原因として(過電流を生じさせるなど)事故を起こした場合はPL法上の責任を問われるだろう。


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