わかりにくい!電気通信事業法
外部送信規律でにわかに注目された電気通信事業法。
そのあまりの難解さにくじけた人もいたと思われる。私もそうだ。
今般改めて見てみるとそのあまりに複雑な構成と専門用語の連続に辟易とした。
そこで少しでもその概要を理解できるように本noteを残しておく。
何を規律する法律?
ずばり
「電気通信役務」
「電気通信設備」
「電気通信事業者」
である。
「電気通信役務」の定義と具体例がまた難解であるが、イメージとしては「人と人のコミュニケーションを、電気通信で媒介するサービス」である。
ところで、電気通信事業法は「設備」へのこだわりが強い。
それは電気通信役務の定義が「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること」とわざわざ規定している点にも現れている。
これは立法担当者が「電気通信の特性の第一は装置産業であって、そのシステムの機能を販売していること」と理解していた点にある(「オーラル・ヒストリー電気通信事業法49頁)。たしかに、手紙などの単なる「通信」と「電気通信」を区別する特色は装置なのだろう。
歴史的には、
電話の時代(固定電話→携帯電話)
インターネットの時代(固定回線、モバイル回線)
と大まかに分類できる。
問題は、通信技術の進歩によって電気通信サービスが多様化してきたため、都度改正によってツギハギしてきたために、法律を前から読んでも体系だっておらず、大量の枝番や適用条文のジャンプが多発している。
なぜできた?
電気通信事業法は昭和60年に施行された。
制定前の日本は、国内通信は日本電信電話公社(電電公社)、国際通信は国際電信電話株式会社(KDD)が独占していたが、競争原理を導入し、新規参入を促進すべく電気通信事業法が制定された。
この際、独占の根拠になっていた有線電気通信事業法の改正も伴ったため、電気通信事業法は有線電気通信事業法からスピンアウトしたようなものともいえる。
以降、電気通信事業法は通信技術の進歩と市場、参入者の拡大に伴って改正を続けていく。(参考)
電気通信事業が複雑化していく過程
電気通信事業法は競争原理を導入する目的があったとはいえ、まったくフラットなものではなく重要な通信などは特別にルールが設けられている。
電気通信技術の発展に合わせ、各通信ごとにツギハギしていった結果、今の複雑な体系ができあがった。
いきなり現在の体系を理解するのは困難であるので、歴史に沿ってみていく。
制定当初(昭和60年)
以下のように区分されていた。
第一種電気通信事業:回線設備を設置する事業、許可制。NTT、KDDIなど。
第二種電気通信事業:第一種以外
├特別:電気通信設備を不特定多数に提供する事業で大規模なもの等、
登録制。インターネットプロバイダーなど。
└一般:特別以外、届出制
上記の区分はさらなる自由化のため平成16年に廃止され、現在の登録・届出制になった。そのため、単純に区分がスライドしたとはいえない。
平成16年改正後
平成16年改正は、事前規制撤廃が目玉であったが、重要度の高い特定の役務は依然として届出などにより事前規制となった。
全体として、
【設備・規模区分】
登録を要する電気通信事業
届出を要する電気通信事業
を基本に、以下の3つ(特定は指定の一部)の役務が追加的な規律対象の扱いとなるの構成となる。
【役務区分】
・基礎的電気通信役務:
国民生活に不可欠なもの。
離島との通信や110番など。
・指定電気通信役務:
ボトルネック設備への接続の公平性確保等が必要なもの。
NTTが独占していて代替不可能なもの。
フレッツ光など。
└特定電気通信役務:
特に影響度の大きいもの。加入電話など。
ここで、設備に着目していた電気通信事業が、役務の対象によっても区分されるようになり、ややこしくなりはじめる。
なお指定電気通信役務に用いる設備は、当時の市場やシェア状況の違いから、シェア要件や規制を分けるために固定系の第一種と移動系の第二種に分かれた。
一種指定事業者は、NTT東西
二種指定事業者は、ドコモ、KDDI、沖縄セルラー、ソフトバンク
平成27年改正後
平成27年改正では回線卸売りやMVNOの拡大により、これらに関する改正がなされる。
※なおMVNOや回線卸自体は2000年当初から存在する。当時はPCにデータカードを挿してPHS回線を利用するものだったようである。
あわせて、インターネットの爆発的な拡大によりDNSの重要性が着目されている(参考)。
この議論ではDNSは本来的な電気通信事業ではないのだが、最小限の規律を設けるため電気通信事業法の対象に組み入れつつ、多くの規制を対象外にした。
このような「なんとか行政権に絡め取りたいが配慮して適用除外を設ける」というやり方のため、今日の究極的にわかりづらい体系が完成された。
※そして2023年の外部送信規律に踏襲されている。
全体として、以下のようになった。
【設備・規模区分】
登録を要する電気通信事業
届出を要する電気通信事業
【役務区分】
・基礎的電気通信役務
・指定電気通信役務
└特定電気通信役務
・ドメイン名電気通信役務
令和元年
媒介等業務受託者の登録制度が創設される。
(電気通信事業者ではないのに、規律対象になるという拡大)
令和5年改正(現在)
令和5年、外部送信規律の創設など大きな改正により、新たに第三号事業者が生まれる。
さらに基礎的電気通信役務に、一定のブローバンドサービスが加えられる。(参考)
細かくは端折ってきたが、各改正時点での背景や着眼点は上記のとおりであり、そして現在、以下のような体系になっている。
電気通信設備(2条2号)
├電気通信回線設備(9条1項)
├伝送路設備
├端末系伝送路設備(規則3条1項1号)
└中継系伝送路設備(規則3条1項2号)
└交換設備(規則23条の9の2第3項1号)
├端末設備(52条)
├移動端末設備(12条の2第4項2号ロ、電波法2条4号、5号)
├特定移動端末設備(12条の2第4項2号)※H27改正により追加
├第一種指定電気通信設備(固定系)(33条2項)
├指定伝送路設備(固定系)(平成28年総務省告示第104号)
├第二種指定電気通信設備(移動系)(34条2項)
└指定伝送路設備(移動系)(平成28年総務省告示第105号)
└特定移動端末設備以外の移動端末設備
└その他の移動端末設備
├自営電気通信設備(70条)
└その他の設備(測定器など)
電気通信設備設置用工作物(38条1項)
※事業用電気通信設備については事業用電気通信設備規則、端末設備については端末設備等規則がある。関係法令は以下。
電気通信事業者
【設備・規模による分類】
├登録電気通信事業者
├第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者
├第二種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者
└上記に該当しない登録電気通信事業者
├届出電気通信事業者
└第三号事業者
【重要度による分類】
├基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者
├第一号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者
├第一種適格電気通信事業者
└上記以外の第一号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者
├第二号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者
├第二種適格電気通信事業者
└上記以外の第二号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者
└接続電気通信事業者等
電気通信役務
├指定電気通信役務
├特定電気通信役務
├基礎的電気通信役務
└上記以外の指定電気通信役務
└指定電気通信役務以外の電気通信役務
【特殊な分類】
├卸電気通信役務
├高速度データ伝送役務
├ドメイン名電気通信役務
├特定ドメイン名電気通信役務
└上記以外のドメイン名電気通信役務
├検索情報電気通信役務
└媒介相当電気通信役務
【用途による分類】
├事業用電気通信設備
├特定電気通信設備
├イ第一種指定電気通信設備
├ロ告示
├ㇵ第二種指定電気通信設備
└二告示
周辺の業者
媒介等業務受託者
登録修理業者
おわりに
こうしてみると、絶対的な存在であるNTTやキャリアに対し、他の事業者が参入する仕組みを設けることと、通信技術の進歩に合わせた規律の細分化を繰り返していることがよくわかる。
個人的には、制定当初の電話やネット回線のような設備に着目したわかりやすい規律が、設備の仮想化、サービスの多様化により限界に達し、役務に着目しだしたあたりから電気通信事業法のゴテゴテ感が加速している。
今後も物理的な設備は大した変化はなく、インターネット技術、サービスの加速的な進展を見据えると、電気通信事業法はこれらを扱いきれない時代がやってくるであろう。
そうすると、インターネットサービスは電気通信事業から独立し、インターネットサービス法になる未来があるかもしれない。