パチンコ店

【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(14)尾行でパチンコ屋

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 2月22日、日曜の朝。

 依頼人から得た復讐対象者の情報をもとに、行動に移す。
 村井俊司は大抵、徒歩か電車移動だ。私の愛車を30分ほど離れた駅近パーキングに駐車し、徒歩に切り替えた。

 村井の日曜行動パターンは、午前中はパチンコが主らしい。アパートの見える電柱の影からの見張りは、朝8時前から。約1時間後に二階から降りてきた男がいた。写真によって対象者であることを確認。
 今日もお気に入りのミリタリーコートを着ている私は、フードをかぶり、電柱間隔二本分ほどの距離を保ちながら、追った。

 電車で移動するターゲットは、三つ先の駅で降車。徒歩5分ほどのパチンコ店敷地に入った。既に15、6人ほど並んでいる列の最後尾に、立った。

(寒いのに、オープン前から並ぶんだぁ。依存症が多いと聞いたことあるけど……何が楽しんだろう?)

 パチンコには興味なし。今の興味はあの男との接するタイミングだ。敷地外の自販機を盾にして、様子を伺う。人の列が徐々に増えた頃、私も並んだ。実行するための場所の候補の一つが、パチンコ店内だからだ。
 約三、四時間のパチンコ後は、勝敗で午後の行動が決まる、との情報があった。負ければネットカフェ、勝てば風俗店……が多いらしい。その二ヶ所での実行は困難、と判断していた。

(でも、彼女は何でこんな男と結婚しようと思ったのだろうか?)

 昨日から疑問を感じていた。『恋は盲目』というらしいが、彼女もその類なのだろうか。頭のいい依頼人だったからこそ、微妙に納得してなかった。

 対象者の日曜夜は、行動が定まっていない。友人らと飲食し、0時頃まで呑むこともあるらしい。店舗にもよるが、実行場所の候補にはなる。最終的には、酒酔いして帰宅する路上での実行も、想定していた。

 10時のオープンと同時に、列が前に動き出す。パチンコ店に入ったことすらない私は、ゲームセンターの雰囲気をイメージしていた。
 違った。

(何でこんなに派手なの。奇麗だけど、こんな贅沢さ、いらないでしょ!)

 少し不愉快さを感じたのが、正直な気持ち。
 似たような機械が無駄なく並び、列間には兵隊にように椅子の行列が。同様のセットがいくつも並んでおり、どこも同じに見えるのだから、困惑しないわけにはいかない。
 我に戻りターゲットを探した。四列目奥側の椅子に座り、縦長の機械に向かって、何やら腕を動かしている村井がいた。

 男に近づく前に、別客の動作でパチンコ遊びを学ぶ。金を入れる所、カードを差し込む所、機械を操作する所、などなど。後は機械をガラス越しにジッと見ている。
 それだけの動作だ。(パチンコって暇そうね……)と感じた。
 遠目でターゲットを見ていた。が、15分もしないうちに席を立った。

(ぇっ、もう終わり?)

 これも違った。キョロキョロ機械を見ながら、別の席に座り直しただけだった。

(あぁ〜、席って自由に替えられるってこと、ね!?)

 しばらくしてから、気づいたことがあった。制服の若い女子店員が、私を不思議そうに見ていた。

(そりゃぁ、そうよね。ここで何もしなきゃ、普通怪しむわね。……おまけに……コート、暑くなってきた……)

 その女子店員に思い切って、声を掛けた。だが店員の笑顔は作り物で、頬は引き攣り、眼球は笑ってない。

「すみません。実は二、三時間暇つぶしでパチンコしようと思ったんですが……実は初めてで、他のお客さんを見て覚えようかと。もしお忙しくなければ、遊び方を教えて頂けませんか?」

「そうだったんですね」

 女店員の目は笑いが含まれていた。安心感というより、バカにしている感も否めない。

「大丈夫ですよ。では、先ずはコチラへ」

 それでも、素人相手に優しく丁寧に教えてくれる。玉の買い方から試し打ちまで付き合ってくれた。一通り覚えた私はお礼を言い、そしてターゲットが座する同列の離れた席に座って、打ち始めた。
 チラ見しながら適当に打って30分ほどした時だ。チャンスが向こうから訪れた。ターゲット自身から二つ隣りに席を移動してきた。チラ見をやめ、空気感で男の動作を察す。
 10分ほどした時だ。
 突然、私の操作する縦長四角の機械が、派手な音楽とネオンで賑やかに。下部から銀玉が求めていないのに、大量に出てきた。

(何これ? 当たり?)

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