【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(19)「死をもって償え!」
―― 平成16年4月19日 ――
愛する母を殺害した、刑務所内にいた主犯の死亡記事を見つけた。
『二日以内』と言う源翠《げんすい》氏のコトバがあったため、探してはいたが……本当に、あった。ネットニュースに望んでいたことが。死因は心不全。
これを目にするまで、不安と不信が胃をキリキリさせていた。
この手のニュースは、テレビ報道で取り上げられることは殆どない。刑務所内での受刑者死亡のニュースなど、国民は望んでいないからだろうか。
しかし、ネット上ではそのようなニュースを発信してくれているサイトがある。過去の『加害者連続死亡事件』に興味を抱く人が、ジャーナリストにいるのかもしれない。
もしこれがなかったら、私が……被害者遺族が望んだ復讐の結果を知ることは出来ないに等しかった。
長い月日の怨み、そして苦しみから解放されたようだった。全てではないが、奴がどこかで生きている、ことに対するフラストレーションはなくなったわけだから。
これまでの犯人に対する怒りが薄れていくような感覚。一種の安堵感。
しかしそれは束の間で、すぐに消えた。
犯人の家族のことがこの時初めて、脳に生まれた。同時に、ホッとした心の空洞に、新たなものが射し込んできた。
(これで良かったのだろうか?)
源翠氏と孝博氏が、出雲で語ってくれたことを思い出した。
『力は天命である』ということ、そして『嫌な思いと経験をする』ことだ。被害者家族の哀しみを癒やすことができると同時に、加害者家族に悲しみを与えることになる、と。
しかし、私自身の三年間で蓄積された闇は、深過ぎたようだ。
加害者側の悲しみなど、被害者側の苦しみや哀しみに比べたら取るに足らない。
犯人は、被害者の幸せ、時間、心、愛、優しさ、楽しさ、未来、希望……全てを奪う悪。
犯人の家族……「被害者には関係ないことだ」
犯人よ……「死をもって償え!」
……闇は、私の心を……蝕んでいた。
◇――――
平成12年12月 神戸――
大阪湾を見渡せる高級マンション。中階層ほどの角部屋3LDKに住んでいた。
「それじゃぁ、耶都希ちゃん、来週の期末試験頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
玄関口で、帰ろうとする家庭教師の女子大生に、笑顔でお礼。
「一ノ宮さん、コレ、お口に合うかどうか!? 」
小さめの紙袋を家庭教師に、微笑みながら手渡す、この家の主人。受け取った袋を見ながら、多少の緊張から解放され一気に豊かさを増す、女子。
「うわぁあ〜、ありがとうございます! 先日のお料理も本当に美味しかったです」
手作りの料理が詰められている、透明のタッパーが二つ入っていた。
「そう言っていただけると嬉しいわ」
「耶都希ちゃんが羨ましいです。こんなに美味しい料理を毎日食べられるなんて」
「私もそう思います」
誇らしく、同意した主人の子。少しだけ赤める頬をさらに丸めながら、目を細めた。
「ねぇ、お母さん、来週の土曜、勉強が終わったら、先生に夕飯ご馳走しようよ」
「だーめ! 一ノ宮さんは夕方も家庭教師のお仕事、入ってるのよ」
「来週は大丈夫なんですよね、せーんせい!? 」
「あっ、はい。……実は、先方のご事情で来週は午前中に変更になって……」
「あら、そうなの! それじゃあ、うちで夕飯食べていかない? ご迷惑じゃなければ」
「いえ迷惑だなんて……とても嬉しいお誘いです」
「決定! やったぁー! 」
一番はしゃいでいるそんな娘を見ている母も、笑顔が溢れていた。