【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(29)能力の成長
“力ある者”が活動する上で、依頼人仲介のコネクションは不可欠。それは個々人によって違うらしい。
私の場合、祖父の他界後にその流れ(チャネル)を引き継いだ。各地の被害者支援団体や葬儀屋、神社(宮司《ぐうじ》)などを通じて依頼がくる。
27歳の頃には、新たなコネクションが出来た。それがNS(ネス)。
直毘師《なおびし》伊豆海陽と出会って、二年。高等級《ハイレベル》の陽《よう》の影響は計り知れない。
私自身、祓毘師《はらえびし》として成長していることを、実感している。
彼に見習い、メンタル制御を行なうことで依頼人の闇を短時間に膨張させ、闇喰《やみく》を行なうことが出来るようになった。
それだけではない。
既に出来ていたことではあるが、精度を上げ、バラエティに富む。
闇嘔《あんおう》の際、依頼人の幽禍に細かく指示を与えることが、可能になった。
一つは特定の部位への集中、一つは分裂闇による時間差攻撃および部位ごとの稼動、もう一つは対象者自身の闇を同化させることだ。
直毘師に譲る場合はこの技も意味を成さないが、直接闇嘔《あんおう》する際に回数を分けて行なうことが出来るため、長時間苦しめるという点で効果が増す。
ただ対象者に対する回数分の、直接的な闇嘔が必要になるデメリットもあった。
そこで私は、事前に分裂させた幽禍《かすか》毎に指令を出すことを可能にした。分裂させた幽禍を一度に闇嘔、その後に対象者の体内で一部のみを待機させることに、成功した。
例えば、一つ目を行動させた後、二つ目をおおよその指定時間後に稼動させるように仕向ける。対象者の症状は、一つ目は弱く、二つ目で追い打ちを掛けることも出来るのだ。
この方法は、自分にとっても依頼人にとっても、メリットになるもの。分裂させる数も次第に増え、現在では数百単位にも。脳神経などを冒し幻覚や幻聴を引き起こすのみならず、細胞単位に潜む闇へと誘うことが出来るようになり、細胞死滅や器官停止などを目論むことも出来るということだ。
ただ実際に、そこまで望む依頼人は然程いない。メジャーなのは、幻覚や幻聴で苦しみを与え、数日で悶え殺すことを望まれることが多い。
さらに、同対象者に対する複数依頼人の闇喰《やみく》も可能にした。両手を使い、二人同時にやる。故に個人の闇の選別は難しかったが、修得した。
それに伴い、体内でその闇たちを融合させる、なんて高度な術も身につけた。これは、もし一人分の闇が小さくても、複数人の闇を融合させることで、復讐に十分なエネルギーを確保することが出来る、ということだ。これによって、依頼人の命《みょう》の負担が少なくなる、従って減る寿命も少なくなる、というメリットがある。
能力値《パワー》を向上させることで、新月まで保持できる幽禍《かすか》の量を増やすことが出来ている。つまり、期間限定として、数多くの依頼人の闇喰《やみく》を行なえるようになっている、ということ。勿論、そのリスクは大きい。
人の闇は闇喰してみなければ分からない場合もある。そのために、それを行なう場所を指定しているわけだが……。その場所なら、能力値《パワー》を一気に増やすことが出来る。闇がデカ過ぎても一時的ではあるものの、対応可能だ。
私は、まだ自らの能力値《パワー》を脅かすような闇の持ち主に出会ったことはない。が、先祖に闇喰で失敗した人がおり、巣食われた闇によって我を忘れ鬼と化した、と伝えられているため、祖父から教わったことを守っている。
期限までに処理できる自信はある。
それは、直毘師《なおびし》である伊武騎《いぶき》碧《あおい》と伊豆海陽の両名がいるから。違うタイプの二人ではあるが……。
彼らがいることで、祓毘師《はらえびし》としての使命感は増し、生活も充実していた。