【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(13)友だちなど必要ない
いつもの通り、依頼人に復讐代行のための条件、および掟を説明した。そして、具体的な復讐プランを相談しながら、ストーリーを決めていった。
「……分かりました。苦しめることに重点をおかず、早急な処理をしましょう」
「はい、すぐにでもお願いします」
焦燥状態の彼女には考える余裕さえなく、質問や提案について即答していた。緊迫感と危機感が彼女をそうさせているのだろうか。
「他殺の状況を残さず、可能な限り自殺の方向へ進めていきます。念のため、明日から大阪を離れてください。出来るだけ遠くへ。観光地など証言が残りやすい場所がベストです。それから旅行することを、身近な人、最低一人に伝えておいてください。友人、同僚、親戚でも結構ですから。当たり前ですが、彼の知らない人にですよ」
「アリバイ、作りですね、分かりました」
彼女の頭の回転は速い。さすが不動産会社の現社長だ。判断が早くて助かっていた。
「彼から離れるためにも丁度いいです。
ではマレーシアへ行きます。あちらにも父の所有する物件がありますので、仕事として出掛けるのは問題ないはずです。
どのくらい離れていれば宜しいですか?」
「三日、四日あれば処理は済んでいます」
「では、二週間ほど向こうへ。思いつきですが、カンボジアの市場調査でもしてこようかと」
スムーズに話しが進み、彼女の同意を得た。
「あなたとは、二度と会えないのですね、これで。残念です」
そのようなことを告げてくれた依頼人は、嘗《かつ》ていなかった。残念そうな彼女の表情に、少し戸惑ってしまう。しかし、情に流されてはいけない。依頼人とは二度と会ってはならない、からだ。
「……私のこと、ここで会った記憶も、闇と一緒に取らせて頂きます」
「あなたのこと、残してくれることは、出来ないのですか?」
「……掟ですから……」
また困惑しそうなことを、言ってきた。しかし、私の存在を依頼人の記憶から抹消することは、この世での混乱を避けるため、でもある。復讐代行について、被害者から漏れてはならない。ただ、被害にあった事実、宮司に相談した事実などは消せない。それが、祓毘師《はらえびし》の掟だからだ。
「あなたとは、友だちになれそうな気が……そうです、よね。仕方ありませんよね」
(とも、だち……)
彼女の眼差しから避けるために、私は目を閉じた。心のどこかで繰り返す“友だち”というワード。
(……いや、友だちなど必要ない。……違う、祓毘師でいる限り、友だちの存在は、邪魔でしかない……)
本心からそう思った。
口角を上げ、微笑むような表情をわざとらしく作った。彼女に適切かどうかは分からないが、伝えた。
「これからのあなたの幸せを、心から願っています」
理解してくれたようだ。微笑みで返してくれた。
明日、実行することを誓った。対象の男と接触し、処置することを約束した。
最終手続きに入る。彼女との握手によって、彼女の抱える”闇”と、それに伴う”命”を頂戴した。1分ほどの”闇喰《やみく》”は、恙《つつが》無く終えた。
依頼人との儀式を終えると、依頼人は去った。不要記憶を抜かれた状態で。
翌日、対象者への闇嘔《あんおう》を遂行した。