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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(28)少年との共鳴

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 愛車に少年を乗せ、次の目的地、三重刑務所へ。

 一緒に行くことは事前に決まっていた。
 十数分ほどは二人とも無言だった。が、少年から沈黙を破った。

「実は連れて来ちゃったんだ」

 唐突な一言から始まった。

「……な、何を? 」

 依頼人の怨度が低いことを想定して、もう一つ準備してきたものも教えてくれた。
 それは、被害にあった彼女自身の幽禍《かすか》だと言う。

「どこから? どうやって見つけてきたの? 」

 驚きを隠せるわけがなかった。ただ好奇心もあった。
 浮遊している幽禍《かすか》は私に見えない。教えてくれなければ気づくはずもなかった。それでも反応的にバックミラーや少年の足下などを、チラチラ見ている自分がいた。

 相変わらずの透き通った声で、応えてくれる。
 賀茂別雷神社に来る前、彼女が跳ねられ亡くなった現場や彼女の自宅付近に立ち寄ってきたらしい。警察を通して入手していたパーソナル情報をもとに調べ、浮遊している彼女の幽禍《かすか》を見つけ出していた。それから今に至って、傍に同行させている、と淡々と説明してくれた。

 唖然としている私の顔を見ている少年と一瞬目が合うと、さらに続け出す。
 意外におしゃべり、なのかもしれない、と思った。

 ヒトの命《みょう》は本来誰のものでもない。自然界から生じたものだから。
 ヒトとして生きている間だけ、そのヒトが保有者となり人体に備わっている。生きていくための活動エネルギーだから。
 命《みょう》のエネルギー量がヒトの寿命を決める。寿命前に亡くなった人の命は保有者がいないものとして、活動エネルギーが残っている期間、空《くう》に浮遊し続ける。
 その浮遊している命には、生前保有者であった人の闇が膠着《こうちゃく》している。……ことなど。

 この辺りは私も知っている内容だったが、年上らしく相づちを打ちながら、初心のように聞いていた。

「浮遊してる幽禍《かすか》ってね、大きさなんかは当然違うけど、浮遊する範囲も違うんだよ」

「えっ、そうなの?」

 初めて聞いた。

「付いてる闇が多ければ多いほど、怨度《おんど》が高ければ高いほど、範囲は狭くなるんだ。例えていうなら、体重の軽い人は行動範囲が広いけど、重たい人は狭いってこと。
 だから、闇が多い人のは重たくてあまり動けないんだ。でも軽い人でも過去の思い入れが深かったり、生きてる時に行動範囲が狭かったりする人のも狭いけど。
 逆に外国とか思い入れの深い人は、瞬時にそこへも移動できるんだよ。ただね、それは人間のような意識じゃない。一種の共鳴作用でね、移動出来るんだ」

「そ、そうなんだぁ。……そんなこと誰から聞いたの?」

「聞いたんじゃないよ。自分で確認した」

(えっ!? 調べたっていうの)

 運転席で驚く表情の横顔を、助手席の彼は見たのだろう。

「驚くほどのことじゃないよ。彼らと仲良くなれればね」

(彼ら? って、幽禍《かすか》のこと!?)

ちょうど赤信号で止まっていた。私は彼のほうに顔を向けていたが、彼は前方への視線を変えず、続け始めた。

「闇になるような情報があれば、生前保有者の幽禍《かすか》を見つけることは、そんなに難しくないんだ。大抵は亡くなった現場とか自宅、学校とか会社とか。好きな場所、思い入れの強い場所などに浮遊しているからね。
 突然事故で即死しちゃうと、そこに対する闇がないから現場を浮遊していることは殆どないけど、殺されたりすると、恐怖心や犯人への怒りなどが一気に膨らむから現場に残ることが多いんだよね。
 例えば、家族より友だちを大切にした人は、自宅付近に浮遊してることは殆どない。物質世界のエリアだけのことだけじゃない。人の領域も一つの範囲になる。特定の人に嫉妬や憎悪、逆に心配や溺愛心を持ち続けている人は、その対象者から離れようとしない。その人の行動に合わせて付いて回る。だから、生前の情報があれば、探す範囲は特定出来てくるんだよね。
 今回の被害者については、仲介屋さんに頼んで詳しい情報を調べてもらった。もともと嫉妬深い性格で、自分よりモテる友達がいたら避けてたみたいだね。前の彼氏を奪われた時は相手の女性をずっと嫌ってたんだって。
 彼女の幽禍《かすか》は自宅から彼氏の家周辺で浮遊してたけど、特徴もあって意外と早く捕えることができたんだ」

(そん、そんなことが……この歳で? できるとすれば、この子、スゴい!)

 直毘師《なおびし》がそこまで調べ、特定の幽禍《かすか》を探すことなど誰も行なわない。この少年はそれを度々行なってきたと言う。
 正直私は、ただ驚いただけでなく、少年の執着、それに恐ろしさをも感じてしまった。

 少年の名は、伊豆海《いずみ》陽《よう》。トップレベルの直毘師だ。そして組織NS《ネス》の一員。
 何かしら惹き付けられるモノを持っている。まだ13歳だが、冷静さと綿密さに関心していた。


 夜8時過ぎ。三重刑務所が近くになる頃、陽《よう》は具体的な指示を出してきた。
 慎重な彼は、街中の防犯カメラに出来る限り映らないよう、国道二十三号線から外れ、店舗のない路地を走行させた。刑務所の横を流れている川の反対側に行くように、と。さらに、街灯のない場所で車を停め、降りたらすぐに車を走らせること、二十三号線以外の道を走行しながら15分後に降りた場所で乗せて欲しい、ということだった。

「どこか店の駐車場で待機しているのはダメなの?」

「駐車場の広いショッピングセンターならいいけど、コンビニやスーパーなどの駐車場はやめておいた方がいいね。監視カメラに大きく映るから」

 納得した。
 本音を言うと、少年直毘師の闇儡《あんらい》を実際に見たかったが、仕方なくそれに従った。直接幽禍が見えるわけではないから、諦めた。

 15分後、闇儡を終えた少年を乗せ、帰路につく。

 三日後の朝、ネットニュースでは、独房での自殺とだけ書かれていた。詳細は不明。
 私はこれまでネットニュースによる情報だけでの確認だったが、この日SNS連絡が届く。
 刑務所内で起きた詳細、死因の内容、そして現場となった独房の写真が一枚添付されていた。メールの最後に『YOU』の文字。送り主がすぐにわかった。

 私の闇喰《やみく》と伊豆海陽の闇儡《あんらい》によって、復讐代行は遂行成就されたことになる。ただこの惨劇後の画像を見ながら、ふと13歳の直毘師のことを考えた。

(あの冷静さ、慎重さは、どこで身に付けたの? ……13歳とは思えないほどの、闇……何があったの? ) 

 初コンビ以来、陰ある陽に惹き込まれていった。
 恐怖ではなく、何か大きなものを感じた。私自身の闇は、陽と共鳴し始めているのだろうか……

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