【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(34)依頼の条件
5分ほど経った頃、鳥居の下に姿を現す男二人組。
白髪男は偶然を装っているかのように、自然体で驚きの表情を見せていた。
「おぉ、またお会いしましたね! 先ほどはありがとうございました」
微笑みながら近づいてきたが、どのように反応していいのか分からず、ただ会釈。
白髪男の誘導で境内を一緒に歩き、数歩後ろからは付き人のような中年男が。
「三浦耶都希さん、三年前の事件を私はニュースで知っていました。そして今回、あなたが犯人を恨んでいることを知ったわけです」
先程の笑顔はなく、優しい表情で語り続けた。
「大切な家族を失った悲しみ、苦しみ、怨みは、一生涯心から放れることはありません。それらが身体を巣食う、つまり病気や鬱《うつ》などになってしまい、さらに苦しさが増すこともあります。
私たちはそれを“闇《やみ》”と呼んでいます。
被害者の家族や親族は、その“闇”を抱えて生きていくことになるわけですね」
私はそのまま当てはまっていた。
「ご存知の通り、多くの国では敵《かたき》討ちや復讐は許されていません。個人での復讐は許されていないのに、民族や国での復讐は便宜上許されています。それが兵器を使った戦争です。
つまり復讐心は、国を動かす人たちでさえも持ち合わせているものです。
被害者家族のご心情からすると、何とも矛盾している世の中なのです。愛する家族を殺されたのに、その犯人は死刑に処せない限り、同じように生き続けます。
それが法の限界です」
高校すら通っていない18の私でも、納得した。矛盾を感じていた私にとって、共感してくれる人がいたことは、心の救いだ。
伊努《いぬ》神社本殿後方の古墳あたりで立ち止まり、話し続ける男に耳を傾けた。
「伺っているかもしれませんが、私は被害者の“闇《やみ》”の解放を代わって行なう者です」
「やみの、解放? 」
「そうです。
正確には、依頼主を冒す闇となるものを私が吸引し、そしてその闇を他で再利用する、ということです。
私はその“力”を授かりました。天命だと信じています。ですから、これまで何百人という被害者家族の依頼に応えてきました」
“力”の内容については意味不明だったが、ハッキリと申し出た。
「私も、お願いするためにここへ、やってきました」
「はい。
そのためには、三つの条件を満たさなければなりません」
頷く私を見て、説明を始めた。
「まず一つ目に、他言無用であること。
もしこの活動ができなくなれば、多くの被害者の闇は解放されず、苦しみ続けます。
私の行為は、許されない犯罪なのかもしれません。ただ法では裁くことが出来ない、のも事実です。この“力”は証明出来ないからです。
先ほども言いましたように、私は天命に従い、選んだ道を全うしているだけです」
他言するつもりは毛頭なかった。私はあの仲介屋の男を信じて、ここに立っているからだ。
「二つ目に、会うのはこれが最初で最後です。
掟として、お一人一度の依頼とさせていただきます。
この力を悪意的に利用されないため、とお考えください」
仲介屋から説明を受けていた私は、ここまでは理解できた。
こんな復讐心を抱く不幸な体験など、二度とご免だから。疑念すら感じなかった。
「三つ目……とても大事なことです。
……依頼人は“命を掛ける”必要があります」
これも仲介屋が言っていたことだ。すでに受容していた。
しかし、意図とするところが違った。三つ目の条件は、耳を疑うしかなかった。