【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(45)巨大組織への不安
元気がないことを感じたのだろうか。
「湊さん、何かありました? 」
パート先の魚市場に出入りする30代の男が、心配してきた。
彼は洲本市にある、老舗和風居酒屋の料理人。七年程前から料理長に食材調達を任せられ、市場へ来るようになった。真面目で好評の男性、篠倉《ささくら》勝秋《かつとき》。丹波出身の彼は高校中退後、料理人を目指し、今の店で働いていると聞いたことがある。短髪でガッチリ体格、言葉少なく、仕事一筋というタイプだ。
ここへの食材調達は週二から三日程度。度々私に声を掛けてきた。
「別に何も」
素っ気なく応えた。
「ならいいんですけど。元気なさそうだったから」
長年、無表情で無強調に働く私だったから、元気がないと思われたのは、この時初めてだ。
確かに落ち込んではいるが、それを態度や表情に出したつもりはない。
彼はそれを察した。
「大丈夫です」
大丈夫ではなかった。でも彼に言っても仕方のないこと。目も合わせず、淡々と仕事をする私に、「それじゃ、また」と、一言声を掛け離れて行く。チラッと彼の背中を流し目で確認しながら、気にせず仕事を続けた。
調達に来た翌々日も彼は、私に声を掛けてきた。
「湊さん、お元気ですか? 」
「元気です」
「そうですかぁ。それじゃ、また」
この他愛《たわい》ないやり取りが当たり前のようになっていた。
ただ、次の仕入れの日、彼から別のコトバを受信した。
「僕じゃ頼りないかもしれませんが、お話しを聴く自信はあります。いつでもお店に来てください」
彼なりの誘いなのだろう。
「ありがとうございます」
無下に出来ず、お礼を言ってしまった。
以前の私なら(誘ってるの? 行くわけないじゃない)と、男には攻撃的な思いを抱いているはずだが、この頃は違った。
あのハシガミレイたちと出会ってからというもの、私の中で何かがズレていた。
不安定な状態のある日、気になる口コミ情報を発見。
週刊誌記事がネタになることは多い。これまでの『加害者連続殺人事件』に関する記事は、当然知っている。それに関与しているのは私たちだから。その記事を書いているライターの名も覚えてはいた。
口コミと掲示板の内容からして、そのライターによる新たな記事によるものだった。
七月初旬に発売された週刊誌。そのタイトルが――
『国民の知らない裏社会 三権を牛耳るエリート官僚系裏組織の被害増! 』
このタイトルと口コミで、あるものとを重ねた。
(ネスのこと? )
すぐに週刊誌電子版を購入した。全てに目を通した後、恐怖と身の危険を感じたのだ。
(これが全て、ネスの仕業……)
組織《ネス》は予想を遥かに超える強大なもの。政治家や権威者も犠牲になり、そして誰かが操っていることになる。国民さえも騙されていることになる。
(いや、こんなこと……信じられない)
『ただ羅列し無理矢理関連づけている』……そんな口コミもあるように、私もそう捉えたかった。
この記事の“裏組織”がネスとは限らない。別の組織なのかもしれない、と考えることも出来た。
しかし犠牲になったリストに、私も知る人物。県議会議員の“回道《かいとう》正志”の名があった。
復讐対象としてではなく、裏組織の犠牲者として記載されていた。違和感を感じた。
(回道が犠牲者であるなら、三人を殺した加害者というのは嘘なの? )
組織《ネス》への不信は留まらない。
そんな精神状態である時なのに、SNSを受信。
―― To.L13
07132100
KYOTO
W L13&N3
OK or NOT ――
これを見た私は、今までの指令と微妙な違いに気づく。
(京都……神社じゃない、の? 対象者《ターゲット》の詳細も、ない)
いつもなら神社を指定されるが、京都という地名だけ。どこに行けばいいのか不明だ。それに、対象者の名前や依頼人の詳細など、一切記されていない。
陽《よう》とのコンビのため、対象者の情報は必要としないが、依頼人の情報や復讐理由は知りたい。これだけでは、返答するのに抵抗がある。しかし……
疑問はすぐに解決出来た。
まもなく、陽から携帯に電話がかかってきた、からだ。