勝手に親戚ぶってみる (TAXI ミニドラマ 6)
深夜の大阪市生野区。
年配の女性が手を上げました。
午前3時。この辺りには出歩いている人はほとんどいない。
物陰から弱々しく手を上げたその方に気付くのが遅れ、少し急ブレーキになった。
小柄な60代くらいの女性。行き先は岸和田市の徳洲会病院。
ここからだと1時間近くかかる。
こんな時間に病院へ向かうのはそれなりの事情がある。多くの場合、つらい事情。
「・・妹が危篤なんです」
女性が話を始めた。
妹さんは少し前に脳梗塞で倒れたとのこと。
「もう間に合わないかもしれません」
女性は携帯電話を持っておらず、妹さんのいまの状態を確認することができない。
なるべく早くお送りしたい。車のスピードを上げた。
姉妹のエピソードなどを話してくれた。
妹さんの一生を見てきたお姉さん。見送る寂しさの言葉もあった。
実際よりも長く感じられた道のりを経て、病院に到着。お釣りはいいですと言ってくれた。
もう亡くなっていたら一旦家に帰るので、少し待っていてほしいという。携帯番号を渡して駐車場で待つこととなった。
10分ほどして電話が鳴った。
「間に合いませんでした。やっぱりもう少しそばにいてやることにします。ありがとうございました」
見知らぬ人の死を知って僕は病院を後にした。親戚の叔母さんを亡くしたくらいの痛みを感じた。
見上げた空。
夜が終わる気配が美しかった。
ご乗車、ありがとうございました。
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