俺のこと嫌いでしょ? (TAXI ミニドラマ 5)
午前5時の繁華街。
かなり酔ったお客様にご乗車いただきました。
体の大きな若い男性。
童顔に伸ばした口髭が似合わない。
顔のイメージを一言で言えば、タラちゃんに口髭。
ヒゲくん「◇▲◯町まで・・」
かなり酔っていて言葉が聞き取れない。
何度か聞き返す。
どうやら「小橋町」らしい。
車を走らせながらミラーで確認すると、ウトウトと今にも眠りそうな雰囲気。
「何時から飲んでたんですか?」
「小橋町の交差点、右でいいです?」
深く眠らせないように、途中で何度も声をかける。
答えるヒゲくんの声はしどろもどろで、ほぼ理解できない。
すると突然、
「俺のこと、嫌いでしょ?」
???
「ねぇ。俺のこと、嫌いでしょ?」
後部座席から身を乗り出して詰め寄ってきた。
顔、近いわ! ヒゲ、似合ってないって!
「嫌いじゃないですよ」と答えるが、繰り返し「嫌いでしょ?」と迫ってくる。
……なぜか涙目で。悲壮な顔で。
嫌われることを過剰に恐れているように見えたヒゲくん。
自分が好きじゃないのかもしれない。
酒に酔って、心の奥の気持ちが顔を出したのだろうか。
不安そうな彼の顔には、幼い子どものような純粋さがあった。
ヒゲでは隠しきれない純粋さだった。
嫌っている疑惑を持たれたまま、目的地に到着。
ホントに嫌いじゃないって分かってほしくて、笑顔で送り出した。
できれば笑顔を返してほしかったな。
そして彼が、自分自身にも笑いかけられるように願う。
ちなみに、お送り先の家の表札は「フグ田 」ではなかった(笑)
ご乗車、ありがとうございました!
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