#65 お義母さんの女優魂
やっとヤツが動き出したと、
お義母さんからチクリの電話が入ります。
「アイツ、退去日が明日に迫ってやっと言ってきたわよ!」
☆
それまでも、私がいなくなってから何度か、
「飯食わせてくれよ」
というちょっと可愛らしいことをしています。
その度に
「アクビちゃんはどうしたのよ?」
「お母さんの具合が良くなくて」という演技を、
お互いに繰り返しています。
全て知っているお義母さんにとってはただの茶番です。
一度、どうにも顔を見たくなくて、
息子のいつもの食事の無心に
「今更言っても何もないわよ。
今から買い物行くんじゃ遅いじゃない。」
と断ったそうです。
が、
「危なかったわよ。私、今まで一度も断ったことないのよ。
女優失格だわ!」
あまりにも気持ちが離れてしまったため、
いつもと違う言動をしてしまったと、
すぐに気付いて
「あり物でいいなら食べに来なさいよ」
と慌てて電話をかけた、と言っていました。
なんとも可愛いお義母さん。
普通なら息子が甘えてくるのは嬉しいはず。
どうにかして顔を見る機会を減らしたい、なんて願うのは、
本当に悲しいことです。
「アクビちゃんがあの家を無事に出るまでは、
少なくとも私はこのまま穏やかにしておかないとね」