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introduction 〜心像劇場〜(ⅴ)

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作   :骨髄
ジャンル:幻想、ファンタジー
名目  :小説風、脚本風
大分手長くなっております、分割しました第五話、どうぞよしなに。。
第1話>>https://note.com/kotucotu_z552151/n/n1e9c99d074aa?sub_rt=share_b
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少女   :もう、心配性。何年ここにいると思
      ってるの?
青年   :ははっ心強いね。すぐに行くから、
      それま
で持ち堪えて。行ってくる。

少女   :任せて!行ってらっしゃい。

二人はその場で別れた。少女は浸水した階下へ、青年は階段を登って突き当たりの壁に右手を押し当てた。ゴトリ、と音を立てて壁に擬態した扉が開き、青年は扉の向こう、暗く細い廊下の奥へ消えていく。閉まった扉は何事もなかったかように、また壁の姿に戻った。



         ***



ーーコポコポッ……

 少女は暗闇の中を歩いていた。地下は最低限の電灯しか点いていないため、常時薄暗いのだが、浸水時はそれに輪をかけて暗くなる。水面はもう見えない。見えなくなるくらいに、深くまで来た。

少女   :この階段、また長くなったわ……

『一寸先は闇』、この言葉を具現化したような空間だが、この階段がこの先もずっと続いていくのをなんとなく肌で感じる。水中とはいえ、息ができない訳ではないため、この闇がどこまで続いても少女が死ぬことはない。しかし、だからこそ、少女は心底この空間がとてつもなく怖く、苦手だった。

少女   :私、どこまで行っちゃうんだろう。
      戻ってこられるよね?大丈夫、大丈
      夫……そうだ、歌でも歌いましょ
      う!大〜きなそ〜らを、眺めた〜
      ら♪ーー

少女は独り言で己を鼓舞して、不安を紛らわせようと試みた。それでも、不安は虚しく育ち続け、少女の心を蝕んでゆく。

少女   :も〜、マリーどこなの?早く出てき
      てよ。私、マリーのために今頑張っ
      てここまできてるのに……!マリー
      はいっつも私のこと変に勘繰って、
      せっかく私が優しくしても、仇で返
      すみたいで。嫌になる。マスター
      も、私がこの階段苦手なの分かって
      るはずなのに、私が断れないのをい
      いことに押しつけたのかしら。マス
      ターってたまにそういう所あるわよ
      ね。

ついに、少女の足が止まった。

少女   :……もう、やめようかな。

足を止めると、辺りは悲しい静謐に包まれた。元々周りは見えなかったが、より一層、暗闇が纏わりつくようで、体は鉛のように重くなった。もう、目を開けているのか、閉じているのかさえ分からない。感覚という感覚が麻痺したように、何も感じなくなった。ただ、思考だけが頭の中で渦を巻いて、言葉だけが漏れ出して止まらない。

少女   :何も、私がやらないといけない訳
      じゃないでしょう。もう十分頑張
      ったわ。こんな地下深くまで潜る
      マリーが悪いんだから、何が起こ
      ってもあの子の自業自得よ。

違う。そうじゃない、そんなこと思ってない。マリーがこの空間を大切にしてるの知ってるのに。

少女   :こんな空間があるから洪水なんか起
      こってご主人様が苦しむのよ。

違う。マリーはご主人様のことを本当に大切にして、この場所も愛してるの。私は知ってる。だから私はマリーのことがーー

少女   :マリーなんか嫌いだわ。いなくなっ
      ちゃえばっ……

ーー好きなのに。

少女   :ぃ……ぁ……

人形   :……へえ、そっか。そう思ってたん
      だ、エミカ。

少女   :ーー!!

振り返らなくとも、長年連れ添った二人の間には声音だけで十分だった。


聞かれてた。

人形   :まあでも、そう思ってるんだろうな
      って思ってたからそんなに驚かなか
      ったわ。逆に、いつもいい子ちゃん
      で本音なんか聞くことないと思って
      たから、聞けて嬉しかった。

少女   :ち、違うの……私ーー

人形   :いいよ無理しなくて。エミカは
      優しいから、あたしのためにフ
      ォローしようとーー

少女   :フォローじゃない!あれは本音でも
      ないし、ただ、口が勝手に……!

人形   :ふ〜ん、口が勝手に、ねえ。

少女   :本当なの!お願い……信じて。

人形   :お願い……か。分かった、信じるよ。

少女   :マリー!

人形   :でも、どうせならもっと上手くやっ
      てほしかったな。

少女   :え?

人形   :口が勝手に動くってことは、心の底
      ではやっぱりそう思ってたんじゃな
      いの?結局本音じゃない。

少女   :そんなっ……!違う、嘘よ!

人形   :でもあたしは本音だったと思う。普
      段は素直なのに、こういう時は頑な
      なんだね。

少女   :なんでそうなるのよ!

人形   :あんた、いつも可愛いよ。素直で人
      当たり良くて、素直でさ。あんたの
      言うことはいつも正しいよね?誰か
      らも愛されるあんたはさながら物語
      のヒロインだわ。

少女   :私、そんなんじゃないわ。そんな綺
      麗な人じゃない。分かっててわざと
      言ってるでしょ、マリーの意地悪!
人形   :そうだよ。あたしは嘘つきで意地悪
      なの。あんたと違ってね。あんたは
      あんたが思ってる以上に澱みがなく
      て根っからのヒロイン。私は対局の

      悪者。

少女   :それじゃ、私がマリーを悪者にした
      みたいじゃない!

人形   :何か間違ってる?

少女   :……!?

人形   :そう、あんたがいるからあたしは
      悪者なの。あなたが善良であれば
      あるほど、あたしの邪悪さが際立
      っていくわ。エミカがいい仕事を
      している証拠ね。

少女   :だったら、あなたの言うことは間違
      ってるわ。

人形   :どこが?

少女   :マリーは悪者じゃない。マリーを悪
      者にした私こそが、本当の悪者だ
      わ。

人形   :っ……
少女   :今まで、どうして気づいてあげられ
      なかったのかしら、私……
人形   :そういう、無意識に上から目線なの
      も本当に不愉快。

待って、なんで今それ言ったのあたし!?

人形   :でも、ばかな人間はその上から目線
      に気づかず、優しくていい子で仕草
      が可愛いだけですぐ気に入って!気
      を許したところであたしが入ってい
      くと、みんな飽きたみたいな、冷め
      たみたいな顔して。誰も本当の意味
      でご主人様を好きにならない!

止まれ。あたしの口、止まれ!

人形   :こんな計算尽くしな女に騙されて期
      待しすぎるからガッカリするのよ!
      あんたのせいで、エミカのせいで、
      ご主人様はずっと寂しいままなんだ
      わ!

お願いだから。これ以上エミカを傷つけないで。私の大好きなーー

人形   :大っ嫌い。

大好きな……

人形   :大っ嫌いよ。あんたなんか、エミカ
      なんか、いなくなってしまえばっー
      ー!

少女   :ーーごめん!

少女は人形の言葉を遮って、彼女の口を手で押さえた。

少女   :ごめんね、マリー。言いたくないこ
      と、言わせてごめんなさい。その、
      私のことが嫌いって言葉、言いかけ
      た言葉、本当にあなたが思ってるこ
      と?それだけ、落ち着いて聞かせ
      て。

人形   :……本心よ。

違う。思ったことがない訳じゃない。でも、いつもじゃ、今もそう思ってる訳じゃないわ。

少女   :……そっか。

少女はそう言うと、優しく人形を抱きしめた。そしてゆっくり続ける。

少女   :でも、本当はずっとそう思ってる訳
      じゃないんでしょう?分かるよ、分
      かってるよ。私だってそうだもの。
      確かに、私もさっきあなたについて
      いっぱい言ったけど、いつもそう思
      ってる訳じゃない。あなたも同じな
      んじゃない?

人形は少女の抱擁に応えて彼女の肩に顔を埋め、ゆっくり頷いた。

少女   :ふふっ、やっぱりそうだった。これ
      は決して悪いことじゃないと思う
      の。お互いのことが大好きで、ずっ
      と一緒にいるからこそ、嫌いになっ
      ちゃったりすることもあるんじゃな
      いかしら。それでもずっと好きなん
      だから、これはきっと絆の証よ?だ
      からね、もうそんな苦しそうな顔し
      て泣かないで。私、マリーの笑顔が
      一番好きだわ。

少女は指で優しく人形の涙を拭った。人形は少し照れたように、嬉しそうに、口元に笑みを浮かべた。

少女   :ほら、やっぱり。マリーは笑顔がよ
      く似合うわ。
人形   :……ありがと。

少女   :こちらこそ、素敵な笑顔をありがと
      う。

この空間の暗闇が薄くなったわけでも、浸水した水が引いたわけでもないが、この二人の周りの空気は暖かい光に包まれたように、優しかった。

少女   :さて!マリーとも会えたことだし、
      浸水の元になってる穴を見つけない
      と!

人形   :書斎にあるんでしょ?あたし、多分
      知ってる。

少女   :本当!?心強いわ。早速いきましょ
      う!

人形   :うん。こっちよ!

二人は暗く、長い階段を駆け降りていった。

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    そう、距離感って大事だと思うのです。最近、実感したりしてなかったりするのですが。。
    皆さんのパーソナルスペースってどのくらいですか?私はある程度の距離を保ってた方が心地よいタイプの人間です。なのに、何故か私が仲良くしている人達ってパーソナルスペースがバカ近くて、そして何故か不快じゃなかったりするのですよ。何故でしょう、今世紀最大の矛盾です。
    私の話ばっかりでごめんなさいね?私はある程度心を許した関係で、更に距離も近くなると、つい無意識的に執着してしまうきらいがあるのです。それなのに、どこかのタイミングでちょっと限界が来て避けたくなる。面倒くさい人間ですね〜矛盾だらけです。
    というわけで、人との距離を見直していきたい今日この頃。色々調べて、距離感の掴み方の一例を知ることが出来ました。
    会って最初に、握手をし、一歩後ろに下がる。そして、相手の出方を探るのだそうです。その相手が近づくか留まるか、はたまた更に遠ざかるか。最終的な距離が自分と合うかが大事ですね。

    今回の命題は『矛盾』ですかね。好きだからこそ嫌いになることもある。これって多分、その嫌いになった人や分野との距離感を見直して、より好きになるチャンスなんじゃないかなって個人的に思ったりしています。そう上手くいかないこともあるでしょうが、今まで好きだったことが嫌いになったら、一度離れて、きっとまた戻りたくなるから、その時戻ればいいんですよね。まあ、それが仕事だったらそうも言ってられませんが。。

    色々ありますが、矛盾してたっていいと思いますよ。だって、人間らしいじゃないですか。人間自体が矛盾だらけなんですよ。

    ここまで読んで頂き、ありがとうございました。心像劇場は果たしてどんな形で進んでいくのか。こんな長編になってしまうとは、思ってもみなかった。でも、まだ続きます。
    どうか、最後まで応援していただけたら嬉しく思います。それでは。

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