introduction 〜心像劇場〜 (ⅲ)
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作 :骨髄
ジャンル:幻想、ファンタジー
名目 :小説風、脚本風
大分手長くなっております、分割しました第三話、どうぞよしなに。。
第1話>>https://note.com/kotucotu_z552151/n/n1e9c99d074aa?sub_rt=share_b
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青年 :しかし、そうですね。なぜ彼女が泣
いていたのかは、気になるところで
す。お話、聞かせていただけません
か。
客人 :ええ、私も気になることがあります
ので。ーー
***
薄暗い廊下に足音が響く。ここには風の声は届かず、静けさは、より人形を孤独にした。
人形 :情けない。みっともない。
人形は突き当たり、古い木製のドアの前に立ち止まり、ブロンズのノブを捻る。
人形 :あれじゃ、構ってくれと言っている
のと同じじゃない。
ドアが閉まると、狭い部屋は暗闇に包まれた。人形は手探りでランプのスイッチを入れる。
人形 :かまってちゃんは嫌われる。甘った
れるな。悲劇のヒロインになっちダ
メ。
人形は本棚から一冊のノートを手に取り、奥の机に向かった。机の上にもいくつものノートが積まれ、辛うじて空いたスペースはインクで薄汚れている。脇には卓上鏡、メイク道具が脇にころがって、まるで何用の机なのか分からないくらいに混沌としていた。
人形 :悪者を作るな。悪者は、
人形は机と対の椅子に腰かけ、鏡の中の自分に目をやって、目を眇めた。
人形 :私ひとりで十分でしょーー
鏡の中の人形は醜く、こわい笑みを浮かべていた。
***
青年 :ーーなるほど。
青年に背中を預けられた背もたれがその重みに、ぎ、と鳴く。
客人 :一体、あのノートは何なのです?そ
れにあの子、人形なのですよね。な
ぜ、あんなに人間らしいのですか?
青年 :そうですね……どこから説明するのが
良いか……
少女 :まずは私たち、自己紹介が先じゃな
い?きっとまだなのでしょう。
青年 :確かに、それもそうだね。
青年が勢いよく立ち上がると、椅子はまた、ぎ、と乾いた音で鳴いた。
青年 :自己紹介が遅れてしまい申し訳あり
ません。私はこの劇場の総括をやら
せて頂いている、しがない青年でご
ざいます。
少女 :私たちは彼のことマスターって呼ん
でるの。ここのことは彼が一番よく
分かっているからね。「マスター」
って、かっこいいでしょう?
青年 :ははは、やめてくれよ。そしてこの
娘はエミカ。うちのいわば看板娘で
しょうか。
少女 :よろしく。
青年 :そして、さっきの人形がマリー。少
し難しい子ですが、心根は優しいん
です。
少女 :あんなに悲しそうな顔、久しぶりに
見たわ。あなたのせいよ。
青年 :エミカ。
客人 :すみません……
青年 :あ、いえ……
少女 :次はあなたの番よ。
客人 :そうですね。私はーー
言葉が、喉につかえたように出てこない。客人は、この時初めて、自分が自分の名前を思い出せないことに気がついた。顔から色が失せていく客人に、青年はまだ使っていない自分のカップに紅茶を入れ直して、客人の冷めた紅茶と交換し視線で勧めた。冷めた紅茶のティーカップを手に取り、備え付けの流しに向かって歩きながら、青年は話を続ける。
青年 :……この劇場について、お話ししまし
ょうか。
客人 :え……
青年は紅茶を流しに捨てて、カップを軽くすすぐ。
青年 :このノートが一体なんなのか、お尋
ねになりましたよね。これは、この
劇場の主人の心像を記録したものな
のです。
客人 :しんぞう……
青年 :簡単に言うと、記憶や直感……その人
の中を巡る思念のようなものです。
少女 :ドキドキする方だと思った?
そう言った少女は無邪気に客人の胸に人差し指を当てて、いたずらっぽく笑った。その笑顔は非常に少女らしく、可愛らしかった。
客人 :しかし、心像を記録するなんて、ま
めな人もいるものですね。
青年 :いえ、これは誰かが記録しているも
のではないのですよ。
少女 :毎瞬間、常に新しい記録が追加され
て、ページが足りなくなったら勝手
に新しいノートが増えていくの。
客人 :か、勝手に……なぜ?
少女 :なぜって、簡単じゃない。ここはご
主人様の“心の中“なんだから。
客人 :こ、ころの中……って、どういう
青年 :そのままの意味ですよ。この場所自
体が、主人の心の中で、私を含め
皆、お客様も、主人の心の中に存在
する心像なのです。
客人 :私もですか。
青年 :ええ、ここにいる間はそうでしょ
う。ただ、過去にお客様のように外
から中に入ってこられた方がいらっ
しゃらなかったので、お客様はそう
いう意味で特殊な存在ではありま
す。
客人 :ああ、それで私にどうやってここに
辿り着いたのか聞いたのですね。
青年 :そういうことなんです。
客人 :なるほど。すみませんが、どうやっ
てここまできたのか、私にもさっぱ
りなのです。
少女 :あら、大変じゃない!それって、帰
り方の手がかりも無いってことでし
ょう?
客人 :……!確かに。
青年 :困りましたね。きっとお客様にも帰
る場所があるでしょうに。
少女 :仕方ないから、しばらく一緒に暮ら
すしかなさそうね。
客人 :申し訳ないですが、ご厄介になる他
なさそうです。
青年 :そうですね。……主人なら何か知っ
ているでしょうか。
少女 :あり得なくは無いけど、次はいつ来
るかしら。
客人 :もうしばらくいらっしゃらないので
すか。
青年 :ええ。不定期にふらっと現れては、
近況報告をして、少々くつろいだ
ら、いつの間にかいなくなっている
のです。
少女 :私はよくご主人様とエチュードをや
るの。私もご主人様の分人の一つだ
から、とても気があうわ。
青年 :それは良いことだけどね、エミカ。
使った小道具は元の場所に戻しても
らわないと困るよ。
少女 :はーい。
客人 :「分人」?ですか。それって……
少女 :うーん、そうね……強いて言うなら
“顔”かしら。
客人 :顔……
青年 :例えばですが、お客様、あなたは今
私たちとお話ししていますが、口調
は気の知れたご友人とお話しする時
の口調と同じですか?
客人 :それは、同じようにはなりません
よ。
青年 :そう、お客様は今、所謂“外面“と
言う顔を使ってお話しされているの
です。これが、あなたの分人のうち
の一人です。
客人 :なるほど。……と言うことは
少女 :そう。私はご主人様の分人の一人
で、“ソト“をやっているの。マスタ
ーは、“理性“だっけ?
青年 :はい。
客人 :すると、さっきのお人形さん……マ
リーさんはどんな分人なんですか。
青年 :あの子は“ナカ“です。おそらく、私
たち三人の中でも最も苦しい役をや
っている、少々難しい子なんです。
客人 :そうなんですか……。
なんとなく理解した。明るく優しくて可愛らしい“ソト“と、悲壮感を纏い儚げな人形の“ナカ“。ここまで対照的な分人を抱える「主人」とは、いったいどんな人物なのだろうか。客人の思考に、また好奇心が顔を覗かせる。
話が途切れた。なんとも言えない気まずさが、普段は使わないミルクに手を伸ばす。紅の中に白いジョーゼットが広がっていった。
客人 :あのーー
ーープルルルルッ
突如、内線電話が鳴り響く。青年が受話器を取り、暫くすると顔色を変えた。
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全然関係ない話ですが、皆さんはちゃんと寝床で寝ていますか?
私は近頃、帰りが遅くなることが多く、疲れ切り冷え切りで、コタツに一直線なのです。そして、寝落ち。。もちろん寝た気もせず、夕食もろくに食べないので機嫌最悪の目覚めです。風呂入らねば、身支度せねば、時間は無いわで、大わらわ。
流石に家族ともギスって危機感を感じたので、今日からちゃんとしようと思います。今日は帰ったらまず風呂に入り、コタツでは無いテーブルで夕食を食べます。
皆さんも、お風呂とご飯と寝床だけはしっかりなさってください。人間としての生活リズム、崩れると代償は大きいです。これさえ出来れば、後はどうにでもなりますよ!!多分っ!!
では、また。
第4話>>https://note.com/kotucotu_z552151/n/n61ba381b2db7?sub_rt=share_b