さよなら赤木さん(あるいはかけがえのない友との記憶)
赤木和文さんという最高の友人・音楽仲間がいる。
昨年12月に急死されたということを、つい数日前に知った。
赤木さんと初めて会ったのは、たしか2017年1月だったと思う。渋谷WWW Xのエルメート・パスコアルの来日公演で、開演前にフロアをうろうろしていたら突然「あの、琴さんですよね!」と声をかけられた。
え、誰? と思っていたところ「ショビシュバで琴さんがやってたカエターノ予習会めっちゃ行きたかったんですよ〜」とのこと。どうやらショビのカナミさんのSNSでぼくのことを知っていたらしかった。
(カエターノ予習会というのは、2016年のカエターノ・ヴェローゾ来日の際に「予習会」と銘打ってカエターノフリークの輪島祐介先輩と催したカエターノ崇拝イベントです。懐かしい。)
その時はそれぐらいのやり取りだったかと思うが、なんやかんやSNSで繋がり、岡山在住の南米音楽好きだということがわかり、その後はいろんなところで顔を合わせるようになった。フットワークの軽い人だった。
最初にがっつり一緒に飲んだのは、2017年6月の岡山蔭凉寺でのフアン・キンテーロ&アンドレ・メマーリのライブの後だったと思う。ライブ後に赤木さんに「プチパイン」という素敵な飲み屋に連れて行ってもらい、そこでたくさん音楽の話をして、とにかく楽しく飲んだ。
その日のライブが人生で何本かの指に入るぐらいの素晴らしいライブだったこともあって、当日大阪に帰ろうと思っていたのに終電を逃し、赤木さんがオススメしてくれたホステルに宿泊した。
次の日の日曜に月に一度の「京橋朝市」という大規模な朝市が開催されるから、そこで朝ごはんを食べるのがいいですよとオススメしてくれた。
赤木さんはとにかく、色んなことを「オススメ」してくれる人だった。
昔、Amor Maiorという、ラテン界隈では割と名のしれた日本語サンババンドがあり、ぼくは大学4年生のときにそのバンドのギタリストに抜擢されて活動していたのだが、赤木さんはAmor Maiorのファンだったそうで、その話でもめちゃくちゃ盛り上がった。
それからというもの、岡山にライブを見に行くことになったときは、必ず赤木さんに連絡して、0次会に誘ったりしていた。いつも仕事が忙しい人で、0次会にはいけないけど岡山の店を紹介しますね!と言って、お気に入りのお店をレコメンド文つきで何軒もオススメしてくれた。
音楽だけでなく、文学も好きな人だったから、岡山の書店や好きな作家・詩人もオススメしてくれた。赤木さんが教えてくれた「スロウな本屋」という岡山の書店は、ぼくのフェイバリッド本屋になった。
2019年10月にコトソシアルクラブのライブをやった時は、わざわざ大阪まで観にきてくれた。打上げまで最高に楽しすぎて、赤木さんは帰れなくなって、バンドネオンの清川くんの家に収容されていた。岡山でも是非ライブをやってほしいと言ってくれた。
気になったライブがあったらどこまででも観にいく人だった。心底音楽が好きな人なのだなあと思ったし、そういう意味ですごく信頼できる人だった。赤木さんとは何時間でも素直に好きな音楽について語り合えると思った。こんな風に思える人はなかなかいなかった。
赤木さんと一緒に観たライブは、全部最高だった。最高なライブを観にいったときには、決まって赤木さんがそこにいた。
年齢はぼくよりもだいぶ上だったと思うのだが、どっちが先輩なのかわからないぐらい慕ってくれて、ちょっとした時に連絡してきてくれる、心底かわいい先輩だった。いつも屈託のない笑顔を見せてくれる人だった。
ぼくもそんな赤木さんが大好きで、ライブ会場で赤木さんを見かけたときは、よくツーショットでセルフィーを撮っていた。ぼくがそんなことをする人は、赤木さんしかいなかった。
いつもライブで会う人だったから、コロナ禍になってからは全然会えなくなっていた。そんな中、2021年11月にワインの写真とともに「プチパインでナチュールおじさんの代役やっております」とメッセージが来た。唐突すぎて笑ってしまったが、いいですねーまた絶対飲みましょうね!と返信した。相変わらずかわいい人だなと思った。
そのやり取りが最後になった。
赤木さんがなんで死んでしまったのかは知らない。でも、色んな音楽人が赤木さんを悼む言葉をSNSに寄せていて、やっぱり根っからの愛されキャラだったんだなと思う。どれもこれも赤木さんぽいエピソードで溢れていた。どこまでも控えめで、ものすごく人懐っこい人だった。
友人だった期間は数年ぐらいだし、実際に会った回数も知れているけど、人生の友だと、仲間だと、心から言える数少ない人だった。
もっと音楽の話をしたかったし、もう一度ぼくの演奏も聴いてほしかったなと思う。とてもさみしい。
赤木さんからオススメしてもらった岡山の店でまだ行けてないところはたくさんある。次に岡山に行ったときは、全部行こうと思う。
全部行って、毎回しつこく献杯しますからね。
赤木さん、覚悟しといてくださいよ。