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そこに10円があったとき

ある日、電車に乗ると10円玉が座っていた。
誰も座らない1席を「遠慮のかたまり」
と言うのだと以前友人に教えてもらったことがある。
「この場合は?この場合も遠慮のかたまりなの?」と思わず友人に聞きたくなる。

他の席は人が座って埋まっている。
私はその席に背を向けて立ったものの、
10円玉の席には誰か座ったのだろうか、
と気になり横目で確認してしまう。

乗ってきた人は空席だと思い、席に近づく。
そして、茶色い円形の先客を見て
座るのを諦める。
電車が駅につく度にそれを繰り返した。

強者現れず。
10円玉をどかして座る人はいないのだ。
私は勝手に結論づけて、少しの間目を閉じた。

そろそろ降りる駅である。
私は目を開けて、何気なく例の席をみた。


す、座ってる!!人が座ってる~!!
あぁ、
なぜ私は目を閉じてしまっていたのか!

この時の私の顔はマスクをしていても分かる
滑稽な表情だったに違いない。

その席には女子中学生が座っていた。
席の付近に10円玉が落ちてる気配はなかった。

10円玉をどかして座ったのか、
他の誰かが10円玉をそっと閉まったのか。
または10円玉に気づかず座ったのか。
私は色々想像をふくらませた。

私と同じ駅で女子中学生は電車を降りた。
立ち上がったその席は空席になった。

10円玉の行方がわからないまま、
私の短いミステリー列車旅は終わった。

たしかなことは、
誰かが10円玉を持ち去ったということだ。

真実はひとつ!!(言いたいだけ)

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こつぶ
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