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日本人陸上女子短距離選手が世界で戦うためには
どうも、こつぼです。
私は陸上競技が好きで、私自身も陸上競技をやっていました。男子は短距離種目でも世界で戦えつつあるというかようやく背中が見えてきましたが、女子選手については短距離という括りでは全く歯が立たないというのが現状です。
そこで「なぜ?」が生まれました。
3つの質問をしたところ活路を見出せそうな回答を得られたので、記事という形で共有します。
質問①
陸上競技短距離の日本人女子選手においては高校でピークを迎え、大学に行っても高校時代の記録が更新できない、実業団に行っても高校時代の記録が更新できないという事例が散見され、大学、実業団で自己ベストを更新するというのは、全競技者の中では多くありません。逆に外国人選手は20代後半にかけて一気に記録が伸びていきます。この結果、競技力として世界とは全く戦えません。20代以降、日本人選手と外国人選手で何が違うのでしょうか?
回答①
日本人女子短距離選手が高校でピークを迎え、その後自己ベストを更新できない一方、外国人選手は20代後半にかけて記録を伸ばし続ける。この違いの背景には、以下のような要因が考えられます。
1. トレーニングの成熟度と長期的な育成戦略の違い
(1) 日本の育成システム:高校での早熟化
• 日本の高校スポーツは 「インターハイ至上主義」 の傾向が強く、高校時代にピークを迎えるようなトレーニングが主流。
• 短期的な成果を求めるトレーニング(スピードや持久力を伸ばす反復練習、限界に近い頻度での高強度練習)に偏りがち。
• 技術・筋力の伸びしろを残さず、高校卒業時点で「ほぼ完成された選手」になり、大学・実業団で伸びづらい。
(2) 外国の育成システム:長期的な成長を重視
• ジュニア期(10代)では基礎的なフィジカル強化を優先し、スプリント能力のピークを20代以降に持っていく設計。
• 段階的なウエイトトレーニングやスプリント技術の習得を重視し、成長とともにスピードの最大値を引き上げる。
• 例えば、アメリカやジャマイカの選手は大学(NCAA)時代に本格的なスプリント能力開発を行い、20代後半にかけて記録を伸ばし続ける。
2. ウエイトトレーニングとパワー強化の差
(1) 日本の選手:トレーニング強度の不足
• 日本では 女子選手のウエイトトレーニングが十分に普及していない。
• 高校時代に一気に成長し、スプリント能力が向上するが、その後の 筋力・パワーの伸びが止まる。
• 特にスタートや中盤の加速局面を改善するための筋力強化が不足。
(2) 外国の選手:本格的なウエイトトレーニングの導入
• 外国人選手は スクワット・デッドリフト・クリーンなどの高強度ウエイトトレーニング を徹底。
• 20代以降も筋力が向上し、それに伴ってスプリント能力も継続的に向上。
• 例えば、エレイン・トンプソンやシェリー=アン・フレーザー=プライスは 20代後半でパワーが最大化 し、記録を更新している。
3. スプリント技術の進化と適応の違い
(1) 日本の選手:高校時代のフォームを維持しがち
• 高校時代の成功体験が影響し、技術的なアップデートが少なくなる。
• 特に ピッチ型(回転数重視)の走りを続ける選手が多く、ストライドを伸ばす改善が遅れる。
• 20代以降の体力変化に適応しづらく、記録更新が止まる。
(2) 外国の選手:加齢とともに技術を進化させる
• よりダイナミックなストライド、地面反発を最大化するフォームに進化。
• 例えば、シェリー=アン・フレーザー=プライスは、20代後半からフォームを修正し、ストライドを伸ばして自己ベストを更新。
• 日本の選手が「維持しよう」とするのに対し、外国の選手は「進化させよう」とする違いがある。
4. 大学・実業団環境の違い
(1) 日本の大学・実業団:競争環境の緩和
• 日本の大学・実業団は 競技を続ける環境としては恵まれているが、競争のレベルが相対的に低い。
• 高校時代ほどの強い競争意識が薄れ、伸び悩む選手が増える。
• 特に女子は実業団に行くと「仕事+競技」の両立が求められ、競技に専念しづらい。
(2) 海外の大学・プロ環境:競争の激しさが違う
• アメリカのNCAAは 大学時代が「本当の戦い」で、20代以降のキャリアの成否を決める時期。
• ジャマイカでは 20代以降もトップ選手同士の競争が激しく、常に成長が求められる。
• 競争環境が強く維持されるため、選手が継続的に進化しやすい。
5. 遺伝的・ホルモン的な要因の違い
• もちろん 身体的な違いも影響 している。
• 外国人選手(特にアフリカ系)は、筋線維の構成やテストステロン値の違いから、20代後半でもパワーを伸ばしやすい。
• しかし、これは 「改善できない要因」ではなく、「適切なトレーニングで克服できる部分」も大きい。
• 実際、日本人男子選手は20代以降も記録を伸ばしており、女子選手だけが伸びない理由にはならない。
結論:日本女子短距離の成長を止めないために
✅ 高校時代の早熟型育成から、長期的成長を見据えた育成へ
✅ ウエイトトレーニングを体系的に導入し、20代以降の筋力向上を促す
✅ スプリント技術を20代以降も進化させる(ストライドを伸ばすなど)
✅ 大学・実業団でも「競争環境」を強化し、成長を継続できる仕組みを作る
日本の女子短距離が世界と戦うためには、 「高校時代にピークを迎える」育成から、「20代以降に本格的に強くなる」育成へとシフトする必要がある。
質問②
回答ありがとうございます。今後も日本はインターハイ至上主義というのは変わらないと思います。そして高校年代で「完成された選手」となると思います。しかしながら今回の回答で日本人女子選手が世界で戦う答えが出たような気がします。
①大学進学はより競争力の高いアメリカの大学を視野に入れる
②高校、大学で本格的なウエイトトレーニングを導入する
こちらが世界で戦うためには最適解でしょうか?
日本の大学もインカレ等がありますが、「競争力」というよりも指導者の「指導力」による部分も差が大きいですか?
確かに日本人女子選手はトップ選手でも短距離選手とは思えないくらい線が細いです。
回答②
まさに、日本人女子短距離選手が世界で戦うための 最適解の一つ が見えてきたと思います。
結論:世界で戦うための最適解
✅ ① 競争環境の激しいアメリカの大学進学を視野に入れる
✅ ② 高校・大学で本格的なウエイトトレーニングを導入する
この2点が実現すれば、日本人女子選手の成長曲線を 高校ピーク型から20代後半ピーク型へと変える ことが可能になります。
① 競争環境の激しいアメリカの大学進学を視野に入れる
なぜアメリカの大学なのか?
• NCAA(全米大学体育協会)は世界トップレベルの競争環境。
• アメリカの大学に進学した選手は、ジャマイカやカナダ、ヨーロッパのエリート選手と日々競い合うことになる。
• NCAAは インカレとは桁違いのレベル であり、競争の中で伸び続けられる。
• トップクラスの指導者に学べる
• 日本の大学の指導者よりも、短距離で結果を出している プロフェッショナルなコーチ陣 が指導。
• アメリカの大学コーチは スプリント技術やウエイトトレーニングの最先端 を常にアップデートしている。
• プロへの道が開かれる
• NCAAで活躍すれば、ナイキやアディダスなどのスポンサー契約、プロリーグ参戦 などの可能性も広がる。
日本の大学 vs. アメリカの大学
競争環境
日本の大学
限定的(インカレレベル)
アメリカの大学
世界トップレベル(NCAA)
指導レベル
日本の大学
指導者によるバラつき大
アメリカの大学
最先端の科学的指導
トレーニング
日本の大学
個人差が大きい
アメリカの大学
科学的なウエイト・スプリント指導
進路の可能性
日本の大学
実業団 or 引退
アメリカの大学
プロ契約・国際大会出場のチャンス
💡 日本の大学で4年間を過ごすと「競争環境」に乏しく成長が止まりやすい。
💡 アメリカなら「世界基準の競争とトレーニング」で更に伸びる可能性がある。
② 高校・大学で本格的なウエイトトレーニングを導入する
なぜウエイトトレーニングが重要か?
• 日本人女子選手は 高校時点でスピードが完成されるが、パワーの伸びが止まる。
• 一方、海外のトップ選手は20代後半まで筋力を伸ばし、スプリント能力を向上させる。
• スプリントは「パワー×テクニック」の競技。 高校時代に技術が仕上がっても、パワーが伸びなければ頭打ちになる。
日本人女子選手が線が細い理由
• ウエイトトレーニングの文化が根付いていない。
• 男子に比べて、女子は「筋トレ=ムキムキになる」という誤解が未だに根強い。
• 実業団に行っても筋力強化を継続しない選手が多い。
• 海外のトップ選手は 30代までしっかりとウエイトを取り入れているが、日本の選手は20代前半でやめるケースも多い。
世界と戦うために必要なウエイトトレーニング
💪 短距離向けウエイトトレーニングの基本
1. スクワット(バックスクワット・フロントスクワット) → 下半身のパワー向上
2. デッドリフト → ハムストリングと臀筋の強化
3. クリーン(クリーン&ジャーク) → 瞬発力強化
4. ヒップスラスト → スプリント時の地面反発を最大化
5. スプリントドリル(ハードルドリル、ソリプッシュ) → ウエイトとスプリントを連動
💡 これらを「高校」「大学」と段階的に取り入れ、20代後半までパワーを伸ばせば、世界と戦える体になれる。
その他の要素:「競争力」 vs 「指導力」
① 日本の大学は「競争力」より「指導力」に依存しがち
• 日本の大学スポーツは 「競争があるから強くなる」よりも、「優れた指導者のもとで強くなる」要素が強い。
• そのため、指導者に恵まれなければ、伸びる可能性が低い。
• 一方、アメリカの大学は 「指導者が優れている+競争が激しい」ので、自然と成長する仕組み になっている。
② 日本の実業団は「競争力」が弱い
• 実業団の多くは「企業チーム」のため、アスリートとしての競争よりも、仕事との両立が求められることがある。
• 大学→実業団と進んでしまうと、アスリートとしての成長が止まりやすい。
• アメリカの大学を出てプロになった選手は、競争の中で生き残るため、成長し続ける環境に身を置ける。
まとめ:日本人女子選手が世界で戦うために
✅ ① 高校ピークではなく、20代後半にピークを持っていく戦略をとる
✅ ② 競争環境の高いアメリカの大学(NCAA)への進学を視野に入れる
✅ ③ 高校・大学で科学的なウエイトトレーニングを導入し、パワーを伸ばし続ける
✅ ④ スプリント技術を20代以降も進化させる(フォーム改善、ストライド拡大)
✅ ⑤ 実業団よりも、競争環境の厳しいプロや海外リーグを目指す
💡 「高校ピーク型」ではなく「20代後半ピーク型」に移行することが、世界と戦うカギ!
質問③
答えが出ましたね。ありがとうございます。
海外選手の実績や、日本人選手でいうと福部真子選手のようなスプリンターの身体を作った選手が結果を出しており、「パワー×スキル=スピード」という公式があり、論文もあると思います。それなのにインターハイの決勝を見ても日本選手権の決勝を見ても福部選手以外は線が細いです。徹底的にスプリントドリル、走り込みはしますが、なぜウエイトトレーニングは浸透していないのでしょうか?
回答③
まさに「答えが出た」といえる考察ですね。
「パワー × スキル = スピード」 の公式が成り立つ以上、日本女子短距離選手の 線の細さがパフォーマンスの限界を生んでいる ことは明白です。
しかし、日本ではウエイトトレーニングが浸透していません。その理由を考えると、いくつかの「文化的・歴史的・認識的な壁」があることが見えてきます。
日本でウエイトトレーニングが浸透していない理由
① 「ウエイト=ムキムキになる」という誤解
• 「女子が筋トレするとゴツくなる」という固定観念
• 特に女子選手は「スプリンターはしなやかな筋肉が必要」という 誤解 によって、ウエイトを避ける傾向がある。
• 実際には、トップスプリンターは 筋肉量が多く、適切なウエイトトレーニングでパワーを引き出している。
• 福部真子選手は、正しいウエイトの結果「スプリントに最適な体」を作った代表例。
💡 世界のトップ女子スプリンター(フレーザー=プライスやシャカリ・リチャードソン)はウエイトをしっかり取り入れている。それでも「ムキムキ過ぎる」とは見えない。
② インターハイ至上主義と「短期的成果」重視のトレーニング
• 高校の指導方針が「短期間での結果」を求める
• 高校では 「インターハイで勝つ」ことが最大目標 になり、長期的な育成が軽視される。
• ウエイトは即効性がなく、時間がかかるため、高校指導者が積極的に取り入れない。
• 結果として、スプリントドリルや走り込みばかりに偏る。
💡 海外では「20代後半のピーク」に向けてウエイトを取り入れるが、日本は「高校で結果を出すためのトレーニング」になりがち。
③ 指導者の「知識・経験不足」
• ウエイトトレーニングを正しく教えられる指導者が少ない
• 「陸上の指導者=スプリント技術には詳しいが、ウエイト指導には詳しくない」 という現状がある。
• 例えば、正しいスクワット・クリーンの指導ができる陸上コーチは ほぼ皆無。
• 結果として 「フォームが悪くてケガをするならやらない方がいい」という発想に陥る。
💡 海外では「ストレングス&コンディショニングコーチ(S&Cコーチ)」がウエイト指導を担当するが、日本ではその文化がない。
④ 日本の陸上競技における「伝統的トレーニング哲学」
• 「スプリントドリルと走り込みが最強」という固定観念
• 日本では昔から「走り込みで鍛える」という文化が根強い。
• 一方、海外のスプリンターは ウエイトでパワーをつけ、スプリント技術を最適化するアプローチをとる。
• しかし、日本では「パワー × スキル」の公式が浸透していないため、走ることだけでスピードを伸ばそうとする指導が主流。
💡 「スプリントはパワーが重要」とは理解されつつあるが、「じゃあウエイトをしよう」にはなっていない。
⑤ 実業団に行っても「継続的なウエイトトレーニング」がない
• 実業団では 「仕事+競技」の両立が求められるため、トレーニング時間が限られる。
• その結果、「時間がないなら走り込みを優先」 という流れになり、ウエイトが軽視される。
• 海外では 「プロスプリンターはウエイトトレーニングが必須」 という認識があるが、日本ではそれが確立されていない。
💡 大学・実業団でもウエイトを継続する選手が増えれば、日本女子短距離の成長曲線は変わるはず。
今後、日本女子短距離にウエイトを浸透させるには?
① 科学的根拠をもとにウエイトの重要性を広める
• 「パワー × スキル = スピード」という公式を、論文やデータで証明する。
• 福部真子選手の成功例 をもっと発信し、結果が出ることを示す。
• 海外のトップ選手の 「トレーニング内容(ウエイト・スプリントの組み合わせ)」 を日本の指導者に伝える。
② 「S&Cコーチ(ストレングス&コンディショニングコーチ)」を普及させる
• 陸上の指導者がウエイト指導をするのではなく、専門のS&Cコーチが指導する体制を作る。
• アメリカでは 陸上コーチとS&Cコーチが分業 しているが、日本ではS&Cコーチの文化がない。
③ インターハイを超えた「世界基準の競争環境」を作る
• 高校ではなく 「大学 or プロ」でピークを迎える仕組み」に変える。
• アメリカの大学(NCAA)での競争環境を活用し、ウエイトトレーニングとセットで成長させる。
結論:ウエイトトレーニングは日本女子短距離の「ブレイクスルー」になる
日本女子短距離が世界と戦えない理由は 「高校ピーク型の育成」「競争力不足」「ウエイトトレーニングの欠如」 にある。
しかし、ウエイトトレーニングが浸透すれば、20代後半ピーク型へと成長曲線を変えられる。
✅ まずはウエイトトレーニングを「常識」にすることが急務
• 科学的データの発信
• S&Cコーチの導入
• 「スプリントはパワーが重要」という意識改革
ウエイトトレーニングが当たり前になれば、日本の女子短距離は世界と戦える時代が来る。
補足
ウエイトトレーニングの代表格であるBIG3とスプリントパフォーマンスの関係をまとめたものがこちらです。
陸上競技の短距離選手にとって、爆発的なパワーを発揮するためには、ウエイトトレーニングの「BIG3」であるベンチプレス、スクワット、デッドリフトの向上が重要です。具体的な数値は選手個々の体格やトレーニング状況によって異なりますが、以下の情報が参考になります。
1. デッドリフトとスプリントパフォーマンスの関係
Swintonら(2014年)の研究によれば、体重あたりのデッドリフト1RM(一回の最大挙上重量)が高いほど、30mスプリントタイムや垂直跳びの記録が良好であることが示されています。具体的には、体重あたりのデッドリフト重量と30mスプリントタイムとの相関係数は-0.82と高く、30mスプリントパフォーマンスの約60%がデッドリフト重量で説明可能とされています。 
2. ベンチプレスとスプリント加速の関連性
熊野ら(2018年)の研究では、ベンチプレスの1RMが高いほど、18.29mの走タイムが速いことが報告されています。また、藤瀬ら(2018年)の研究では、ベンチプレスとスクワットの1RMが100m走の記録と有意な相関関係を持つことが示されています。 
これらの研究から、短距離選手にとってベンチプレス、スクワット、デッドリフトの筋力向上がスプリントパフォーマンスに寄与する可能性が示唆されています。ただし、具体的な数値や有名選手のデータは公表されていないため、個々のトレーニング状況や目標に応じて適切な負荷設定とトレーニングを行うことが重要です。
今回3つの質問をした結果、答えが出ましたのでまとめます。
・ウエイトトレーニングをしよう
・アメリカの大学に進学しよう
ただし後者は圧倒的な競技力があることが前提で、さらに語学や学費の壁があるので「誰しもが」という選択肢にはなりません。最近では中距離でダイヤモンドアスリートの澤田結弥選手がアメリカの大学にいきましたが、女子短距離では聞いたことがありません。
ですので、小学校高学年からから少しずつウエイトトレーニングを実施してベースを上げ、圧倒的な競技力を手に入れることでアメリカへの道が開けそうです。
身体能力という才能、努力し続けられる才能、環境、指導者、全てが揃って初めて開ける道かなと思います。本当に一握りですね。
小学校高学年からウエイト!?って思いましたよね。私も思いました。そのあたりを解説した学童期のウエイトトレーニングについての記事はこちらです。