児童養護施設入所児童の当事者心理を学ぶ(その1)
家庭引き取りをについて
児童養護施設で暮らしている児童の心の中(当事者心理)がもし、覗けるならばそこにはどんな想いがあるでしょうか。想像してみてください。
私は複数の児童養護施設職員と自立援助ホーム長の経験が通算約25年間、加えて2歳から高校卒業までの約16年間を児童養護施設で生活した当事者体験があります。合計およそ40年以上の施設職員及び施設生活経験者になります。その経験を基に施設入所児童の心の中を占めていることの最大のものは何かを考察してみたいと思います。
それは「僕は(私は)いつ家庭に戻れるの?いつまで施設にいなければならないの?」という疑問と不安と期待が圧倒的に多いということになりそうです。
近年、我が国の社会的養育において「家庭的養育推進」が国や各自治体の政策基本方針にありながら、なお被虐待児や軽度発達障害児等の受け皿としての実践現場における施設養護の重要性は多くの改善すべき課題を抱えながらも認めざるを得ない現状にあるように思います。
ところで実に不思議なことに、例えば施設入所前の家庭生活の中で、ひどい虐待を受けた児童が、意外にもそのような「家庭」や「親元」に戻りたがる事実があるのです。(但し、この傾向は小学校低学年以下に顕著であるが高学年以降になるになると減少傾向になるが…。)これこそ「親子関係」の摩訶不思議な現象の1つではないでしょうか。
さて児童養護界では「家庭引取り」のことを「家族再統合」という専門用語を使います。これを施設職員は児童相談所の児童福祉司や児童心理司と協働・連携し、特に施設では「家庭支援専門相談員=FSW=ファミリーソーシャルワーカー」と称する専門職が配置されており、「家庭引取り」=「家族再統合」が促進される仕組みになっています。近年では里親支援専門相談員の配置も実施され、かつての「施設」か「里親」かという二項対立の解消を図る動きが進行しています。
ところで、家庭引取りが本人の希望通り実現したとして、それでケースが一件落着!めでたし!めでたし!となれば幸いですが、残念ながら不調になる事例もあるのです。その場合再び元の施設に戻れるか?と言えばそうはならないのです。施設を退所し家庭引取りが本格的になれば学校でも施設でも「お別れ会」などが行われ、そのために本人は「出戻り」を望まないこともあります。その結果別の施設入所になる事例があります。
ところが野球やサッカー、ドッチボール、卓球などの施設対抗試合で元の施設仲間とばったり再会することがあるのです。その時のやり取りはなかなかシビアな現実に直面することになります。「家族再統合」のためのアセスメント(情報収集と分析・考察、事前・事後評価)の的確さは極めて重要で、家庭引取りが必ずしもその子のゴールとはならない現実があるのです。それ故に家庭引取り後の「見守り」と「継続的な支援」(アフターケア)が必要になるのです。
和光大学講師 市川太郎
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