三十路の上海留学 1日目後編~2度聞く言葉は3度聞く~

 毎日が激動過ぎて昨日の出来事なのにどんどん忘れていく。急いで日記にしないと。

 物理楼で学生登録をするというので地図を嘗め回すように確認したが物理楼が存在しない。あとあと知ったが、地図ではそこは格致楼と言うらしい。

 学生登録はボランティアの生徒で構成されているようで、国籍もバラバラ、来た人に案内をするでもなく放任主義。
 QRコード付きの看板がドン!と置いてあって、それを読み込むと自分の顔とバーコード、それから学生登録の手順が書かれたページがでてきた(各項目、処理が終わるとチェックを入れられる仕様になっているようだが、担当者によってチェックを入れる入れないがマチマチなので学生登録が終わっても未完了項目があるのが気になった)。

 第一部の学生に入学通知やらを手渡すと、居留許可?の書類がないと言われる。
 半年留学では関係のない書類なので、ひたすら「我的留学是半年!半年!(私の留学は半年です!半年!)」を繰り返す。なんとかなる。
 
 第一関門を越えると、呼ぶから好きなところに座って、とアジア人に流暢な中国語で言われる。思わず日本語が抜けない私が「どこでも?あ、everywhere?」と問うと、「あっ、ドコデモ!大丈夫です」と言われる。日本人だった。
 超久しぶりに日本語を使ったのか、彼女はまさかのカタコトの日本語で返してきたので、目指すべきレベルを見て壁の高さに失望した。

 そこからは特に面白いこともなく、強いていうなら、学校について即日登録に来たのは珍しいようで、パスポートを見た学生に「今日到着したの?太辛苦(まじでお疲れ様)」と半笑いで言われたくらい。
 
 学生登録を済ませ、最後はクラス分けの筆記試験。日本にいたときに面接は既に済ませており、この面接と筆記試験のレベルでクラスを決めるらしかった。
 
 あんまり面接は話せなかったんだよな…。日本人は筆記試験得意だって言うし、筆記試験の点数が高すぎて、実力以上のクラスに決められたらどうしよう…。
 そんな風に思いながら入室した。

 先生に渡されたのはA4両面刷り1枚。
①文章の1部(1単語)がピンインになっていて、それを漢字で書く問題。
②複数の選択肢と、選択肢と同じ数用意された文章、要は選択式の穴埋め問題。
③単語を1語与えられて、文章を作る問題。
④一段落程度の文章を読んで、設問内容が文章に合っているかどうかを答える○✕問題。

 ①と③は一文字たりとも書けず、②は選択肢を使いきる形だったからギリギリ回答が出来、④はなんとか回答できた、その程度。

 えっっっっっらい難しい。分からん。

 先生は「面接であなたは3-1(数字が高いほど高レベル)と思ったけれど、もしかしたら2-3が良いかもしれない」と言われる。まさかのまさか、筆記試験でレベルを落とされるという快挙(笑)。
 「这个考试很难吗?(試験難しかった?)」という先生の笑顔に「太难了(くそほど難しかった)」と食い気味に答える。

 先生は一応、クラスを選ばせてくれるようで、「2-3が良いと思うけど、いい?」と問われたので、「私はHSK4级を持っています。2-3はHSKでいうと何級ですか?」と聞くと、「HSK5級相当」とのこと。「それなら2-3でいいです」と答えてクラスが決まった。
 ※ちなみにHSK4級は一年前に取ったので、本来HSK5级はそろそろ受かっていないといけない時期なのだが、まあそこはご愛嬌。5級は出国前に受験したが、多分落ちている。1ミリも听力(リスニング)が聞き取れなかった。

 これで手続きは全て終了。
 同じ階で銀行のカードを作れるようで、その教室に入る。
 「まだ中国の電話番号を持っていないのですが」というと、「まずは電話番号!下の階!」と追い返される。

 階段を降りると、待ち構えていた3人のうち、恰幅の良いおばさんに捕まり「电话号码(電話番号)?!」と捲し立てられる。
 彼女は中国电信のキャッチで、他二人はおそらく中国移动などのキャッチだったのだろう。
 ポケモンですら最初のポケモンを悠長に選ばせてくれるというのに、中国移动を契約したかった私は流されるまま中国电信を契約していた(気づいたのが手続き後だったのが間抜けすぎる)。唯一悠長に選ばせてくれたのは電話番号の数字の羅列で、吟味して3番目の候補を選んだ私が言うのもなんだが、ぶっちゃけ数字は何でもいい、そこじゃない。

 規約を読む間もなく、契約は渡され示される箇所に名前を書くだけの簡単なお仕事である。ちなみに銀行口座開設も光の速さでそのように処理されるので、借金の保証人に指定されたとしても気がつかないと思われる。
 
 さて、学生登録にSIMカード契約、銀行口座開設、ここまでを怒涛の勢いで終わらせた私だが、実は死ぬほど喉が渇いていた。
 日本から支付宝を登録していたものの、日本のクレジットをひも付けたために、ワンタイムパスワードを求められるもSIMカードを一時的に香港SIMに変えたせいでワンタイムパスワードが記載されたSMSが届かないというトラップ。

 超キャッシュレス社会の中国において、寮の1階に飲み物を買う自販機はあったが、もちろん現金など使えない。そして支付宝を使えない私は決済方法がなくて完全に詰んだのだ。
 日本の保安検査で水を飲み干し、飛行機で一杯のコーラを飲んで以来、一滴も水も食べ物も摂取していない。荷物など既にパンパンなので、日本から食べ物飲み物の類いを詰める隙間はなかった。

 今日ご飯食べられるかな…。ご飯は食わなくても生きられるけど、水はさすがに摂取しないと死ぬよな…。でも中国って水道水飲めないらしいし…。煮沸したら飲めるのかな…。
 おおよそ学生登録の間に考えていたのはこれだ。このとき、実質8時間程度飲まず食わずだった。

 寮への帰り道、寮から格致楼の間にはスーパーがあるので、外にいたお姉さんにダメ元で「現金使えますか?」と問う。戸惑うお姉さんに代わって、店内のレジ係のおじさんが「使えるよ!」とこちらに向かって叫んでくれた。
 
 正直めちゃくちゃ安心した。
 死因 : 水不足、あるいは死因 : ワンタイムパスワード、になるところだった。
 迎驾山泉という2.5リットルの水を値段だけで選択。ちなみにこれ、後味が微妙で個人的にはくそまずかった。
 さらに店の端に置かれた便所サンダルみたいなスリッパを物色していると(部屋がザラザラなので裸足で歩けない)、店員のお姉さんが「没有✕✕?没有✕✕?(没有=無い)」と話しかけてくる。
 「听不懂…(分からない)」と答えたら、彼女は手招きでレジ前に誘導してくれ、そこにはいくつかの種類のスリッパと、プラスチックのコップがあった。
 思わず笑顔になってお礼をして、水とスリッパ、プラスチックのコップ、カップラーメン2個を買う。

 さて会計。
 まあ分かるでしょう、123.5元の買い物、私はまた200元を出す。
 「…細かいのある?」
 現金使えるよ!と言ったおじさんがそう聞いてきた。もう慣れた。
 「没有」そう言うと、隣のレジと合わせて無理矢理お金をかき集め、なんとおじさんはきっちりお釣りを用意した。
 渡された20元札は、端がちぎれている上に、雨のなか野ざらしにしたんかというくらいびしょびしょに濡れていた。

 寮に帰宅。学生登録でもらった袋の中に、でっかい月餅が二つ。
 その1つを食べて終了。

 シャワーを浴びようと蛇口を捻る。待てども待てども水。いや、厳密には真夏日のプールの水のような、そう、ぬるい。ぬるい水。
蛇口には左が赤、右が青の丸いシールが貼ってあって、それ以外は何もない。
 日本と中国だと色の概念が違うのか?と半信半疑で、左に向けていた蛇口を右にしてみる。なにも改善せず。当たり前体操。

 全裸のままシャワーを出て、部屋内をくまなく探す。全てのスイッチを押したが、全部どこかしらの電気のスイッチで、給湯器的なものは何もない。
 えっ…これがお湯?
 触れて飛び上がるほど冷たくはないものの、冬に浴びたら心臓が止まりそうな水である。
 そそくさとシャワーを浴びて、フロントに言うか悩んだが、疲れに押し負けてそのままベッドで爆睡した。
 
 これが上海生活一日目である。
 カルチャーショックが止まらない。笑

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