三十路の上海留学24日目

10月2日(水)上海留学24日目

 本日は、昼食を一緒に摂っているBL好きのインドネシア人・安に誘われた魔道祖師のなんちゃらに行く。

 前日、私は彼女に「明日何時?」と連絡をした。
 彼女からの返事は「lobby」「1点(1時)」。
 私は一人電車に乗り、1時に上海静安大悦城のある駅に降り立った。

 地下鉄内は、コスプレイヤーやウィッグだけつけた私服の人、痛バッグの人など、まるで国際展示場へ向かうゆりかもめのような様相で、この日は魔道祖師の期間限定ポップアップショップへ行っただけなのだが、「魔道祖師のイベント」=「同人誌即売会」と勘違いしていた私は「これが中国のコミケってやつね・・・!」と駅のホームに降りたのだ。

 駅直結の上海静安大悦城、たしかにエスカレーターやガラス扉は魔道祖師ラッピングがされているのだが、明らかにエスカレータを上った先は普通の商業施設である。

 幕張メッセか国際展示場を想像していた私は「結構規模が小さい・・・?」と感想を抱いたが、もちろん同人誌即売会場ではなくポップアップストアがある建物なのでただの商業施設で相違ない。

 なんと形容すべきか、その建物内は池袋をギュッと圧縮したような建物であった。
 より大衆化されたようなアニメイトみたいな店がたくさん入っていて、それ以外にもこの日は魔道祖師・葬送のフリーレン・エヴァンゲリオン・あとなんか良く分からない女性向け作品のポップアップストアなんかもあった。

 コスプレ自由なのか建物の1階にはイチャイチャパラダイスを読むカカシ先生と7班の生徒たちだとか(ちゃんとカタカナでイチャイチャパラダイスと書いてあった)、鏡の前で髪型を直すアスカとマリだとか、もちろん魔道祖師の蓝二哥哥と羡羡コンビ、江澄もいた。

 国慶節も相俟って、人が多いどころの話ではない。

 私は安に「到了~。我在南座L1(ついたよー。南棟1階)」と連絡をする。「OK。蜂(一緒に昼食をとっているもう一人のインドネシア人)はしばらく来なさそう」と返ってくる。
 蜂が授業開始とともに教室にいるところを一度たりともみたことがないので、別段驚きもしない。

 しばらくして、「你在哪儿?(どこにいる?)」と来たので、唯一辺りを見回し知っている中国語の店を見つけて「Xiaomiの前」と返すと、彼女から彼女のいる場所の写真が送られてきた。

 ネタバラシをするなら、安の考えていた集合場所は寮の1階で、彼女の送ってきた写真は寮1階のロビーの写真だったのだが、私はなぜかそれを「この建物のサービスカウンターか」と解釈して建物内をぐるぐる歩き回る(絶妙な角度で撮られた写真だったのと、彼女もこの建物にいるものと思っていたのでさっぱり気づかなかった)。

 歩き回れど見つからないので、「え、どこ?南棟1階?」と再度連絡すると、「あー・・・寮!」と返事がありようやく勘違いに気づく。

 もう一人一緒に遊ぶロシア人の丽もまったく同じ勘違いをしたようで、安から「ごめんwww Lobbyとしか言わなかったからかwww丽もそっち行っちゃったから合流して!」と言われる。
 私はまったく同じ勘違いをした丽と合流した。

 丽とはまったく話さないわけでもないが、別段そこまで仲が良いわけでもないので正直集合前は気まずいな、と思っていた。
 そもそも私は自分の听力にたいしてまったく自信がなかったし、ロシア訛りの中国語を聞き取れる気がしなかったのだ。

 人は多かったが、彼女のザ・ロシア人な外見はひときわ際立っていて、彼女と合流するのは容易かった。
 合流した彼女は葬送のフリーレンのポップアップストアのショッパーを持っていて、「1万円も買っちゃった。でもいいの、これは弟と妹へのニューイヤープレゼントだから」と笑いながら言った。
 最近そこそこ中国語の听力の勉強をしているからか、平易なその文章を聞き取るのは難しくなかった。

 私はすでにこの建物を回っていた丽に連れられて、様々な店を一緒に冷やかした。
 家庭教師ヒットマンREBORNだとか、テニスの王子さま、東京リベンジャーズ、呪術廻戦、ブルーロック。私の世代ドンピシャ作品から、すでに追えていない超流行りジャンルまで各日本作品のグッズだらけ。
 懐かしさに購買意欲そそられるものの、日本円のラベルのうえに貼られた1.5倍の中国元の値札を見て、手にとっては戻しの作業を繰り返した。
 買うにしても帰国後でいいな、これは。

 コスプレイヤーのコスプレ傾向を見ても、この建物内に占めるアニメグッズの量を見ても、日本のマンガ文化は本当にすごい。
 いずれも7割ほどは日本の作品だ。
 そもそもこの留学に来て以来、「日本人」と聞いて日本語を披露してくれる子の大半はなんと言っていたか。
 「アニメで覚えた」と言っていた。

 別に自分はまったく貢献していないが、だとしても日本のマンガカルチャーを実際に肌で感じた日であった。

 さて、1時50分、安到着。
 「蜂があと20分くらい来ない・・・」という。
 蜂!!!!!
 14時過ぎ、別段申し訳なさそうにするでもなく蜂がやってきて、四人で魔道祖師ポップアップストアに入った。
 魔道祖師は一切履修していなかったが、かわいいなと思ったグッズをひとつ買った。
 いま勉強机に飾っている。

 その後はエヴァンゲリオングッズを見に行ったり(壁に貼られたポスターにカタカナもかいてあるのに漢字は全部簡体字になっているのがおもしろかった)、葬送のフリーレンストアにいったり、食事をしたりした。
 道中、コスプレイヤーがOKをくれれば一緒に写真を撮ってもらうことも可能なようで、安は魔道祖師の蓝忘记&魏无羡、蜂はナルト、丽はハイキュー!!、私はSPY×FAMILYのロイド&ヨルと写真を撮ってもらった。
 SPY×FAMILYも履修していなかったが、ロイド役の人の背が高すぎて写真を撮ってもらった。

 我々の会話はほぼ中国語(時おり私を除いた三人は英語を使うこともあった)、気を抜けば話がまったく分からなくなる緊張感のなかで、なんか結構聞き取れたし話せた。

 普通に楽しかったし、普段学校からは金沙江路駅から地下鉄に乗っているのだが、彼女らが(彼女らも私と同じ寮)寮からならこっちの方が近いよ、と別の地下鉄駅を教えてくれたりした。

 めちゃくちゃ楽しかった。

 最後に、この日驚いたことは、ポップアップストアの入り口に、よそで買った飲み物を置くラックがあって、飲み物は持ち込み禁止なのでみんなそこに置いて、店を出たらそこから回収するシステムなのにビックリした。

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