手相鑑定 碌々堂へようこそ⑥
第6話 ステージにいるのは神様?それとも魔物?
今宵は満月。
夜の空をひときわ明るくしている。
ろくは駅前にいた。
ホットコーヒーを手に持ち
愛猫のミャーと
長髪の男と一緒に
あるストリートミュージシャンの
パフォーマンスを
温かく見守っていた。
あれは、
一年前のことか。
ろくが鑑定を終え
ふらりと駅前を
歩いていると
力強いギターの音と
繊細な歌声が聞こえてきた。
そこではストリートミュージシャンが
歌っていた。
か細い女の子。
地べたに腰を下ろし
あぐらをかき
小さいランタンを灯し
パフォーマンスをしていた。
いつもは気にも留めないのだが
ろくは彼女の歌に
吸い込まれるように
足を止め その世界観に
入り込んでいた。
3曲ほど
彼女のオリジナルの歌を聴き
気付くと周りには20人ほどの人が
拍手をしていた。
ミャーが
大きな拍手に驚き
走り出した。
「ミャー!」とろくが叫ぶと
ミャーの体がふわり。
彼女が抱き寄せてくれた。
「ごめんね。おどろいたね。
もう大丈夫だよ。」
あまり人に寄り付かないミャーが
彼女には体を許していた。
「どうも。すいません。
この子あんまり人に懐かないのですが
あなたには心を許している。
きっと心の綺麗な方なんでしょう。」
ろくがそう伝えると
「ほんと?うれしいー!
心がキレイかー。
なんさ見透かされてるみたい。」
彼女がニコッと笑いかけた。
「ミャーのお礼に
少し両の手を見せていただけませんか?
私、手相鑑定を嗜むもので。
鑑定してみましょう。」
「えー!?
お兄さん 占い師さんなの?
すごーい。
どうかな?
私、プロのミュージシャンになれるかな?」
「どれどれ。
ほう!あなた、太陽線がありますから
スターの才能がありますよ。」
「ほんとに?
やったね!
お世辞じゃない?」
「鑑定でウソはいいません。
でも、少し、心が弱いですね。
落ち込みやすい性格で
緊張しやすいですね?」
「すごい。当たってる。
私、緊張しいで
それを克服するために
こうして路上で歌ってるの。」
「そうですか。
うん!音楽の才能は抜群。
何よりあなたの歌は
心を惹きつけますからね。
頑張ってくださいね。」
そう言って
彼女に別れを告げ
家路につきました。
それから、
次の新月の日。
ろくのもとに
ある男がやってきました。
長髪ですらっと高い身長。
見たことある顔。
歌手の Kenjiだった。
ひと昔まえ、
バンド スターズで
大ヒットを飛ばしたが
最近はとんと顔を見なかった。
「こんばんは。
ここの占いの評判を聞いて。。
占ってもらえますか?」
低音ボイスのいい声で彼は話した。
「もちろん。鑑定させていただきます。
初回は1万円 2回目は5万円
3回目は10万円いただきます。
それでもよろしいですか?」
ろくがそう聞くと、
「えぇ。お願いします。」と、
一万円札をろくに渡した。
「て、今日のお悩みは?」
ろくが聞くと
「これからの自分がわからないんだ。
歌は歌っていたい。
だけど、この時代。
この歌を歌う楽しさを
伝えていきたいと思うように
なってきたんだ。」
「なるほど。
では、手を見せていただきましょう。
うん。Kenjiさん。
あなたの歌は本当にいい。
ライブ昔ね、一度、
見させていただいたことがあります。
かっこよかったなー。」
「それは、うれしいね。
俺には神がついているんだ!
ステージに上がる前
足がガクガク震えるんだ。
そして、手の中は汗で
びっしょり。
頭は真っ白になって
その時、
あぁ、今日もロックの神が
俺に降りてきたって思うんだ。
そうすると気づいた時には
パフォーマンスをして
客が沸いてるよ。」
「へーすごいですね。
Kenjiさん あなた
プロデュースの才能もありますよ。」
「ほんとうか!?
そうか。プロデュースか。
悪くないな。」
「そうだ!素人考えですが
1人歌を聴いてほしい子が
いるんですよ。」
「うん?
どんな子だ?」
「駅前の路上で歌っているんですが
歌もギターも上手いんですが
なにより彼女の声が
私の心には響きました。」
「ほう。君の心をね。
そりゃたいしたもんだ。
一度、きいてみたいな。」
「えぇ、多分彼女、
今夜も駅前で歌っていますから
お忍びで聞きに行ってみて
くださいな。」
「ふふっ。
まぁ、これも縁ってやつか。
行ってみるよ。
路上か。
懐かしいな。」
Kenjiのデビューは
路上で歌っていた時に
スカウトされたことがきっかけだった。
自分の思い出が重なったのか
彼は駅前へと向かっていった。
半年後、
コンビニに入ったろく。
そこには路上で歌っていた
彼女が雑誌のカバーになっていた。
Kenjiプロデュース
akariデビュー。
"月夜の雫"が
大ヒット!
2人は縁という
不思議な力で
結ばれたようだ。
akariという名前は
日本中に広がっていった。
もともと、
顔立ちも良く
路上から出てきた
シンデレラガールは
一気にスターへの階段を
登り始めた。
だか、
akariは
テレビにもライブにも
出ることはなかった。
ただ、ただ、
歌が発売されるだけ。
ミステリアスガールは
たくさんの関心を集めた。
ろくがコンビニをでて
店へと向かうと
そこにはKenjiが立っていた。
「おぉ!
わりぃな。
ちょっと顔貸してくれ。」
Kenjiがろくにそう言うと
車の扉を開けた。
「えぇ?
Kenjiさん
今日はお店を開ける日なんですよ。」
「わかってる。
ギャラは払うから
少しだけつきあってくれ。」
Kenjiの強引な誘いに押され
ろくは車へと乗り込んだ。
ミャーもピョンと乗り込んだ。
Kenjiは扉を閉め
車を出した。
20分ほど走って
とあるビルに着いた。
ビルには
ピースミュージックと
書いた看板があった。
Kenjiとakariが所属している
レーベルだ。
ビルの中へ入り
スタジオへと連れて来られた。
そこにはakariがいて
ひとりうつむいていた。
それをスタッフが
心配そうに見ていた。
「こりゃーすごい。
レコーディング現場なんて
初めて見ましたよ。」
ミャーを抱きながら
ろくはKenjiに行った。
「おぉ。それより
akariの話を少し聞いて
あげてくれないか?
あいつ歌は本当に光るものを
もっているんだ!
ただ、ライブに出るのが嫌だと
言うんだ。テレビもダメ。
ミステリアスでここまで
引っ張ったが
akariのステップアップのために
やはり人前に出したいんだ。」
Kenjiはろくに話した。
「わかりましたよ。
では、彼女と2人にしてください。」
ろくがそう言うと
Kenjiは
「わかった。」と頷き、
別部屋を用意した。
ろくが待っていると
akariがはいってきた。
「お久しぶりです。
ご活躍ですね。」
ろくがそう言うと
akariは
無表情で一筋の涙を流した。
そして、
ゆっくりと話し始めた。
「ろくさん。
私、人前に出るのが怖い。
路上の時とは大違い。
たくさんの目が私を見てる。
私を待つ歓声が聴こえると
体がビクッととなるの。
足はガクガク震えて
手の中は汗でびっしょり。
頭が真っ白になって
もうダメだっておもうの。
ステージには魔物がいるのよ。」
「そうですか。
もともと、あなたは
メンタルが強くないですから。
いきなり多くの人の目に
晒されて心が壊れてしまったのですね。」
「私、もう、歌うのが怖い。
Kenjiさんの期待には
応えられないの。
どうしたらいいんだろう。」
「わかりましたよ。
では、手におまじないの線を
書きましょう。
ラッキーフィッシュです。
このお魚があなたを助けてくれます。
ただ、壊れた心を戻すには
もう一度、路上で歌ってみませんか?
あなたの原点はあの駅前ですから。」
「路上か。
うん。ろくさんやってみる。
そうね。次の満月!
月のスポットを浴びて
私歌うよ。」
「何も心配ありません。
ステージには魔物なんていません。
これはね、あるロックスターに
聞いた話なんですが
あなたと同じように
ステージ前には頭が
真っ白になるんですって。
そうすると、音楽の神様が
降りてきたって思うらしいのです。
あなたにも神様が降りてきてる。
だから、歌う前に祈りを捧げて
みてはどうですか?」
「祈り。
それいいね。
私がこうしていられるのは
応援してくれる人のおかげ。
その人たちに感謝するため
祈りをしてから歌うわ!」
憑き物がとれたように
akariの顔は晴れやかになった。
Kenjiが入ってきて
akariの顔を見て
笑いかけた。
「akariどうだ?
歌えるか?」
「うん!
私、歌うよ。
でも、その前にあの路上で
もう一度だけ歌わせて。
ろくさんのアドバイスなの。」
「そうか!
路上か!!
わかった。
パニックになるから
シークレットでやってみよう。」
そんなやりとりがあり
今からまさに
akariがあの路上で
満月のスポットライトを浴び歌う。
観客は
ろくとKenji。
足早に家路を急ぐ人たちは
彼女が今をときめくakariとは
知らないだろう。
akariは
両手を合わせ
祈りを月に捧げてる。
そして、
目を開けて、
ギターを鳴らした。
akariが
歌い出したとたん
彼女が輝いたようにみえた。
ろくが
「女神だ。」と呟いた。
Kenjiが
「あぁ、女神が舞い降りたな。」
伝説が今始まったようだ。
おしまい。
手相ワンポイント
手にできるお魚のような線はラッキーフィッシュ。現れると幸運をもたらすお魚です。手に見つけたら大事にしてあげてくださいね。